たとえ敵わない強大な敵だとしても
「なにアレ?あんなバケモノと一人でやってたの、君?」
先ほどの黒い塊はこの男の異能か武器かなんかだろうか。全く効いていないことを確認するとオレに声をかけてきた。
「フン、見りゃわかるだろ。ンな格好つけられるもんじゃねえよ。アンタらの助けがなけりゃおっ死んでたところさ。情けねえ話だがな」
「別にカッコ悪くないんじゃない。人が見てないところで頑張れるって僕は素敵なことだと思うよ。一見だけど僕は君のことが好きになったよ」
「そうかよ」
オレは痛む全身に鞭を打って立ち上がる。助けてもらってあとは任せた、で済ませる気はない。コイツらが来たことを好機と捉えて、全員が無事に逃げ出す算段をつけなきゃならねえ。それがこの場でのオレの役目なわけだ。
アイツは自身の立場が絶対有利だということに胡坐をかいて、オレらを見下している。本気を出せばオレと同じレベルの速さで動ける敏捷性はあるだろう。そうなれば終わり。ここにいる何人かは逃げられても確実に犠牲者が出る。
つまり、調子に乗らせたままでこの場から離脱しなきゃならないってことだ。
「おい、オッサン。アンタの異能、訊いておいていいか?」
「オッサンて誰?もしかして僕の事?」
「アンタ以外誰がいるっ!ここにいる野郎はオレを除けばアンタしかいねえだろ!」
「オッサンって酷いなあ。僕そこまでオッサンに見える?」
「だーうっせえ!今はそんな下らねえ問答してる場合じゃねえだろッ!兄さんでもオッサンでも何でもいいっつーの!で、どうなんだよ!?」
「やれやれ、せっかちな子だね。僕の異能は操作。夜を引っ張って来て操る能力だよ。物を持ち上げたり、活性化させたり、使い方次第では治癒や破壊も出来る。ほら、今君の傷も治してあげてるところだよ」
そう言われてオレは自分の身体に目をやった。あれだけ深かった傷の流血は収まり、まだまだといった感じだが傷が塞がり始めていた。
何だそりゃ。何でもアリじゃねえか。世界は広いっつーことかよ。いや、待てよこのオッサンの異能があれば全員無事で逃げられるかもしれねえぞ。
「おいオッサン。話がある。全員逃げて助かる方法だ」
「ああ、ちょっと勝手に動かないでよ。まだ君動けるような状態じゃないんだって」
立ち上がろうとした肩を掴まれる。
「っち、悪かったな。で、どうなんだよ、乗るのか、乗らねえのか?」
「内容次第。と言いたいところだけど、まだ彼女たちは諦めていないみたいだよ」
そう言われてオッサンの目線を追う。敵わない相手と理解出来ただろうに三人の少女が立ち向かっていた。
「馬鹿野郎ッ!そいつに攻撃らしい攻撃は効かねえ!何発打っても無駄だ!こっから逃げださねえとお前ら全員死んじまうぞッ!」
声が届いたのか届かなかったのかは分からなかったが、返答はなかった。いや、ヤツは会話を交わしながら相手をできるほど甘くねえ。オレが声をかけたせいで気が散って、攻撃を食らっちまうなんてことは避けたいところだ。そんな間抜けなことはしたくない。
「彼女たちはここで魔獣を逃したら被害が増えるかもしれない、なんて考えてるんじゃないのかな。ま、今の一番の理由は君を助けるってことだろうけどさ」
「っち、なんだよそりゃ」
よく見てみれば劣勢一方というわけではない。ガキ二人はともかくあの黒髪のメイド、魔獣の習性を瞬時に理解して順応している。一定の距離を保ちながら攻撃のタイミングを計り、攻撃に合わせて回避、そして同時にナイフでの攻撃を入れる。あの女は出来る。
「お嬢様!千寿流ちゃん!絶対に手を出さないでください!魔獣の攻撃の標的にならないように隠れていてくださいっ!」
クラマちゃんはそう言って魔獣へと果敢に立ち向かっていく。相手の攻撃を寸でのところで全て回避しながら、注意を引き付けてくれている。
この場であたしが出来ることはなんだろう。クラマちゃんが引き付けてくれている間に後ろからこっそり近づいて攻撃を加える。なんて出来ないかな。
相手は一人、こっちは三人。夜深ちゃんもあの男の人を治した後なら手伝ってくれるはず。じゃあ、それまで手を出さないほうがいいのかな。
でも、クラマちゃんだってずっと戦えるわけじゃない。ここまで歩いてきた疲れも溜まっているはずなんだ。思えばずっと気を張っていてくれたのかもしれない。心身共にもう限界のはずなんだ。
あたしの頭の中で二つの相反する考えが錯綜する。
どちらが正しい答えかなんてわからない。
どちらも正しいかもしれないし、どちらも間違ってるかもしれない。
そんなあたしの煮え切らない態度に呆れたのか、隣を横切り一つの影が魔獣に向かっていく。
「クラマを いじめるなぁ~!」




