卑怯者
フードの少女。それは忘れもしない、藤沢市で出会った少女だ。
この男の人はそのフードの少女に頼まれたと言っている。それはどういうことなのだろうか。
その少女があたしの友だちを、星ちゃんを殺そうとしたのか。もしそうだとしたら本当に悪いのはその子ってことになる。それでなんだ。そんな心無い子のことをあたしは許せるのだろうか。
分からない。
何が何だか分からなかった。
許せないのに、許す許さないにかかわらず、もう動かなくなった星ちゃんのことを思うと何を憎めばいいのか分からなかった。
あたしの足りない頭で考える。少なくとも目の前の男の人を憎むのは違う気がした。
「あのさ、もういいのかな。私ももうへとへとだ」
男の方に視線を向ける。確かにふらついていて足取りもおぼつかない様だ。
男は気だるげな表情であたしの方を視る。泣きそうな表情だった。
「君には正直悪いことをしたと思っている。そして君の友だちにも。自首、したところで君の気が済むかは分からないけど、私は罪を償おうと思う」
「うん。あたしにも分かんない。けど、悪いことをしたら、叱って貰うべき、だと思う」
なんかどっと疲れた。もうダメだって思った時、星ちゃんから貰ったキーホルダーが視界の隅に入って。
あの時は何が起きたのか分からないけど、あたしの異能の力なのかな?気が付いたら全身の痛みが引いて、頭の中がクリアになっていた。あたし、能無しじゃなかったんだ。
そういえば夜深ちゃんに異能の発現の理由は人によって様々。生まれ持って自分を構成する一部として持っていることもあれば、後天的に何かがきっかけで後から発現することや、相手から譲渡してもらうといったケースもあるらしい。
今思えばこの銃もどこからともなく現れたんだった。それだけじゃない。あたしは銃の撃ち方なんか何も知らないのに、流れる様に構えることが出来た。これは星ちゃんの意識があのキーホルダーを通してあたしの中に入ってきたということなのかな?
原理とか理屈とか何にも説明できないけど、そうあればいいなって思った。
「にゃ?」
ふと視線を落とす。自分が着ている服をよく視ると、全然違うものになっていたことに今更になって驚く。
脛の辺りまで伸びる、紺のロングコート。もともと履いていた縞々のニーソは左足だけになっており、右足には素足にレッグホルスターがつけられていた。
それよりも問題なのはスカートが無いことだ。股下がすっごくスースーするのだ。おそるおそる服を捲くりちらりと覗いてみるが、黒のホットパンツが視えたので少し安心した。
全体的にベルト過多だが重さは無く、どこか星ちゃんみたいでカッコよかった。
これも異能の力?あの銃を撃つ覚悟があたしにはなかったけど、もしその覚悟があるのならば、あたしも戦う術を手に入れたといえるのだろうか。
「それじゃあ、私はこれで。また縁、は無いかもしれないけど、その時は敵対し合うことなく話し合えるといいな」
「……うん」
去っていく。足を少し引き摺って。あの人も誰かと誰かの間で苦しんでるのかな。寂しそうな背中を見て漠然とそう思った。
男の人を見送ってから背を向けて星ちゃんのところに向かおうとする。いや、クラマちゃんを起こしてからのほうが良いかな。
「星ちゃん」
こんな時どうすればいいんだろうか。分からないや。やっぱりクラマちゃんを起こしてから、いっしょに考えてもらうことにしよう。
うつ伏せで倒れているクラマちゃんのところに駆けよる。うん、あの人の言う通り、傷は特にないみたいだ。なら、揺すって大丈夫かな。意識の無い人を揺すると危ないとか漫画で言っていたような気がするけど。う~ん。
でも、このままだと起きるまで待たないといけないし、ごめんね、クラマちゃん。
そう思って屈みこもうとした時、大きな影があたしを覆った気がした。
だから気づけた。
「っち、躱したか」
バク転を交えて距離を放す。反射的に体が動いたけど、すごい、そこまで身体能力が上がってるんだと改めて実感する。体が軽い。今なら臆せず戦える。
「けど、くいひひっ、形勢逆転ってヤツだ。残念だったな。ガキ、動くなよ。動けばこの女を殺す。いいな、それぐらい解るな?」
「……っ」
クラマちゃんの首に手をかける。あたしが攻撃をする素振りを見せたら、迷わずあの腕で絞めつけるつもりだろう。
「まずはその銃を捨てろ。手が届かない位置、そうだな、私の足元に向けて投げ捨てろ」
あたしは右手に持っていた銀色の銃を男の方に投げ捨てる。こうなればあたしに戦う術はない。いくら身体能力が上昇しているからといって、人質を取られたままどうにかできるとも思えない。
本当に手放すのは正解だったのだろうか。いや、クラマちゃんの命に手がかかってるんだ。迷うところじゃない。
男は銃を拾い上げ、それをあたしに向けて構える。
動けば相手の怒りに触れることになる。男は用意周到、クラマちゃんの傍から離れようとしなかった。
絶体絶命だった。




