横奪
「フン、あの質量の光線を放ったにゃ随分とコンパクトに収まってるんだな。どういう構造なんだか」
ジャージのポケットに手を入れたまま、目つきの悪い青年は人型の魔獣を見据えて呟く。その距離は十メートル弱。互いが存在を認識するには十分な距離といえた。
彼はこれまでいくつもの魔獣を屠ってきたものの、こういった手合いは初めての経験であり、眼前の異質と空気のひり付きを肌で楽しんでいた。
「アァ……ァ……」
魔獣が青年を認識し、対象を害するべき敵として捕捉する。人型の魔獣の攻撃にタメらしい“予兆”は存在しない。だから山勘で動く。
キィイィィイィ――――
刹那、口から照射される超密度のエネルギー光。当たれば人体など一瞬で蒸発してしまうであろうその脅威を、青年は寸でのところで躱す。
「ひり付くね、ビリビリだ。面白い、昼飯抜いて正解だったかな……ん?」
眼前にいた魔獣はすでに視界から消えていた。彼が目を離したのは光線を避けたほんの一瞬だったがその隙を突かれたのだ。
(疾いな、抜け目のないやつ。どこに行った?)
キョロキョロと辺りを見渡すがどこにも存在しない。既に興味を失ったのかあるいは。
(死角から攻撃しようってのか。知性のかけらも感じさせねえ盆暗かと思ったが闘いってのを良く分かってるな)
命を賭した殺し合いは勝負に入る前に勝敗が九割九分決まるといわれている。その所以たるが死角からの一方的な蹂躙だ。
死角からの攻撃は仕掛ける側が百パーセント有利となる特権がある。躱されたとしても位置を気取られない限りは二の矢三の矢と圧倒的有利なアドバンテージを保ったまま攻撃を繰り返すことが出来るからである。
(魔獣特有のあの濃厚な気配も消すことが出来るのか。器用なことしやがる。なら俺がとるべき行動は)
自身もビルの死角に姿を隠し、相手の行動を伺う事。そして、攻撃の来る方角を確認する。そう瞬時に答えをたたき出し駆け始めたその瞬間。
「!?」
空気を割く無機質な音と共に光線が走る。あらゆる障害を芥と薙ぐその超密度のエネルギー光が青年の今立っていた場所、心臓の位置する部分を寸分の狂いもなく穿つ。
「っは、容赦ねえな。面白え……っ」
魔獣が青年に向けて光線を撃ち出すよりも前に、駆けだしていたことが功を奏してか、心臓を穿たれることは無かったが、振り上げた右腕を肩の部分から全てを奪い去っていた。命に手がかかるその純然たる死の予感に青年は高揚する。
(だが今ので奴さんの位置は大体把握できたぜ。あとは追い詰めてぶっ潰すだけだ)
「あ、あの!」
「……あ?」
声をかけたのは狐耳の少女。さきほどの少女だった。
「お前ら馬鹿か、何で来やがった。自殺願望でもあんのか、あぁ?」
(いや、今は無駄話をしてる場合じゃねえ。ここは障害物が多い。早く追い詰めねえといつまで経っても鼬ごっこだ)
「っひ!?」
千寿流は肩から消失した青年の腕を見て小さく悲鳴を上げる。
「腕なら心配ねえ。一本飛んだぐらいでガタガタ騒ぐんじゃねえよ。まあ見てろ」
そういうや否や青年は駆け出す。青年はすでに人型の魔獣攻略の算段を付けていた。
あのエネルギー光は何も無尽蔵、無制限ってわけじゃない。もしそうなら隠れるまでもなく目の前の敵を殲滅するまで攻撃を続ければいいからだ。
エネルギー光照射の時間、インターバルにかかる時間はすでに頭の中に入っている。そして魔獣の敏捷性、習性も先ほど理解できた。
だから詰める。今度はとどめを刺すべく魔獣が次に位置取るであろう方角に駆ける。
「お兄さんいっちゃった ちずる どうする?」
「とと、とにかく行かなきゃ! あたしなんかが行っても足手まといかもしれないけど、あんな酷いことになって。あたし、ほっとけないよ!」
千寿流たちも遅れて青年の後を追う。すでに後姿を目視することも叶わなかったが、とりあえずの勘で追いかけることにした。




