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「千寿流ちゃん?」
「えひひ、ちょっとお散歩してくる!」
「い、いけません!外ではいつ魔獣と遭遇するのか分からないんですよ!」
「あ、うん。大丈夫だよ、庭を見て回ってくるだけだから。ちょっと外の空気を吸ってみたくなっちゃって」
心配そうな顔をするクラマちゃんに断って、エントランスを経由して庭園に向かう。その際にすれ違ったお手伝いのメイドさんにも挨拶する。ちなみにあたしの知らない人だった。いつも思うけどシャルちゃんの家は大きい。大きすぎるくらいに。
(お友だちをいっぱい呼んで、かくれんぼでもしたら楽しいかもしれない。いつかやれたらいいな)
そんなことを考えながら、館の中にいるクラマちゃんに見つからないよう、姿勢を低くして音の発生源を探る。
「っ!」
何かしらの気配を感じてパッと後ろを振り返る。誰しもが子供のころにやっただろう忍者ごっこだ。もちろん、千寿流に気配などを探れる能力があるわけもなく、当然誰もいなかった。
(うん、ついてきてないよね)
誰もいないことを確認してもう一度探索を始める。
(……少し焦りましたが、気づかれてはいないみたいですね)
魔獣の出現を懸念しているクラマにとって、千寿流から目を離すなど当然あってはならない事である。クラマは気配を完全に殺して、まるで影のように彼女の後方に付き従っていた。
(ん、なにこれ?もしかしてさっきの音はこれがぶつかった音?)
そこには毎日手入れのされている庭園には、あまりにも不自然な木の板が落ちていた。
(えっと、ただの木の板、だよね。何にも書かれてないし、変な形ってわけでもない)
もしかして、たまたま風に吹かれて飛んできた木の板が窓ガラスに当たったのだろうか。いや、今日の風はそこまで強くない。なら、木の板を咥えた鳥がこれまた偶々この場所で落とした、というだけだろうか。
どちらにせよあり得る話ではあるのか?不思議なこともあるもんだと思い、館に戻ろうとして立ち上がり、まだ何か白いものが落ちていることに気づく。
(紙、手紙かな?そんなに大きくない)
拾い封筒から取り出し、何重にも折りたたまれた手紙を広げてみる。
中身を見て、思わず手から落としてしまった。
「なんで」
手が震えていた。
心なしか呼吸も早くなっている気がした。
そこに書いてあったことが知りたかったことだからではない。むしろ知りたくなかった。何で、何でこんな事が書かれているのか、不思議でならなかったからだ。
理解できないわけじゃない、理解したくない、それだけ。
「なんで、こんなこと」
その様子にただ事じゃない雰囲気を察し、クラマが駆けつける。足元がおぼつかない千寿流の身体を支える様に抱き留め声をかける。
「何かあったんですか、千寿流ちゃん!」
へ、ああ、クラマちゃん。そっか、全部見られてたのか。全然気が付かなかったよ。やっぱりクラマちゃんはすごいなあ。クラマちゃんに弟子入りしたら忍者になれちゃったりするのかな。
「この手紙ですか?千寿流ちゃん、何が書いてあったのか、見ても構わないでしょうか?」
「う、うん、いいよ」
そこには黒いインクで――
「鏡に映るあの子は貴女の記憶と■を狙う」
――と殴り書かれていた。
記憶。あたしが失ったもの。それを狙う?どういう意味なのか。四角の部分は読めない、抉り取られるように破れてしまっていた。
狙うという単語から良い意味には捉えられない。順当に考えればここに入る文字で考えらえるのは「命」、もしくは「家族」「財産」「友だち」。
けど、開いているスペースは一文字分だけ。つまり「命」。
いや、「友」ということも考えられるか。もしそうであるならば星一朗が狙われたのにも理由が付く。けれど、精神が不安定に陥っている千寿流にそこまで考えられるだけの余裕はなかった。
だれが、何故、何のために。
何故あたしをここまで追い詰めるのか。
頭がどうにかなってしまいそうだった。




