死中に活路を
複雑に交差する通路。枝分かれした先は再び複数方向に道が分かれ、その先でまた分かれる。
一本道も複雑に曲がりくねっており、早い段階でもしかしたら同じ道を歩いているかもしれない、と考えた千寿流たちは、一定間隔で通った道に目印として印をつけることにした。
しかし、同じような道が続いているというだけで一つたりとて同じ道はない。例えるならば、ゴールが延々と訪れない迷路を進み続けているような感覚に近いかもしれない。
この延々と続く坑道を迷路だと思いこみながら、千寿流は少しでも楽しい方向に考えようとしていた――その時だった。
「その、魔獣と対峙した際、私に少し時間をいただけないでしょうか?」
「え、う、うん。そう言えば言葉をしゃべる魔獣なんだっけ?」
「はい、勝手な話かとは思うのですが。私には…」
そうクラマが続けようとしたときに、言いたいことは分かってるよといった表情でシャルが言葉を被せるように返事をする。
「いいよ!ね みんなも いいよね?」
「うん、もちろん」
「ああ、別に構わないよ」
「ありがとうございます、皆さま!私はもう一度訊いてみたいんです。あの魔獣の本心を。分かり合えずとも、倒す以外に道は無いとしても」
そう言うクラマの表情は、先ほどと比べると幾分かと明るくなったような気がした。光の当たり具合からそう視えただけ?いいや、そんなことは無いだろう。
探索から三時間ほどが経過していた。
途中休憩を何度か挟みつつ、体力を維持しながら進んではいるものの、閉鎖的な空間による精神の摩耗はちょっと休んだ程度では回復しない。シャルはまだ元気な様子だったが、千寿流の表情は陰っている。どうやら少し疲れが溜まっているようだ。「休憩を挟もう」彼女が言おうとしかけた時だった。
「っ!」
何かに気づいたのか、クラマは一歩前に躍り出ると手を広げて千寿流たちを制止した。もしかして何か魔獣の手がかりになる様な物でも見つけたのだろうか。千寿流は制止するクラマのわき腹から顔を出して何があるのか確かめる。
「ちち、千寿流ちゃん!?く、くすぐったいです!」
「えひひ、ごめん。でも、なにがあったのクラマちゃん?」
「いえ、今岩が強くぶつかる様な音が聴こえた様な気がして。もしかしたら岩盤が崩れて激突した音かもしれません。ここからは今以上に慎重に進むべきです」
ここは人工の坑道とはいえ洞窟のようなものだ。経年劣化により天井が崩れる可能性も無いとは言い切れない。しかし、現状何の手がかりもなく闇雲に進んでいる千寿流たちには、縋りたくもなる貴重な情報だ。
「行ってみようよ、みんな。誰か助けを必要にしている人がいるかも。早く行ってあげないと」
千寿流の問いかけにこくりと頷く三人。音がしたほうへと急ぎつつ、けれど細心の注意を払って。ゆっくりと急ぐ。壁面で手を支え、探りながら進む。手が濡れて少し気持ちが悪い。それは濡れた岩肌に依る水滴ではなく、緊張で手から滲み出た汗だからだろう。
__ドゴン!
今度は先ほどの音より大きかった。間違いない。これは土砂崩れで起きた音なんかじゃない。何かが坑道にぶつかったような音。
嫌な予感がする。早くしないと手遅れになってしまうような。そんな途轍もなく大きな胸騒ぎが。
その時だった。千寿流の隣を突風が駆けていく。いや、クラマだった。誰よりも早く異音に気づき、誰よりも早く判断を決める。まるでこの音の正体を理解していると言わんばかりに。
思えばクラマは病院に訪れた時から思いつめた顔をしていた気がする。きっと、ずっと魔獣について考えていたのだろう。自分に取り逃がしてしまった一因があると責任を感じて。
(クラマちゃん。そんなこと考えなくてもいいのに)
悪いのはどう見たって魔獣のほうなんだから。坑道の中が薄暗いせいもあるが、クラマの姿はあっという間に姿が視えなくなってしまった。
「い、行っちゃった!あたしたちも急ごう!」
慌てて千寿流たちもクラマの後を追うのだった。
(やはり、魔獣!しかし、水性の魔獣ではないようですね)
開けた場所に踊りだし、始めに目に入ったのは上半身を筋骨隆々の筋肉の鎧のようなもので纏ったどす黒い邪悪。二足歩行であるがその姿は異形とでも云わんばかりに、所々関節が人間のそれよりも多い。筋肉の様に膨れ上がった腕にはこれまでの魔獣と同様、血管の様に赤い線がいくつも走っていた。
表情はそれに輪をかけて奇妙だ。人間の首に当たる部分に大きな口が開いており、頭に当たる部分にいくつもの首が生える様に伸びていた。その表情はどれも苦悶に満ちており、腫れ上がっていた。
初見であるならばその歪な在り方に嫌悪感を抱かずにはいられないだろう。そして驚くべきはその魔獣と対峙している人間がいたということだ。
(っ!?女性じゃない?)
「来いよ。第二ラウンドと行こうぜ?」
____数刻前
「おいコラ。アンタその面、魔獣だろ。こんなところで何してやがる」
目の前の魔獣はオレの声に反応したのか分からないが、こちらに顔のようなものを向ける。顔のようなものと称したのは、果たしてそれが本当の顔なのか分からなかったからだ。首元の口からは五つの顔が生える様に伸びていた。
近頃は人語を介す魔獣がいるとの噂だが、果たしてこいつはどうなのやら。人間の顔のようなものは確認できるが、その表情には生気がない。昔やったバイオハザードの様に皆が皆ゾンビのような顔。
(会話できてもまともなやり取りは出来ねえな。なら)
先手必勝。いつだってオレは三分以内でケリをつけてきた。それを超えるんならそれは死闘だ。どっちが勝つか分からない、命をベットした戦い。
顔はどれが本物か分からない。あの腕は厄介だろう。振らせる前に終わらせるのがベスト。
一瞬で判断したオレはサイドステップで視界をかく乱しつつ挙動を確認すると、無数にある頭の全ての死角になる様な足元に潜り込む。そのまま勢いを殺さず、心臓があるだろう左胸辺りに速度を乗せた回し蹴りをかましてやった。
その見た目とは裏腹に脆いのか、ブチュリと拉げるような不快な音を立てると、下半身と上半身に分断され地面に転がるのだった。腕の筋肉は伊達ではなかったとしても、鍛え方が回らなかったようだ。
「フン、終わったな。ザ・エンドだ」
ザ・エンドは誤字じゃないです。風太君は馬鹿です。




