冒険の終わり
あたしたちの冒険は終わりを迎えた。
何処かもわからない牢獄に囚われていたあたし。そこでタルトちゃんと出会った。
タルトちゃんはあたしの知らないあたしを知っているような口ぶりだったけど、そんな気がしたというだけで、偶々あそこに居合わせただけかもしれない。
その場合、タルトちゃんは泥棒ということになるけど、もしかして、あたしも記憶がないだけでなんか悪いことをして牢獄に入れられていた、ということなのだろうか。
良いことも悪いことも分からない。自分が何をしてきたのかもわからない。記憶が無いということはこんなにも不安な気持ちになるんだな。
ゲームなんかじゃ記憶喪失なんてよくある設定だなーとか気楽に考えていたけど、もしこの気持ちを持ったままプレイできるなら見方が変わるかもしれない。きっと今なら主人公にもっと感情移入できるだろう。
そういえば、結局なんであたしが牢獄に入れられていたのか、分からないままだったな。シャルちゃんにそれとなく訊いてみたけど、分からないという返答しか返ってこなかった。
シャルちゃんは嘘なんか吐くはずがない。もし吐くとしても人を傷つけるような悲しい嘘は吐かないはずだ。だから、本当に知らないのだろう。
シャルちゃんにはいつも助けられてきた。魔獣との戦い、というとそうでもないかもしれないけど、気持ちというか精神面であたしを支えてくれた。きっと、シャルちゃんがいなかったら、あたしはここまで来ることなんてできなかっただろう。
だから、感謝してる。クラマちゃんが見つかってよかったね。
「ちずる どうしたの?なんか やさしそうな かおしてる。なにか いいことあった?」
今まで歩いてきた思い出を振り返っていると、シャルちゃんに声をかけられた。顔に出てしまっていただろうか。
「うん、クラマちゃん見つかってよかったなーって」
「千寿流ちゃん、本当にありがとうございます!」
改めてお礼を言われると、なんだかこそばゆい気持ちだ。
あたしたちは藤沢市で夜深ちゃんと別れた後、これまで歩いてきた道を帰ってきた。何でも藤沢市からもう少し進んだ港町に用があったのだという。そう言えばそんなことを言っていた気もする。忘れていてごめん、夜深ちゃん。
帰る、とは言ってもクラマちゃんとは出会えたので、わざわざ徒歩で歩いて戻ることはない。なので、車が走れないような悪路の様な場所を除き、タクシーやバスなど、交通機関を利用することにした。
これまで歩いてきた道が、流れる様に過ぎ去っていくのを見ると、少し寂しい気持ちにもなったが、やっぱり嬉しさのほうが勝る。これでよかったんだって。
あたしの。あたしたちの冒険は終わったけど。日々は変わらず続いていく。
今日も、明日も、明後日も。
____ぱくり。
「えひひ、このチーズケーキすっごく濃厚で美味しいね。高かったでしょ、これ」
ある晴れた日の昼下がり。あたしはシャルちゃんの家に遊びに来て、ちょうどチーズケーキをご馳走になっていた。
「ううん これは クラマがつくったもの。あじでわかる だよね クラマ!」
「はい。すみません、千寿流ちゃん。言ってませんでしたね。けど、お褒め頂きありがとうございます」
「ええ?なんで謝るの?あたし美味しいって褒めてるのに!こんなのお店でもなかなか食べられないんじゃない?」
正直を言うとケーキ屋に連れて行ってもらうときは、フルーツがいっぱい乗ったミルクレープばかり頼んでしまうので、あまりケーキ専門店のチーズケーキは食べたことが無い。
けれど、クラマちゃんのチーズケーキはお店の物より美味しい。そんな気がするのだ。
料理に愛情とか、よく分かんないけど、シャルちゃんを想って作ったものなんだから、どんなお店よりも美味しいに決まっている。なんて要素抜きに美味しいのだ。あたしが今そう決めた。
「そんなことありませんよ。私の腕はまだまだです。料理は趣味ですけど、奥が深すぎる世界です。満足なんてしている暇はないですからね」
「そうなの?そういうものなのかなぁ?」
パクリ、口にケーキを含みながら、そう返す。やっぱり美味しい。頬がとろけてしまいそうな味だった。
ふと視線を感じる。その方向に目を向けると、シャルちゃんは少し落ち込んだような様子であたしを見つめていた。
「もうすぐ なつやすみ おわっちゃうね。おわっちゃったら ちずる シャルルの ところに きてくれない?」
あの冒険から一ヶ月が経とうとしていた。十月半ば、もうすぐ秋季休暇が終わろうとしていた。




