思惑通り2
「おい何だコレは!?私は全く聞いていないぞっ!」
「いや、だからゴメンって。また耳寄りな話があったら持ち込んであげるからさ、今日はこの辺で、ね♪」
そう言いながら少女は両手を合わせ、首をかしげながら舌を出してウインクをする。自分の眉間に皺が寄っているのが鏡を視なくてもよく分かる。そんな仕草をされたって何も可愛くない。というか鼻につく。ムカつくだけだ。
「はぁ、どうせそういう答えが返ってくると思ったわよ。そりゃ、これって詐欺だもんね。けど、あんな額面、宝くじにでも当選しなきゃ視る機会ないでしょ?アナタはその時点で怪しく思わなかったの?」
「ああ。彼には金の当てはないのか?」
「ないない。そんなの無いって。だって、そもそもリオンくんそんなにお金持ちじゃないし、その金額だっていっぱいいっぱいよ。それに、そんなにお金があるなら、あたしも温泉街をまるまる貸し切って、悠々と誰にも邪魔されずに温泉を楽しみたいところよ」
少女は愉快そうにその場を行ったり来たり、身振り手振りを加えて大袈裟にジェスチャーを織り交ぜながら楽しそうに語る。その仕草が小馬鹿にされている様でイラついたが、ここは先を生きる大人として我慢をするほかあるまい。
「本当に疑いなし?」
立ち止まり上目遣いでこちらを睨む。
「っは、何を言うかと思えば。私は基本的に人を信用するようにしているのだ。おかしなことではあるまい?」
「えー、嘘くさいね。本当に本当?」
当然嘘だ。肉親、友人ならともかく、何の縁もない他人など信じるに値するわけがない。
“他人は信用せず、常に疑いの目を向けろ”
若い頃、私のメンターにも教えられた言葉の一つだ。仮に他人を信じているのなら、そもそも契約書など取り決める必要もないわけだしな。
「もちろん本当に本当だとも。私なりの礼儀の一つなのでね。それに嘘か本当かは重要ではない。契約書を取り決めたのだ。実印もしてある。当然控えもある」
「じゃあ、ひとつアドバイス。疑ったほうが良いわよ?」
「断る。何故、代理人の君に指図を受けなければならない」
「え?だってそれは――」
少女の指が微かに動いた気がした。
____来る。
そう思った。
「細く切れそうな人生っていう糸を守るための唯一の方法だからっ」
周りを見渡すと、私を囲むようにズラリと細い糸の様なものが視えた。それは月明かりを反射させ、透明のドームの様な形を露にする。
(糸遣い。これは十中八九異能だろうな)
契約が反故にされる。このケースは当然想定していた。借金苦になった背水の人間がとる行動なんていつだって決まっている。自己破産。それが出来なければ安易な犯罪、窃盗、強盗、殺人。人の寄り付かない丘を指定されたときに分かり切っていたことだ。
だから、念には念を。私の本体は森の中に隠してある。芸は無いがこれが私のやり方なのだ。これだけでここまで生き延びてきたのだ。
「へぇ、平静を装うのがお得意?ちゃんとアナタにも視られる透過度で作ってあげたんだけど」
「私は争いをしに来たわけではない。できれば穏便に事を済ませたい」
「それはあたしもよ。その契約書の通り。それで手を打とうって話なのだけど」
私の足元に落ちている、ゼロが何個も塗り潰された契約書を親指で指しながらそう言った。
何だコレは。平行線というやつか。どうにもこうにも私と彼女の間に強烈な温度差を感じてならない。足りないと言っているのが解らないのかこの女は。私が落ち着き払っているのがいけないのか。もっと激昂すればあちらも動揺してくれるのだろうか。
「君に何の権限がある。話にならないな。私はリオン君と契約を取り決めたのだ。契約が反故にされる以上、彼と直接会話をさせてもらう必要がある」
「ふう、頑固なのね、アナタも。いいよ、このスマホ、リオンくんと繋がってるから。直接話をつけて」
そう言いながら指を鳴らす。それと同時にドーム状に覆っていた糸が、ぱたりと重力に従うように地面に落ちる。次いでスマホを私の方に投げ捨てる様に放り投げた。
私はそれを空中でキャッチしようと手を伸ばす。その瞬間。スマホが解けるように目の前で爆発、否、炸裂したのだ。
ほら見たことか。他人など疑ってなんぼなのだ。




