リトルブレイバー
「すごいっ」
「よか……った……」
千寿流とクラマ、それぞれの発した言葉は違ったが、表情は窮地を脱したことの安堵を物語っていた。
(余計な事、と言いたいところだけど、まあこの場はこれでいいか。僕としても女の子の泣き顔を見る趣味は無いしね)
「はぁ、はぁ……もう、立てねえか」
魔獣が黒い霧となって霧散していくのを確認する。ひと欠片も残さないよう圧倒的なまでに潰してやった。さすがにもう再生をされるということは無いだろう。まあ、再生されてももう一度潰してやるだけの話だが。
さて。
「よう、リトルブレイバー。あんなバケモンを前によく逃げ出さずに立ち向かったな」
「あ、えと、その……」
「オレは工藤風太。アンタの名前は?」
「こ、近衛、千寿流ですっ。その、助けてくれて、ありがとうございましたっ!」
「バーロー。それはこっちのセリフだっつーの。このバトルのMVPはお前だよ、千寿流」
あの力がなんなのかは分からない。この様子だと本人も無自覚みたいだな。何はともあれこの千寿流というガキのおかげで、この場にいる人間はだれ一人欠けることなく。いや――
「オイッ!オッサン!」
「ああ、君の言いたいことは分かってる。彼女なら今眠りについたところだよ。まあ、傷が傷だし時間はかかるかもしれないけど治るでしょ」
そう言いながらへらへら顔で笑う。クラマと呼ばれた少女の内臓はぐちゃぐちゃに潰れていた。医療の知識など一ミリも無いオレでも一目で分かる。このまま放っておけば三分も経たずに死んでしまうだろう。余計な茶々を入れて治療を疎かにしてもらっても困る。
しかし、何故こんな有様を見てもこの男は軽薄な笑みを浮かべ続けていられるのか。
オレの傷は完全ではないもののほとんど治っている。傷が治せるから他人の生命への関心が薄いのか?仮に大怪我を治せるとしても痛みは平等だ。怪我なんかしないことに越したことはない。何にせよこの男とは相容れないと思った。
横にいる紫髪の少女は眠っている、いや、クラマの惨状を見て気絶してしまったという所か。
「夜深ちゃーん!クラマちゃん大丈夫そうかな~?」
狐耳の少女、千寿流が手を振りながらこちらに向かってくる。
「来るんじゃねえよ!今このオッサンに治してもらってる最中だ!」
千寿流はびくっと肩を震わせてその場に静止する。いけねえ、またビビらせちまったか。
けど、友人の身体がぐちゃぐちゃになっているところなんて視るべきじゃないと思った。少なくともあんな年端もいかないガキが視ていいもんじゃない。
「っふ、随分と優しい子なんだね、君は」
「助けてもらったから礼は言う。だが、それとこれとは別だ。オレはアンタが気に入らねえ」
それだけ言うとオレはこの場を後にする為立ち上がる。このオッサンはいけ好かねえが、治療の異能の性能だけは本物だ。オレがここでしてやれることはこれ以上何もないと思った。
「待って!もう行っちゃうの!?」
「ああ。群れるのは性じゃねえんだ」
「まだ、ちゃんとお礼言えてないよ。もう少しだけいてほしい。お願い……だよ」
「……」
千寿流はそう言いながらオレのほうにふらついた足で倒れ込んできた。どうやら限界みたいだったな。なに、ちょうどいい。ぐっすりと寝ている間にこの場からずらからせてもらうことにするか。
「ん?」
服が重い。千寿流は眠りながらもオレの服を掴んで離そうとしなかった。
「おやおや、どうやら随分と好かれちゃったみたいだねえ。それとも命の恩人を無理やり引っぺがしてここから立ち去るかい?」
嫌味ったらしい顔でオレのほうを見る。やはり性根が腐ってるな、コイツは。再認識した。
「っち、ここを出るまでだ。お前らみたいなお気楽連中といっしょにいると平和ボケしちまうからな」
オレは仕方がなく千寿流が目覚めるまで、その場で待つことに決めたのだった。
「え、あたしたちの後姿を見たの?」
それから数時間、クラマの治療が終わり、千寿流とシャルが目を覚ます。クラマと呼ばれる少女はまだ眠ったままだったが、直に目を覚ますだろうということだった。血行もいい、脈もある。間違いは無いだろう。
「ああ。別に付け回す気はなかったんだがな。親子にも見えねえ怪しい長身男とガキが一緒に歩いてたら、誘拐されたとでも疑うのが普通だろ」
「風太君、酷くない?僕のどこが怪しいっていうのさ。ねえ、みんな?」
「えっと、えひひ」
「キヨミお兄さんは あやしいよ!」
「っは!ガキの目は誤魔化せねえ。純粋に本質を見抜くって言うだろ?」
「本質、ね。そんな簡単なものじゃないと思うけど」
「なんか言ったか?」
小さな声で聴きとれなかったが大したことじゃないだろう。オレはただ座って待っていることに退屈になり、立ち上がることにした。




