探しに行きたい
ゆっくりと眼を開ける。どうやらあの後、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。ぐっすりと寝られることが出来たのだろうか。寝足りないと思うことはなかった。
時計を見る。短針が十一を指していた。結構寝てしまったみたいだ。周りを視る。シャルちゃんもクラマちゃんもいなかった。たぶん、眠っているあたしに気を遣って起こさないでいてくれたのかもしれない。
「ちずるー!ようやく おきたね!め さめたー!?」
立ち上がろうと腰を上げたその時、ちょうど扉を開けたシャルちゃんがあたしが起きているに気づくと、走ってきて飛びつくように抱きついてきた。そのまま倒れ込むように、もう一度布団にダイブすることに。痛くはないけどちょっぴり驚いた。
「えひひ、シャルちゃん、おはよう」
「うん おはよー!ちずるのねがお すっごく きもちよさそうだった!よく ねむれたんだね!」
そうだったんだ。やっぱり、クラマちゃんに抱きしめてもらったおかげかな。
「あさごはん どうしようかって はなしてたけど ちずるを おこすの わるいって はなしになって あさと おひる いっしょになっちゃった!」
「そうだったんだ。ゴメン、朝ごはん食べてないってことだよね?お腹空いてる、シャルちゃん?」
「うん!けど おなかすいてたほうが おいしいし ちずると いっしょにたべる ごはんのほうが もっと おいしいから もんだいない!」
満面の笑みでそう言い切るシャルちゃん。そんな笑顔で言われちゃ答えないわけにはいかないな。だから、あたしも精一杯の笑顔を作ってみせる。大丈夫、とりあえず、今日を始めてみよう。
「千寿流ちゃん、大丈夫ですか?もし少しでも気分が悪くなったら直ぐに言ってくださいね」
昼下がり、外をぼーっと眺めていたらクラマちゃんがそう話し掛けてきた。少し考え事をしていた。もしかしたらいつもより口数が少ないことを、体調が優れないと勘違いされてしまったのかもしれない。
「ねえ、クラマちゃん。ダメかな?」
「ダメ、とは何のことでしょうか?」
声色で何となく解った。あたしの考えていることは筒抜けなんだって。だってそういう時のクラマちゃんは怖いくらいに鋭くて、すごく優しいんだ。だから、訊ねてみる。
「あたしが今なに考えてるか分かる?」
「自分と同じ顔をしたフードの子を探しに行きたい。でしょうか?」
「うん、当たり」
自分でも無茶苦茶なことを言っているのは解っている。そもそもそのフードの子が何処にいるかもわからないのだ。
分かっていることといえば、まだ日中は少し暑いというのにローブの様な物を羽織り、顔をフードで隠しているということと、藤沢市のコンビニの近くで出会ったということ、そして、あたしと同じ顔をしているということだけ。
見た目は判断材料になるかもしれないが、いつもあの格好をしているというワケではないだろうし、肝心の場所に至っては銅像なんかを探すのならともかく、生きている人間を探すうえで、何の手がかりにもなっていないような気もする。だって、ずっと同じ場所にいてくれるわけもないから。
つまり、手がかりゼロ。見事に何もない。
「理由を聴かせていただいてよろしいでしょうか?そのフードの子を探しに行きたいと思った理由を」
そう言われて初めて気が付いた。なぜあたしはあの子のことを探しに行きたいと思ったのだろう?
同じ顔をした人間との偶然なる出会い。たったそれだけのはずだ。なのに、なぜあたしはあの子に会いたいと思ったのだろう。
「えっと、何でだろう?あたしにもよくわかんない」
別に今の生活に不満があるわけでもない。星ちゃんの死を受け入れた葬式では胸が張り裂けそうになったけど、あたしには家族がいる。シャルちゃんがいて、クラマちゃんがいる。いつでも会えるし、会いに行ける。
学校の授業は気軽に出歩ける状態じゃないし、学校はあんな状況だ。恐らく通信制になるだろう。
「私は、本心では千寿流ちゃんに付き合ってあげたいと思っています。お嬢様も千寿流ちゃんが頼み込めばきっと力になってくれるでしょう。けれど、それが本当に正しい事なのか、千寿流ちゃんの為になることなのか、分かりません」
「クラマちゃん」
「お嬢様の異能が効力を失った状態、夜深様の治癒の異能も無い、そんな状況下でこの世界を歩く事自体が危険すぎると思うのです」
その通りかもしれない。そんなことは身をもって十分すぎるほど理解したじゃないか。なんでそんな馬鹿げたことを言いだしたんだ、あたしは。
自分の中にある何か。自分もまだ知らない何か。
その声が囁くように、突き動かすように千寿流に問いかける。
その時、窓になにかがぶつかった音がした。




