死中に活路を5
しまった。と思った時にはもう遅かった。後悔先に立たず。いつだって過ちは過ちと認識してからではもう取り返しがつかないんだ。だから、今を、前を向いて皆必死で生きている。
「ってぇ」
気が付いた時にはオレの身体は岩壁に沈むように埋まり込んでいた。
オレは吹っ飛ばされたのか?それすらも分からなかった。なんだ、コイツは。これまでと挙動が全く違う。
(いや、んな下らねえこと考えてる場合じゃない)
魔獣はあの距離を予備動作もなく一瞬で詰めてきた。全力じゃない。感覚だがまだまだ本気を出していない。ヤツもオレが死んだとは思ってはいないだろう。なら当然、吹っ飛ばされたオレの息の根を止めに来る。
(けど、来るのが分かってりゃあ)
「うぐぅうぅゴボッッ!?」
頭の中に火花が走る。内臓で何かが爆発したみたいに。痛みで体中が折れたみたいに。ヤツの拳がオレの腹に突き刺さっていた。
血交じりの唾を吐きかけると、オレは残るすべての力を振り絞り腕を蹴り上げる。
転がるように土埃に紛れ身を隠す。
幸い聴覚は鈍いことが分かっている。音は立てても構わない。地面を蹴りつけ土埃を絶えず上げ続けることで正確な位置を攪乱させ、なんとかその場を離脱する。
離脱とは言ったが、果たして本当にこの場から無事に逃げ切ることが出来るのだろうか。ヤツの生態を理解できていないからまだ分からないが、その可能性は限りなくゼロに近いと思った。
なぜなら、この魔獣に関する情報はまったくと言っていいほど出回っていない。それは病院の地下に訪れた者の中に、無事に帰ってこれた者がいないだろうからだ。
身を隠すことも出来ない悪路を追いかけっこして逃げ切れる想像なんてできなかった。
それに、ヤツの挙動に焦りを感じない。焦らないという事は焦る必要が無いということ。あの緑色の光、時間制限付きの強化状態、もしくは反動で弱体化するのか、という可能性も考えてみたがそれもないだろう。
ふと目の前に出来た水たまりに映る自身の顔を見た。血だらけで涎まみれ。惨めで情けない姿だ。そして脳裏に過る死という文字。
ここがオレの死に場所ってワケか。姉貴には悪いことをしたな。こんなことならレギオンでも何でも入ってやってりゃよかったかもな。
「――なんて言うとでも思ったかよ」
「……」
土煙が晴れていく中、魔獣がこちらを向いた気がした。
ああ、それでいい。
オレにはこれしかない。高いメシを食っても、半日爆睡しても晴れることのない苛立ちのような不満足感。オレは日常に飽きていた。
けど、今は充足感に満ちている。戦いの中で生きる意味合いを見出すなんて馬鹿げた考えだと思ってたがな。
“実際に死ぬような場面に出くわしたら?”
“そん時は死ぬだけだ。”
――ああ、それでいい。
オレはもう一度自問自答を終えると、晴れ行く煙の中前方に佇む魔獣をその目で視据える。
速度は互角、いや、負傷している分オレのほうが劣る。なら、常に先読みをして裏をかき続けるだけだ。
オレと魔獣。動き出したのはほぼ同時。
身体能力は上がったとしても、所詮は魔獣。相手の変化を理解してデータをインプットしていくのはまだまだ苦手と見える。
そうして読み勝つ。オレは魔獣の裏を取る。なんてことない、臆して背中を見せなければそこまで難しい話じゃない。
問題はここから。
「crystalEdge!」
隙だらけの脇っぱらに全力を叩きこむ。先ほどの一撃は全く手ごたえが無く面食らっちまったが、何度も同じ個所に叩きつけてやればいつかはぶち抜けるはずだ。
ここからは根競べ。命はもう投げうった。恐れることなんて何もない。だから、あとは楽しむだけ。
「へへ、来いよゴキブリ野郎。どっちかがぶっ倒れるまで楽しもうじゃねえか」




