表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第三章 狼との出会い
110/417

たとえ敵わない強大な敵だとしても2

 シャルちゃんだ。異能(アクト)が上手く使えないなりに、精一杯渾身の力を右手に集め、クラマちゃんに意識が向いている魔獣(マインドイーター)の横っ腹にぶつける。

 直撃だ。緑色に光り輝く魔獣(マインドイーター)に激突した濃い紫色の光が収縮と発散を繰り返す。

 けれど、魔獣(マインドイーター)は痛くも痒くもないと言わんばかりに無反応。いや、それだけでは済まなかった。

 突然のシャルちゃんの介入に驚いたクラマちゃんの意識が少しだけ、ほんの少しだけ乱れてしまったのだ。その隙を魔獣(マインドイーター)は見逃さない。今この場でまともに戦いに参加できているのはクラマちゃんだけだったから。だから、それが致命の一撃となる。


「まっ――」


 筋肉に筋肉を重ねた様な強靭な太い腕がクラマちゃんの脇腹を抉る。咄嗟の判断で身体をずらしたものの、戦闘不能に追い込むには十分すぎる一撃だった。


「ぐッ、ごぽっ……っ」


 拳が引き抜かれると同時に、前のめりに倒れながら口から大量の血を吐く。危険な量だ。きっと傷ついてはいけない部分が傷ついたのだろう。あまりの出来事に声が出なかった。

 魔獣(マインドイーター)はもう戦えなくなった玩具には興味が無いとでもいわんばかりに、彼女に背を向ける。


「ま……っでぐださい。まだっ!わだしはっ……い゛ぎてまずよっ」


 クラマちゃんはフラフラとした足取りでナイフを拾い直し、再び魔獣(マインドイーター)と対峙する。もう動くことなんてできない。それでも、あたしたちを守ろうと必死に注意を引き付けようとしていた。

 目線を送られる。焦点の合わない瞳では何を伝えたいのか定かではなかったが、きっと“私には構わずにお嬢様といっしょに逃げてほしい”そう言っているように思えた。

 クラマちゃんと共に過ごした時間はまだまだ多くはないけど、シャルちゃんを気にかける様子、そしてあたしたちに対しても、とても優しかったから。

 そんな、彼女の気持ちに応えなくてはならない。迷い続けるあたしの心の中に訴えかける声無き言の葉。


 今からでは間に合わないかもしれない。


 シャルちゃんはきっと、クラマちゃんを見捨てるという選択肢を選ぶことは無いだろうことはもう分かり切っていたから。

 クラマちゃんのいない未来に、シャルちゃんは未練を感じないだろうことも分かり切っていたから。

 だから、無視するね。ごめん、クラマちゃん。


「ああぁああぁあぁぁッ!」


 叫び声で恐怖をかき消す。

 消えなくてもいい、ビビり竦み上がった自分の心臓の音をかき消せれば今はそれでいい。

 全力だ。この世界で生きていくなら逃げてばかりじゃいられない。


「……それでも戦わなきゃいけねえんなら戦って死ね。お前の手にあるその傘、ただの雨傘ってわけでもねえだろ」


 旅立ちの日、あの怖い顔のお兄ちゃんから言われた言葉。

 時には怖いと逃げ出したくなる自分自身を殺して、全身を恐怖という感情で追い詰めて、虐めて、麻痺させて、我武者羅に立ち向かうことが必要なんだ。震える足なら、ここで捨てていけ。


 “えへへへ たのしんで いこうよ!”

 “そう言っていただけて私、最高に幸せ者です!”


 シャルちゃんの、クラマちゃんの、あの笑顔をまた見てみたいから。だから、その笑顔を曇らせる敵がいるならあたしは許さない。

 慣れない全力疾走。足をところどころ飛び出た岩突起に掬われながらも走る。斜面を登る。高さを稼ぐ。


 勇気を振り絞れ。

 飛び出した小さな崖から飛び出し、渾身の一振りに重力も乗せる。


 フォームなんて考えない、千寿流のなりふり構わずに振り切る全体重をかけた一撃が魔獣(マインドイーター)の背中を真ん中に捉える。しかし、無情にも緑の光に阻まれて届くことはなかった。


「っち、何で逃げねえ、あの女はもう。いや待てよ。おいオッサン。アンタ、オレなんかじゃなくてあの黒髪女を助けてやりな。アンタならできるはずだろ」


 しかし、夜深は首を横に振る。それだけではない。起き上がろうとした風太を、蔦の様に伸びた夜が地面に縫い付ける様に巻き付ける。


「て、テメェ!どういうつもりだ、オイッ!?」


「駄目だよ。まだ君の治療は終わっていない。あの魔獣(マインドイーター)への止めは君が適任だからね。君には万全の状態で挑んでもらいたいのさ」


「馬鹿野郎ッ!あの黒髪はもう数分と経たずに死ぬぞ!?オレならもう十分だ!動ける!この蔦を解きやがれ!」


 まだ痛む身体を動かし、無理やり振りほどこうと試みを続ける。

 しかし、夜深はそんな風太を一瞥もせず、敵うはずもない強大な敵に果敢に立ち向かう千寿流の様子をじっと見ていた。

 何の奇跡も起きないのなら、きっと彼女らは数十秒後には無惨に身体を穿ち潰され死ぬだろう。力の関係性とか、実力差とか、相性とか、そんな下らない背比べじゃなく、事実として覆らない戦局。


 奇跡は起きない。

 起きないから奇跡なのだ。

 けど、奇跡なんていらない。

 当たり前が、当たり前のように起きればいい。


 風太は荒げていた口を塞いだ。その眼差しの先には瞳孔が開き口角が吊り上がった化け物(おとこ)がいた。その横顔はどこか狂気を孕んだような歪な笑顔。


 ____さあ、魅せてくれ。君の本質を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ