次から次へと
空を見上げることを止め、見知らぬ瓦礫の街並みを歩く。千寿流たちが歩きながら口に人差し指を当てこれからどうしようかと考えていると、どこからか声が聴こえてきた。
「っち、あーかったりぃな。目撃情報があるからって昼飯抜いて来てみりゃなんだありゃ。殺り甲斐も何もあったもんじゃねえ」
「……」
何か不穏な発言が聴こえる。
(やり甲斐……やりがい、ヤリガイ……殺り甲斐!? やっつけ甲斐!?)
魔獣ではなさそうだが、その発言からそれ以上に危険そうな印象を受けた。ひびが入り老朽化した石壁に背を預けながら息を殺す二人。
「シャルちゃん……絶対に見つかっちゃだめだよ。下手したらさっきの魔獣よりヤバそうかも」
「おい、ガキども。息、上がってんな。魔獣から逃げてきたってことで良いんだよな?」
「ひぃう!?」
石壁の上から覗き込むように声を掛けられる。同時に殺されるかもしれないという恐怖からか全身に寒気が走る。
バレてる。隠れていても無駄、というか見つかった以上隠れてるって思われないほうが良いに決まっている。
「シャルちゃん! 出ていかないと殺されちゃうって!」
千寿流たちは観念してその声の主の前に縮こまりながら姿をさらす。
「あ、あの、あたしたち美味しくないです。その、食べないでくださいっ」
「お前ら、俺を何だと思ってる。食うわけねえだろバカタレが」
人を射殺してしまうような鋭い眼光、後ろを刈り上げた丸みを帯びたセンターパートヘア。ダボっとした黒色に赤のラインが入ったジャージを着こなす青年がそこに立っていた。その身なりを見て、内心あの魔獣と少し似てると思ってしまったのは内緒だ。
「で、どうなんだ。答えろ」
初対面だというのに不機嫌な様子を隠すこともないその青年に睨まれ、千寿流たちは萎縮してしまう。そんな気も知らないで青年は千寿流たちを問い詰める。
「あぅ、えと……」
「っち、使えねえな」
せっかちなのか青年は千寿流たちから回答が聞けないとみるや、その場から立ち去ってしまおうとする。
「あ、あのっ!」
「……」
(やば、あたしのバカ、大バカ! なんで声かけちゃったの!?)
青年が眉間の皺を深くし不機嫌そうな顔に輪をかけて振り返る。千寿流は声に出してから自分の愚かさに気づき猛省する。
なんで呼び止めてしまったのか。行ってくれるならそのまま行ってくれればよかったのに。いや、今行こうとしてたんだから呼び止める必要なんかないのに。
でも答えは至極簡単だった。あの魔獣はビル群を一瞬で消滅させるほどに危険なのだ。目の前の人間を死なせたくない。自己嫌悪に苛まれつつも、心の隅っこに残った良心が彼を呼び止めてしまったのだ。
「そ、そのっ! 行かないほうが、いいですっ」
「やめとけ。お前らみたいなガキのお遊戯にしちゃ荷が勝ちすぎてんだ。俺もガキの死体見て喜べるほど狂っちゃいねえんでな」
「へ? あ、その、違くて、ですね……」
もしかしたら勘違いされているのだろうか。これからあの危なすぎる魔獣を倒しに行くのかと思われてるのだろうか。さっきの発言、あたしたちの様子を見れば逃げてきたって分かってるはずなのに。
「いや、ねえか、それは。まあ余波でおっ死んじまわないようここらで隠れてるんだな。人間なんざ案外ころっと逝っちまうからよ」
そう言い残して青年は先ほどのレーザーで焼き払われ、未だに燃え煙を上げる方角に歩いていくのだった。
千寿流は引き留めなくちゃいけないと心では思いつつも、恐怖と安堵感が同時に押し寄せて立つこともままならなかった。
「ちずる あのお兄さん おっかけなくていいの?」
シャルが覗き込むように千寿流に問いかける。
「だ、だめだよ……追っかけなきゃ! すごく怖い人だったけど、黙ったまま見て見ぬ振りは出来ないもんっ」
ぱんっ
千寿流は恐怖で震える足を叩き、精一杯の喝を入れる。
(さっき縋りついてでも止めなきゃいけなかったんだ。ここで動かなきゃあたしはきっと後悔する。あの人がここにいる理由とか、よくわかんないけどこのままじゃだめだ!)
「行こう、シャルちゃん!」
「うん!」
二人は互いに頷き、もと来た道を持てる力の限りに全速力で駆けていくのだった。
ようやく本編には登場しなかった新キャラクターの登場です。




