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カミナリオコシ・その3

「女の子……!? 学校では、見たことない子だ……!!」


「だ、誰やねん、お前!?」


「…………フン」


 謎の少女が現れたことで困惑(こんわく)する少年達。


 そんな彼らの泡を喰った(つら)(おが)もうとしたのか、怪異から抜け出した少女がその手に下げたモノを突き出した。

 まるでひっくり返したフライトキャップ、あるいは布製の手提(てさげ)(ふくろ)といえるソレがランタンみたいに光を放っている。


 袋の中からはボウっと静かに火が踊る音が聞こえており、線香(せんこう)のような煙と匂いが(あふ)れて降りていく。


「なんや、ダンマリか。 スン……この匂い、学校で暴れたんはお前やろ!」


「ちょ、ちょっとガオル! まだ、この子が悪いと決まったわけじゃ……」


「……どいつもこいつも、礼儀を知らん間抜け面だな。 特にそこの(とら)頭」


「なんやとワレェ!?」


「落ち着いてってば!!」


 少女の、なんとも気位の高い物言いが(しゃく)(さわ)ったのか、今にも飛び込む勢いでガオルが喰ってかかる。


 しかし、まだ相手の正体や狙いも分からず、交渉(こうしょう)の余地すら見えていない状況。

 流石に不味いと、後ろにいたゲットが彼を羽交(はが)()めにして抑えつけていた。


「『こちらの世界』の下民共、特別に教えてやろう。 女は無事だ、我の足元で眠っておる」


「クラヤミさんが!? 良かった、やっぱりいたんだね!! 教えてくれてありがとう!!」


「ドアホ、ゲット!! なにヘコヘコと礼を言っとんのや!! そもそもコイツが連れてったんやぞ! おいコラ、謝罪(しゃざい)せい、謝罪!! 頭が高いねん、お前!!」


「高くて当然であろう。 むしろこちらの台詞だ、我は『(むくろ)の王』の一人娘であるぞ」


「知るかボケ! んなモン、聞いたことあれへんわ!!」


「チッ! これだから、『こちらの世界』の下民は嫌いなのだ」


「……うぅ、助けて委員長……ボクにはこの二人を止められそうもないよ……」


 謎の少女と虎頭のガオル、互いに相手とは相容(あいい)れぬ存在だと決めつけているようで、これっぽっちも退こうとしない。

 そのためか、一言ごとに火花を散らすほどのメンチ切りが()えなかった。


「フン、時間の無駄だな。 この女からならば見つかるかと思っていたが、期待外れであった」


 突然目を伏せた少女がそう(つぶや)くと、ランタンを下げていない方の拳を(くや)しそうに握りしめた。


 あれだけ余裕の姿勢を見せていた少女に似付かわしくなく、どこか(あせ)りのような表情が見え隠れしている。

 それほどに、彼女の探すナニカは重要なモノだったのだろう。


 だが、気持ちを切り替えたのか、再びあの人を見下した鋭い瞳を浮かべて口を開いた。


「我は戻る。 貴様等が()()()()はしらんが、精々足掻(あが)くことだな。 せっかくあの女以外は帰してやろうと、配下を動かし、はからってやったというに……馬鹿なやつらめ」


「おい待て! どこ逃げる気や!! まだ話しは済んでへんぞ!!」


「戻るって……もしかして、この()()()()()()()を自由に行き来できるのかい!?」


 しかし、答えは返っては来ない。

 代わりにフッとランタンの火を吹き消すと、彼女は(きり)に包まれて隠れてしまう。


 やがて霧が晴れる頃には、少女の姿はどこにも見当たらなかった。


「消えちゃった……そうだ! クラヤミさん!!」


「ハッ!! せやった、アホに構って血が昇っとったわ!! はよ助けんと、骨の山に飲まれまうぞ!!」


 あの少女が(ただよ)わせていた煙が消えたせいだろうか。

 最後に残っていた巨大なシャレコウベが、ボロボロと崩れ始めて虫食いになっていく。


 彼女の言葉を信じるならば、連れ去られたクラヤミは、崩壊した欠片をもろに被っていることだろう。

 生き埋めになれば、助かるものも助からない。


 少年達は急いで頭蓋骨(ずがいこつ)の側面を蹴破(けやぶ)り、中へと雪崩(なだ)れ込む。


「クラヤミさん大丈夫……ひょぇっ!?」


 飛び込んだゲットが眼にしたのは、衣服をズタズタに裂かれてあられもない姿になったクラヤミであった。


 幸い、血は出ておらず、目立った傷らしいものは見当たらない。

 卵のような白い肌が眼に痛いくらいだろう。


 もっとも、異性を意識する年頃には、少々刺激が強すぎたかもしれないが。


「顔赤くしとる場合かアホ! オカンの身体やと思って無視せんかい! 分かったら、さっさと脚の方持てっちゅうに」


「ご、ゴメン……つい……それじゃ、いくよ、せーのっ!!」


「わーっせ! わーっせ!!」


 大人に負けない身長のクラヤミを子供一人で(かつ)ぐのは難しい。

 そのため、手分けして担架(たんか)のように長い身体を持ち上げ、なんとか崩落前に脱出できた。


 安静にできる場所へ彼女を横たえると、目のやり場に困る身体を隠すようにガオルがジャケットを掛けてあげる。


 それで安心したのか、ガオルとゲットは互いにハイタッチを交わすと、そのまま仲良く地面に倒れ伏す。

 緊張の糸が切れて、無理矢理動かしていた身体が(なまり)のように重く感じるのだろう。


「ふぅ……危ない所だったね……色々と」


「せやなぁ……ごっつ、疲れたわ……」


「でも、あの子……クラヤミさんから何を探してたんだろうね?」


「んなもんワイが聞きたいわ。 せやけど、アイツだけ狙われてたちゅうんは間違いなさそうやな。 服までズタボロにしてるくらいやし」

もう少しだけ続きます。

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