死中に活路を2
そう言うとオレはこれ見よがしに魔獣に背を向ける。別にこれで終わるとは思っちゃいない。オレは馬鹿だが魔獣はこれまでも何十体と潰してきた。ノウハウはあるつもりだ。
ヤツらは人間と同じような常識の枠に収まる奴らじゃあない。さあ、撃って来いよ。その長く伸びるだろう腕で。不意打ちは油断してる相手には甘く入るってのが決まりってもんだ。それを見切って振り向き様のクロスカウンターで今度こそ本当のファイナルだ。
(!?)
その時だった。地面に大きな影ができる。何かがオレの頭上を通る影。それはオレを跳び越すと目の前に大きな音を立てて着地した。
魔獣は何も言うこともなく目の前に佇んでいる。先ほど千切れ崩れた身体は出会った時と寸分違わず元通り修復されていた。
(裁縫よろしく縫合でもして縫い合わせたっつーことかよ。器用なモンだな)
なるほど、人語を介さないと馬鹿にするなかれ。思ったよりも武人と見える。魔獣らしい卑怯な手は使わないってわけだ。
「面白れえじゃね……ぐぅぶ!?」
瞬間、オレの腹に何かがめり込んでいた。黒く硬い岩のような何か。咄嗟の判断で後方にステップをして衝撃の緩和と共に距離を取る。
(なんだ、今のは?ヤツの腕が伸びてきたのか?)
もう一度奴の位置取る方向を確認する。その姿は先ほどから全く変わらない。離れている距離は十メートル程度しかないとはいえ、腕を伸ばして攻撃を加えるのであれば、確実に挙動が変化するはずだ。
しかし、ヤツは動いた素振りすら見せない。まるでその場から全く動かなかったとでも言わんばかりに。
(いや、そうだ。ヤツは)
痛む身体を押さえてオレはさらに距離を取る様に後方に飛び退く。
オレが今いた場所の地面に穴が開き黒い影が現れる。それはもう一匹奥のヤツと瓜二つ、同じ姿形をした魔獣だった。
「分裂して同じ個体を増やし続けるなんてな。ゾンビ映画もびっくりの再生力じゃねえか」
組み直しだ。ヤツの心臓をぶち抜いたと思ったら、そこから上下に別れ、それらは縫合されるという形ではなく、個々で元の姿に再生した。
あの二つがどういった原理で動いているかは分からない。片方が司令塔でもう片方を操っているのか、それとも互いに特別な手段で意思疎通を図れるのか、全く別の意思を持ち個々で動くのか。
仮に俺の前で佇んでいた上半身を魔獣A、地中に潜んでいた下半身を魔獣Bとする。
魔獣Aは先ほど全く動かなかったことから、ヤツが司令塔だという可能性はあるが、確率としては半々、当てにならない。
なぜなら、先ほどの魔獣Aは動かないという状況の中、地中に潜んでいた魔獣Bの不意打ちでオレを仕留めるという選択を取っただけだろうからだ。
そして、その計画が崩れたのなら当然。
魔獣AとBは同じタイミングで地を蹴り突進してくる。その重そうな図体からは想像もできない程の身体能力を披露し、真っ直ぐオレのもとに突っ込んでくる。
魔獣Aはその途中で進行方向を変え裏に回ろうとする。なるほど、角度を変えた時間差攻撃か。けど、今はもう関係ない。
「オレの異能は疾風『AloofnessSoul』まあなんだ、疾風の如く疾いってヤツさ。アンタらを置き去りに出来るほどにな」
異能の開示ってのはよく分からねえ。どこまでが開示なのか。何をもって開示なのか。相手と共有するだけで異能の性能が上がるって原理もはっきり理解できちゃあいない。この異能にはオレ自身もまだ知らないような、隠された力があるかもしれない。
言っちまえば分かんねえことだらけだ。けど、この身で実感できる。それだけは紛れもないリアル。
なら、理由はどうでもいいか。
(何も考えてねえような馬鹿正直すぎる直線。さっきみてえに足元に潜り込んで、クロスカウンター気味に打ち上げてやらあ)
それでその後は?
生半可な攻撃じゃあ、またしても分裂を許してしまうかもしれない。そうなれば地獄のような倍々ゲーム。二体でも鬱陶しいのにこれ以上増えられたらたまったものじゃない。
だから――
「crystalEdge!」
パラフーゾの要領でひねりを加え、両足をカッターのように回転させて、気持ち悪く生えた頭をまとめて蹴り潰す。異能の開示で極限まで高められた水晶の刃の如き蹴撃はその身体をバターの様に斬り飛ばす。
「まだだァ!」
両手で地面に着地し、勢いをさらに付け背後に回る。
「目にも止まらねえ連撃を見舞ってやるよ。ギアを上げろ、六方覆ウ境無キ極彩ノ影!」
異能の開示による超神速の連打。音速を超えるほどに凝縮された拳が様々な角度から空気を裂く。甲高い金切り音のような音と共に魔獣の身体が吹き飛び崩壊していく。ドロドロの液体の様にブチブチと千切れる身体。
(っち、潰しきれなかった。けど、何だこの違和感は。ギアが上がり切らねえような、セーフティがかかってるような煮え切らねえ感覚)
それに六方覆ウ境無キ極彩ノ影で鳴る音に歪があった。軽減したとはいえさっき貰った一撃がまだ響いてるって事か。
しかし、今の連撃でその身体の八割方は半壊している。ここは多少無理をしてでも押し切る選択を取るべきだ。
そう瞬時に考えをまとめ、もう一度連撃を叩きこんでやろうと相手との距離を確認する。
ここから目測十二メートル。異能を開示した今のオレなら腹に貰った一撃を加味しても、一瞬で詰めることが出来る。もう一度だ。




