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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第四章 覚醒
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捨てられたわたしと老婆2

「くだらないねえ。こんなことも出来ないのかい?」


 バシン。という音と共にわたしの身体が突き飛ばされる。

 力自体はそこまで込められていなかったものの、まだ、五つほどの子供を吹き飛ばすには十分すぎる勢いだった。ぐらつく頭を押さえながら必死で立ち上がる。なぜなら、立ち上がらなければ身体を踏みつけられるから。


「なんだその目は。何か文句でもあるのか?」


「いえ。何もないです」


 わたしは今朝、花壇への水やり当番だったにもかかわらず、寝不足、いや気の緩みで十分ほど寝過ごしてしまったのだ。たったそれだけのことで鬼のような形相で怒り狂い、暴力を振るわれた。

 けど、彼らは強かだ。わたしよりも一回り大きな子供達には買い出しにも行かせる。だから、体裁の為、顔は傷つけないように体と心に消えない傷を植え付けていった。

 それを見せしめに、子供たちを逆らうことの出来ないように洗脳していく。それがこの孤児院の在り方だった。


 孤児院で働くスタッフは皆が皆一様に、子供に対してきつい当たり方をする者ばかりだった。中にはそれに異を唱える者が現れることもあったが、次の日からその人を見かけることはなくなった。


 老婆の名は波多野(はたの)リミ。孤児院ではもっぱらマザーと呼ばれることが多い。

 彼女は経営側の人間であり、直接子供たちに危害を加えることはなかったが、児童に暴力を振るう様子を動画に収め、それをとあるルートで売りさばくことで税金以外からの収益を得ていたのだ。

 そんなものを誰が買うのかという話だが、力の無い者が一方的に虐げられる様子を見て留飲を下げる。この世界にはそういった人種が一定層いるのだ。


 子供たちは商売道具だ。だからと言って、孤児院での生活は決して楽なものではなかった。満足に食事も与えられず、ちょっとしたことで暴力を振るわれ、泣き声が響かない日はなかった。それでも仕方がない事なのだと、わたしは考えていた。

 別に暴力を振るわれる自分と同年代の子を見て、怖いと思うことはあったけれど、決して洗脳されたわけじゃない。いや、洗脳というのは自分でも気づかないうちに、とよく言うから、もしかしたらあの時のわたしは洗脳状態にあったのかもしれない。


 けど、それでもわたしには理性がある。

 彼らは傷つけたくて傷つけているんじゃない。自分たちが生きるため、生活するために仕方がなく傷つけているだけに過ぎないだろうから。


 だから、わたしと同じだ。

 彼らは悪くない。そう思うことが出来た。


 どんな人間も生まれた時からの悪人なんていないし、本当の悪というものが仮に人格を形成した環境なのであれば、この孤児院がつくられるよりも前に遡らなければいけないだろう。そんなの、無理という話だ。


 人は全知ではないことは幼いながらにも本能で理解していた。嫌なことがあれば腹が立ってしまうことは仕方のない事だと思った。

 彼らは心に大きな傷を持っている。自分たちが叩かれ罵られることなんかとは、比べ物にならないぐらいに大きな、消えない深い深い焼け痕。それが痒くて痒くて堪らないのだ。


 それは、導という天災が残した大きな傷痕。


 ある日、老婆の身の上話をスタッフが話しているのをこっそり聴いた。何でも導による災害で家族全てを亡くしてしまったらしい。その際に出来た心の傷であそこまで荒んでしまったというのだ。

 別に彼らの話に信憑性は無い。スタッフが面白がって話していただけだ。ただの噂話、こんな風に面白おかしく話を盛るのはどの職場でもあるだろう。その後、盗み聴きしていたわたしは日が暮れるまで暴力を振るわれ続けたが、別にそれでよかった。

 だって、暴行を受けている間は何も考えなくて済む。それがとてもとても甘美な時間に感じられたから。


 その後、老婆がどういった経緯で、この孤児院を経営することになったのかは知らないが、年端もいかない子供を見ると、被災時に負った古傷が疼くらしいのだ。


 痒くて痒くて気が狂いそうになるのだという。

 だから、自分より不幸な人間(いきもの)を観たくなる。


 それで何の関係の無い子供に当たるというのは、誰がどう見たとしても間違いだとわかるのだが、わたしには彼女の気持ちも理解できた。

 当時のわたしは自分が一番最低の人間だと卑下していたから。自分が傷つくことで誰かを救うことが出来るのなら、それが最低の自分に出来る唯一の事なのだろうと考えた。


 ____そうして、季節が一巡した頃。


 その月は地震が良く起きる月だった。地盤が割れるような大きな地震ではない。物が揺れ、不安定に立てられた置物が転がる程度のもの。

 しかし、度重なり起こり続けると話は変わる。世間では世界の終焉だとか、導の導きだとか、終焉のカウントダウンだとかこの世の終わりを唱える者も現れた。

 大人にとっては多少の揺れでも、小さな子供にとっては日常を侵食する、大きな大きなストレスの要因になったのだろう。だから、普段より輪をかけて、より一層の泣き喚く声が孤児院に響き渡った。


 その月を境に、孤児院のスタッフによる暴力は熾烈を極めることとなる。

 日に日に痣を増やしていく子供たち。ついには顔にも手が伸び、むしゃくしゃしたという理由だけで顔中腫れ上がるほどに虐待を受ける子もいた。物覚えの悪い子は寒空の下、何時間もシャツ一枚で放り出されるといった拷問紛いの行為を行う大人もいた。

 けれど、商品として使えなくなった子に価値は無い。彼らのその後をわたしは知らないけれど、恐らくはそういうことなのだろう。あまりにも身勝手で独占的だけれど、そういうことなのだろう。


 老婆は解っていてもその残忍な行為を止めることはしなかった。けど、もう笑いながらビデオに撮るような真似はしなくなっていた。能面の様な感情を失った顔。その眼に光は無く、何物も映すことは無いようだった。

 心境の変化でもあったのだろうか、その後、身支度だけを済ませ少し出てくるといった後、ついには帰ってくることはなかった。


 その時、ようやく目が醒めた。

 ここはもう、わたしのいる場所ではないのだと。


 わたしは、わたしの命を繋ぎとめた老婆がいたせいで気づくことが出来なかったのだ。いや、気づいていたけど、ただここに留まることを自分で望んだだけだ。

 親らしいことなんてされた覚えは一つだってない。直接手を下されずともいつも笑われていたことも知っている。口を開けば愚図、ノロマ、間抜けと罵倒しかされた記憶が無い。


 けれど、わたしの命を救ってくれた。それだけは事実だったのだ。

 それが正しい事なのか間違いだったのか、今になっても解らない。

 けど、ここにいる理由がそこには在ったのだ。

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