あたしの友だち探し
オータムチャレンジ、いわゆるサマースキルのようなものだが、宿題は順調に進んでいる。日記を除けばあと数ページ残っているだけだ。誰に言うわけでもないけど、ちゃんとやっているね、えらいえらい、と褒めてほしいところだ。
いやごめん、それは嘘かも。分からない部分はママが教えてくれるし、クラマちゃんもいっしょになって悩んでくれることもある。自分自身の力で頑張ってみるけど、分からない部分は一人で悩んでいても仕方がないと割り切り、すぐに誰かに助けを求めてしまう。
やっぱり誰かといっしょに出来るなら、憂鬱な宿題だって楽しいイベントに変わる。だから、あたしは長い休みの宿題というものは嫌いじゃない。
もちろん、三十一日になって慌てて全部終わらせるなんていうパターンは一度も経験したことが無い。それより前にママがちゃんとやってる?って声をかけてくれるからだ。
そりゃ、休み中は遊んでいたいって思いはあるけれど、家族や友だちと一緒になってできるのなら、それは遊びと同じぐらい楽しい思い出なのだ。
「えひひ、せっかくだし、みんなでどこか遊びに行きたいなーとか思ったり。パパに言わないと駄目だけど」
「いいね!シャルルは おいしいもの たべれるところに いきたい!あまーいものがいいけど あまいものじゃなくても いいよ!」
シャルちゃんはやっぱり食べ物に目が無いみたいだ。
「あ でも やっぱり あまいもののほうが いいかも」
人差し指を口に咥えてシャルちゃんはそう言い直した。たしかに、甘いものを口いっぱいに幸せそうに頬張っているシャルちゃんはやっぱり可愛い。だから、甘いもの食べるだけのツアーみたいなのもいいかなと思った。まあ、身体には気を付けてもらいたいけど。
あたしはみんなといっしょなら別にどこだっていい。思いついたから口に出しただけで、どこかに行かなくたって、毎日シャルちゃんの家でお話ししたり、ゲームしたり、お菓子食べたり、それだけで十分に楽しいのだ。
そうだ、あたしは楽しいけど、二人はどうなのかな?ふと考える。楽しそうにしてくれてるだけ?楽しくても、その楽しさに温度差とかってあるのかな?
「えと、えひひ、そういえばなんかごめん。何にも考えず毎日来ちゃって。迷惑とか思われてないかなーって。あたし、ほら、ちょっと覚えてなくってさ。声をかけられる友だち、他にいないし」
シャルちゃんもクラマちゃんも、あたしに付き合ってくれているのかもしれない。ちょっぴり怖かったけど、意を決して訊いてみる。
もちろん、友だちだ。大好きだって面と向かって言える、正真正銘の親友だ。けど、シャルちゃんたちには他にも知り合いが大勢いることをあたしは知っている。だから――
「なにいってんの ちずる!めいわくなんて おもうわけ ないよ!」
「はい、お嬢様は千寿流ちゃんが帰られると、泊って行ってくれればいいのに、といつも仰っていますよ。もちろん私も千寿流ちゃんのことは大好きですからっ!いつでも、どんな時でも、遊びに来てくれて構わないんですよ」
すごくうれしかった。あれ、なんだろ。ちょっと目頭が熱い。ああ、本当にうれしいんだ。今、あたしは幸せ者なんだなって感じてる。
「それに千寿流ちゃんが忘れてしまっているだけで、千寿流ちゃんにはお友だちがたくさんいるのを知っていますよ」
「そうだね!きょうは ちずるを ともだちのとこに つれてって あげようか!」
それってつまり。学校に行くってこと?いや、休み中だし学校にいないのかな。やばい。あたし、学校の場所もよく覚えていないや。それとなくママに訊いてみようかな?もしかしたら変な子と思われるかもしれないけど。しょうがないよね。
「じゃあ ぜんは いそげ!さっそく いこう!」
「へ?ほんとに学校?」
新海区立鳩羽小学校。あたしが通う学校――みたいだ。
新海区は昔港区という呼称で呼ばれており、今は新海区と港区に分かれて区分されているらしい。なるほど、だからあの森で星ちゃんは港区と呼んでいたのか。
こうして実際の学校を見てみれば、何か思い出せるのかもしれないと思ったが、なんとなく通っていたような気がする、というだけで、あまりピンとこなかった。
休み中ではあるが、部活に勤しむ生徒のために五時から七時までは解放されている。もちろん先生もいるので、悩みごとがある生徒などが訪れることもあるようだ。なので、今日も学校は開放されている。
その証拠に、中の様子を見なくともバットがボールを叩く気持ちの良い音が聴こえてくる。
野球は嫌いじゃない。観るのはつまらないけど、やるのは楽しい。バットにまともにボールは当たらないけど、みんなでいっしょに力を団結してる感というか、わいわいできるから好きだ。
野球に関してはパパとも休日はしてたような、気がする。いや、パパともう一人、誰かいたような。ママだったかな。なんだろう、記憶に靄のようなものが掛って思い出せない。
「え、あたし一人で?」
「いっしょに行ってあげたいのは山々ですけど、私はここの生徒ではありませんからね」
「だいじょうぶ!なにかあったら よんで!すぐにシャルルが かけつけるから!」
そう言ってシャルちゃんは、あたしに小さなネズミのキーホルダーを手渡した。
「うぇえぇ!?なにこれっ」
このキーホルダー、なんでも強く握るとシャルちゃんに連絡が届くらしい。電池を入れる蓋もなければ、ボタンの様な物もないし原理は一切不明だ。それにシャルちゃんには悪いけど結構リアルで気持ちが悪い。
悩んでいてもしょうがない。あたしは少しだけ重い足取りで、少しだけ憂鬱になりながら、とりあえず校門をくぐることにした。




