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ベトベトサン・その2

三馬鹿トリオのプロフィールとイラストを登場人物紹介に追加しました。

一度ご覧いただけると、理解が深まると思いますので是非。

 あれは見間違いだったのだろうか、あるいは目の(くら)むような太陽光の反射が見せた幻だったのだろうか。

 そんな考えが次々と頭に浮かんでいく。


 そしてクラヤミはいてもたってもいられず、好奇心をつのらせ、感情が(たかぶ)っていった。


「まぁまぁまぁ……!! これは素晴らしい!!」


「うぉっ!? ど、どないしたん……いきなり?」


「あの! ガオルさん! 今の方々について、詳しくお聞かせ願えないでしょうか!?」


「お、おう……人間にはまるで興味見せんお前が、(めずら)しいこともあるもんやな……」


 突然興奮しながら荒い息を吐く彼女の豹変(ひょうへん)に面を喰らっていたガオルだが、ゴホンと息を着いて場を切り替える。

 そのまま昨日ぶりに帰って来たジャケットをまさぐると、使い込まれたメモ帳を取り出した。


 彼は慣れた手つきで真っ白なページを探り当てると、色とりどりのペンでササッと覚書(おぼえがき)をしたためクラヤミに見せる。


 見ると、普段から描き慣れているのか、顔に似合わず絵心のある可愛らしい似顔絵。

 人は見た目に寄らず意外な才能があるものだと、クラヤミは心の中で静かに微笑(ほほえ)んだ。


「ええか、まずはコイツや」


 そう言って見せられたのは、猫耳のカチューシャを着けた黒髪の少女のイラスト。

 口に焼き魚を(くわ)えているのが、強烈に脳裏へ印象付けられている子だ。


「コチラは……最初に飛び出して来た?」


「せや、あんのクソガキや。 名前は『勝堀円稼(カツホリ マドカ)』、周りからは『ガッポリ』とか呼ばれとる。 ワイらの商売敵の放送部所属や、顔くらい覚えとき。 (から)まれたら遠慮せんと塩撒いてええからな」


「なにもそこまで邪険(じゃけん)になさらなくても……」


「アカン、アカン! クラヤミ、お前そんなんやったら、あの泥棒猫にネタ盗まれんで!! アイツは金のためなら何だってやるゼニゲバ娘や、ぼうっとしとるとケツの毛までむしられんでホンマに!!」


「はぁ……なるほどですね。 気を付けます」


 渋々とながらもクラヤミが(うなず)いたことに満足すると、ガオルは次の覚書をサラサラと仕上げていく。


「ほんで、次がコイツや」


 差し出されたメモ帳には、ハーフ系の顔立ちで金髪が目立つ子が楽器と共に描写されている。

 クラヤミが彼女達の接近に気が付いたのも、この子の騒音が切っ掛けであった。


「あの一言も喋らんと、楽器ばっか(いじ)っとったのが『目出泰子(メデ タイコ)』、こっちはそのまんま『タイコ』や。 ()()()言うても、手に持っとったやつやないで、名前や名前。 聞いた話やと、日本語が下手やから、あんま喋りたないらしいな、知らんけど」


「まぁ、それでホイッスルを……それでも仲良しなお友達がいて楽しそうでしたね」


「せやなぁ。 あいつら三馬鹿言われるくらいには、いっつもつるんどるしな」


「それで、あの……もう一人の方なんですけど……」


(あせ)んなや、今描いとるっちゅうに……ホレ、こいつやろ?」


 そこには、真夏のトマトのように赤い頭の女の子が描かれていた。

 クラヤミがあの三人の中で一番気になっている、不思議なカバンを背負っていたと思わしき人物。


 しかし、イラスト上の彼女は()()()ランドセルを背負っている。

 やはりクラヤミの見間違いだったということなのだろうか。


「あぁ……そんな……」


 クラヤミにとって、咄嗟(とっさ)に写真を撮っておけばと、これほど後悔した日はないだろう。


「なんや、しょぼくれた顔して……? まぁええわ。 んで、最後のコイツが『明石真多子(アカシ マダコ)』、こっちも『マダコ』で呼ばれとるな。 なんも考えとらんアホで、面白そうなら()()みたいに引っ付いて周るやつや。 そんなやから、ガッポリのカメラ係とか雑用やらされてんねん」


「タコ……!!」


 メモ帳に描かれた彼女の背に張り付いていたナニカもタコに似ていた。

 偶然とは思えない単語の一致に、思わず喰い付いて反応する。


「ん? おぉ、せやで。 コイツが(たこ)、さっきのパツキンが金目鯛(きんめだい)、口の悪いドラ猫が招き猫(まねきねこ)って自分らで言うとるらしいで。 まとめて『縁起物(えんぎもの)トリオ』なんやと、ホンマしょーもないわ」


「あの、いえ……そうではなく。 ガオルさん……こちらの、マダコさんの背中ってご覧になりましたか?」


「背中? カバンで見えへんやろ、そんなもん」


「そのカバンです。 何か、変な所など……特に匂いだとか、気が付きませんでしたか?」


「さぁなぁ……ちゅうかなんや、えらい喰い付くやんけ。 もしかして、何か()()んか? お前、目はええからなぁ」


「実は……彼女のカバンが、タコに見えたんです。 紫色の、とても大きなタコでした」


「ハァ? なに寝ぼけたこと抜かしてんねん。 それがホンマやったら、なんぼなんでもワイだって気ぃ付くわ!」


「では……やはり見間違いだったのでしょうか……」


「まぁ、どうせ隣のクラスの連中や。 そんな気になるんやったら、いつでも見に行けるやろ。 それよか転入生や! このビッグニュース、あんの泥棒猫にかっさらわれる前に、ワイらで独占取材や!! 忙しなるでぇ!!」


「……そうですね。 最近怪異(かいい)のことばかりで、普通の記事が少なかったですから」


「そうと決まれば、はよ学校行くでクラヤミ!」


「あ、出来れば日陰(ひかげ)のある道を……」


「アホ! 寝ぼけとるんやから、日に当たって目を()ましぃ! ほれシャキッと歩かんかい!」


「ま、待ってください……はひ、(あつ)い……」


 先に消えた三人娘を追うように、二人は通学路を駆けだした。

続きます。

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