サテライト
膠着状態が続く。倒しても倒してもきりがない。必殺の光が敵を穿ち肉薄にしても、後ろにいる男は禍言の様に詠唱を紡ぎ続ける。
次々と現れる魔獣を確実に処理する。狙いをつけ、動きを予測し、偏差撃ちを繰り返す。まだ動ける。けど、自分でも良く分からない。いつまで動けるのか、あたしにはその限界が判らない。
星ちゃんは言っていた。そんな奇跡の体現は長く続くことは無いって。
つまり、この異能には制限時間があるということになる。確かに、夜深ちゃんの異能や風ちゃんの異能もすごかったけど、この能力もすごいと思った。
だから奇跡。あり得ない現象。
そんな恩寵をリスク無しで享受しようなんてことがそもそも虫の良すぎる話なのだ。
もしかしたらこの能力が切れた時、何らかのフィードバックというか副作用があるのだろうか。たとえば、体中が痛み動けなくなるとか、寿命が縮むとか。そんなこと考えるだけで空恐ろしいが、それならば残された時間は多くない。
タイムリミットまでに戦いを終える!今はそれだけだ。
敵の数は多く、全てを捕捉するにはあたしの視野では少し狭すぎる。だから、あたしは意を決めて敵陣の真っただ中に突っ込む。頭より身体が先に動く。
あの日、病院の地下、自分の倍以上の大きさの魔獣に立ち向かった時、確かに怖かった。怖がる自分を抑えつけて、精一杯自分を騙して、ようやく立ち向かうことが出来た。
けれど、今は怖いと感じない。あの時の何倍もの魔獣の群れに立ち向かおうとしているのに。全く怖くない。
それは世間知らず故の蛮勇か。超常的な力を受けての驕りか。
いや、どちらも違う。
(だって、あなたがいっしょにいるから)
迎撃という名の暴力を掻い潜り、体勢を維持しつつスライディングの要領で身体を滑り込ませる。足が地面に擦れて痛いけど、今だけは我慢だ。
これは風ちゃんが魅せてくれたあの体捌き。それを見よう見真似で模倣する。あたしだって、ただ指を咥えて黙って突っ立ってたわけじゃない。
その勢いで流れるように銃を引き抜くと、指先を引き金にかけ遠心力で回転させる。
これは星ちゃんが魅せてくれた西部劇顔負けのガンスピン。暴発しそうで怖いなとは思っていたけど、弾は入っていないし、やれば出来るもんだ。
それは真似事。全部真似事。けど、ごっこ遊びじゃない。これは生きるために、生き抜くためにあたしの身体が応えてくれた術。その意志だけは本物だから。
もう、これで終わりにする。全力でぶつけるんだ。
「拡がれ、瑠璃衛星ッ!」
回転する銃口から青く光る衛星が飛び回る。それは幾重にも重なり、宙に美しい円を描く。密度により青と白に分かれる円環は、まるで土星の輪に見えるカッシーニの空隙の様だった。
必然、魔獣は内から溢れる光の攪拌に、回避行動など取ることも出来ず、成す術もなく消滅するしかなかった。
一体一体じゃきりがない。まだ呼び出されるなら、それ以上のスピードで殲滅する。これが、今のあたしに出来る精一杯の戦い方。今まで歩いてきた道があたしに教えてくれた、たった一つの選択。
「っひ、う、嘘。な、なんで?わた、わたわたわた、し。の呼んだ魔獣は?」
腰を抜かし後退る。それを見てまた少し悲しい気持ちになった。
「もう、終わったよ……ぐぅ!?」
心臓に激痛が走る。無遠慮に胸の中を鷲掴みにされてキリキリと握りしめられているような不快すぎる感覚。
あ、やばい。かも。今の無茶しすぎた。かな。
真っ直ぐに立っていられない。いや、それどころか視界がぼんやりと霞む。
意識を失った千寿流はその場で膝をつき、ゆっくりと倒れ込む。すでに肉体的にも精神的にも限界だったのだ。
「は?な、なんだ。小娘の、服が戻っている?気を失った。のか?」
少女は答えない。地面に顔から突っ伏してピクリとも動くことは無かった。
おそるおそる少女に近づく。彼女が気を失ったフリをしていて近づいたところを騙し討つ、なんてことはしないだろうことは頭で理解していても、その可能性が0じゃない限り用心するべきだと考え、緊張感を持って歩を進める。
足先で少女の頭をつつく。しかし、相も変わらず何の反応も示さない。
「おい、寝ているフリなら止めておけ?そんな下らない真似は私には通用しない」
小声で言った。そして確信する。
「ふひ!?ふひひひッ!はははははは!勝った!勝った勝った!ギリギリだったけど私の勝ちだ!」
男の顔が再び醜く歪む。ガクガクと震える腰を無理やり持ち上げ、拳を突き上げ勝利を確信する。
少女は依頼のうちに入っていない。私が言われたのは眼鏡の少年を害する事。この少女がどこの誰かなど全く知らない。眼鏡の少年の友人、ということは何となく理解できたがそれ以上の情報は無い。私としても子供を生意気に思うことはあっても、手にかけて興じる異常性は無い。
だから、これで終わり。これ以上罪を増やしても貰える報酬が増えるわけでもないし、彼女は無力化できたのだからこれ以上命を奪う必要はない。
しかし、男は止まれない。もう、ここまでコケにされたら自身を構成する下らない矜持がソレを許さない。顔を視られているとか、復讐されることが怖いとか、そういうのではなく、自分が自分であるために彼女を殺す。
ただそれだけ。そうしなければ息苦しくて、窮屈で、首を掻きむしって死にたくなるだろうから。それだけの身勝手すぎる理由。
でも、それでいい。家族も友人も皆魔獣に殺されたあの日、私は自分に正直に生きると決めたのだから。
少女を抱え、池の近くまで歩く。
(この池の水深は先ほど異能を使った時に確認済だ。満足に体も動けない少女であればすぐに溺れるだろう)
男は少しの助走で勢いをつけ、気を失った少女を池に向かって放り投げるのだった。
タイトルのサテライト(衛星)の意味。
瑠璃衛星には、近衛の衛と星一朗の星が入っています。つまり、二人の合体技なのです。




