クッキングパーティー
目の前には煌びやかな光景が広がっている。それは視るだけで涎が垂れてきてしまいそうな、美味しそうな料理の数々。
色鮮やかなサラダ、フライの盛り合わせ、スパイスの香りが立ち上るカレー、いろんなネタのお寿司、ふわふわのオムレツ、色とりどりのプチケーキ。他にも名前も知らないような料理が色々とある。なんていうかちょっとしたビュッフェの様だ。
「こりゃまた随分張り切ったな。わざわざ悪いな、大変だったろ」
仕事が終わり家に帰ってきたパパがそう言った。
「いえいえ、それに私だけではありません。千尋様も、千寿流ちゃんも、お嬢様も、それに皆さんも。全員で作り上げたものですよ!」
へー。と軽く流して席に着く。結局、あれからクッキングパーティをするなら、もう少し人数が多いほうが良いのではないか、という話になった。
ママに許可を取って急な呼びかけになってしまったものの、クラマちゃんの呼びかけには十人を超える数の子供たちが集まってくれた。少し窮屈ではあるが、机を合わせて何とか形を整えた。きっと、みんなのところも不安を拭い去りたいのかもしれない。
近衛家はあたしとパパとママの三人家族だ。普段ここまでの量の料理がテーブルに並ぶことはない。だから今日みたいな日は特別なのだ。
乾杯の音頭を取った後は、皆思い思いに箸を伸ばして料理を楽しむ。
お店で食べる美味しい料理も良いけれど、みんなで一緒に作って食べる料理にはまた別の特別な味がある。これって多分、お店じゃ一生掛かっても真似できない味だ。どんなに美味しくても再現できない、そんな味。
あたしのパパとママ、それに子供たちの笑顔と、賑やかな声が部屋中に響き渡る。あたしのよく知らない子もいたけれど、それはたぶん、あたしだけの問題だ。だから、向けられた笑顔に対して最高の笑顔で返す。
あたしたちは、お互いの笑顔を見合い、心の中の不安が少しずつ消えていくのを実感した。けれど、こんなに楽しい時間を過ごしながらも、まだ心の中には探してみたいという思いはある。
なんだろうな、この気持ち。
気になってる。昨日の事。
これって、あたしの我儘、なんだよね。そうだと思う。
なんであの子のことがこんなに気になるのか、あたしにもよく分からない。昨日、三日月館に落ちていた手紙。宛名も送り主も書いていなかった。けれど、あの手紙はあたしに向けて送られたものだという確信に近い何かを感じた。
理屈や根拠はない。そう思っただけ。
内容は物騒なモノ。手紙に穴が開いていたせいで何を伝えたかったのか、真意は解らなかったけど、警告に近いニュアンス。クラマちゃんはそう言った。
命を狙われる理由があたしにある?
そんなの考えたくない。
だからだろうか、直接会って問い質してみたいのだ。それはとても危険な行為。口籠るほどの後ろめたさがある。けど、心が、魂が訴えかけるんだ。いても立っても居られないって。
もしかしたら、危険な旅路のその先に、あたしが記憶喪失になっていた理由や、牢屋に入れられていたこと、その全てを知る答えがあるようで。
だから、意を決めて口に出そう。パパとママには、後でいい。まずはシャルちゃんとクラマちゃんだ。情けない話だけど、あたし一人でどうにかなるとは思えない。
「あのっ……」
声に出そうとしたその瞬間だった。
ワオォオォオォオォォーーーンッ!!
楽しいこの空間を壊すように、外にけたたましい遠吠えが響いた。




