死中に活路を4
(あと一匹。あっちはそろそろ再生が終わる頃か。今の感覚は悪くねえ。もう一段ギアを上げてフィニッシュと行くか)
オレは残る魔獣の方向に目を向ける。全力ではないとはいえcrystalEdgeからの六方覆ウ境無キ極彩ノ影の連撃をお見舞いした。異能の開示などなくとも、本来であれば初めの一撃で霧散して消えている。
見た目通り耐久力はある。半壊しても元通りに戻る再生力。別れた際に分裂する繁殖性能。加えて不意打ちを仕掛ける狡猾さ。不意打ちを必殺に変える、一撃で岩石を破壊するほどの破壊力。
“病院で行方不明者が出る”
いつかギルドで耳にした情報だ。
なるほど、ギルドの奴らに手が負えないわけだ。みんなコイツに殺されたってことか。
「それにしてもあの糸遣いヤローも適当なこと抜かしやがる」
あの糸遣いの言っていたショッピングモールには何もいなかった。それどころか平常運転、誰も魔獣の噂なんて口にもしないし、何の情報も得られなかった。そこでギルドで聴いた噂を頼りにここまで来たってわけだ。
(まあ、コイツが件の女を襲う魔獣なのかは知らねえが)
そこまで考えて思考が止まる。
(なんだ、アレは?)
魔獣の身体が淡い緑色に輝いていた。
再生能力に起因するものか?
それが実体となって目視できるようになったのか?
いや、違う。
こいつらはこれまでも何度か再生行動を取ったが、そのどれもが発光を伴う状態変化ではなかった。
放置は不味い。魔獣狩りとしての直感が本能に警鐘を鳴らす。そう考えた時には地を蹴り魔獣のすぐ傍まで詰め寄っていた。
「crystalEdge!」
脳天一撃、先ほど魔獣を粉々に潰した水晶の刃の如き蹴り。しかし、その必殺の一撃は永遠に魔獣の脳天に辿り着くことはなかった。
咄嗟に判断を切り替え一度後退する。
(なんだ、ありゃあ?)
確かに捉えていた。今度は異能の開示も済ませてある。いや、そんなものどうでもいい位の助走で振り切った。確実に仕留められたはずだ。
だのに、足には感覚がない。一瞬足ごと持っていかれたのかと思い、自身の足を見てみるが五体満足、どこも怪我らしい怪我はしていない。
(なんだ、なんなんだ?)
何らかの空間操作か。そんな器用な真似ができるとも思えないが、届かなかったのならもう一発入れてやればいい。次は二撃。真芯を捕えて絶命させる。
「輪廻連ネル……」
踏み込む。一撃。地を蹴り再度魔獣のもとへ。捻りを加え顔面にストレートをお見舞いする。
「籠界ノ機ッ!」
二撃。体を捻り、勢いをそのまま殺さずに鳩尾に蹴りをくれてやる。しかし、手応えはない。まるで魔獣との間に視えない空間でもあるかのように、その拳が辿り着くことはなかった。
「おいコラ。どういったカラクリだ?最近の魔獣は異能も使いこなすのかよ?」
魔獣は答えない。その答えの代わりと言わんばかりに上腕二頭筋や三頭筋に当たるだろう部分を収縮させ、鞭のように撓る腕で殴りかかる。魔獣にはボクシングの心得があるのか、フリッカージャブの要領で目にも止まらぬ神速の一撃だ。
「っち」
オレは魔獣の見せたその為の動作に咄嗟の判断で体を捻り、その攻撃を避けようとした。
「ぐがぁあああぁあぁッ!」
拳は二度、いや、三度曲がり、避けたと思っていたオレの鳩尾を、お返しと言わんばかりに正確に打ち抜いていた。それはさながら狙った相手を追いかけ続けるミサイルのようにも見えた。
空中で凶弾に捉えられたオレは、そのまま地面に激突し、三度転がり背中を岩壁に預ける。
「ゴホッ!」
何だってんだ。コイツは。不意を突かれたわけじゃない。焦って攻めに行ったとはいえカウンターも警戒していた。どんな攻撃にも対応できるはずだった。
スピードが急激に上がった。力も恐らく増している。もしかしてさっきもう一匹がやられているのにコイツが動かなかった理由は、力を蓄えていたとでもいうのか。
(それにしてもこっちの攻撃が全く効かないってのはちとヘビィだな。どうする、時間であの強化状態が切れるのを待つか?いや、そもそも切れる確証もねえか。なら、どうする。逃げるのか?)
オレの異能 疾風『AloofnessSoul』は身体能力を上げ高速移動を可能にする力だ。攻めはもちろん、相手の攻撃の回避、かく乱、離脱、全てにおいてアドバンテージを取れる。
“逃げることはいつだって敗北者の選択だ。だが、間違ってるとも思わねえよ。逃げることが勝利につながることもあんだろ”
それはいつかオレがあの糸遣いに言った言葉だ。
逃げて勝つ。それが間違ってるかどうかは実際のところよくわかんねえ。だが、我ながら随分と情けない言葉だと思った。
意気揚々と踏み込んだ手前、そんなダセエ真似をしたくは無いが、これは予想以上に分が悪い。この状況が好転しないならオレの敗北は必至。例えるなら防御力「千」の敵に攻撃力「五」で殴り続けるようなもんだ。ゲームになっちゃいない。
(仕方ねえか)
そう考えをまとめ、オレはこの場から離脱しようとした時だった。あの魔獣の姿が忽然と消え、オレのすぐ横に移動していたのだ。




