カミナリオコシ・その2(挿絵)
鎖が見たことも無いほどに火花を散らし、目の前で花火が炸裂したかと思う程に光を乱反射させていく。
耳をつんざく雷鳴で、すでに発光時の風情がある音など掻き消されて届かない。
あまりにも乱暴な音と熱が、その場に集まっていた少年少女の五感を狂わせる。
世界はやがて紫電の光に包まれ、完全に視界を奪っていった。
「うぉぉ眩しっ!? ど、どうなったんだ!?」
「私にも分かんないわよ!!」
聞こえにくくなった耳へ届けるため、自然と自分達の声も大きくなる。
キンと耳鳴りが続く中、微かに鎖が擦れて落ちていく音がしたかもしれない。
だが、二人共それを確認するとこは出来なかった。
子供たちに、遮光して防ぐという概念は無い。
強烈な光を見てしまったために目が眩み、静電気を分け与えようと抱き合った二人は、へなへなとその場に座り込んでしまう。
耳と目を使えない人間は、満足に立つことすら難しいのだろう。
互いに回した腕を頼りに支え合い、徐々に回復していくぼやけた両目を瞬せていた。
鎖を辿った先の先。
突き刺さったボロ傘が煙を上げている様子、それを遠目からガオルとゲットが眺めていた。
あれだけ大きく恐ろしいガッタイコツであったが、さしものバケモノでも脳天直撃の雷撃は効いたらしい。
ガクリと首を落として動きを止めている。
「や、やったんか……!?」
「分からない……なにせ骨だからさ。 生身なら焦げ付いてたりするんだろうけど……」
「ちゃうちゃう、その中の方や。 あっこの頭ん中に人っぽいのがおるはずやねん、ほれ」
ガオルはトラ柄のジャケットに仕舞っていた一枚の写真を差し出す。
それは、クラヤミが最後に残していったもの。
見ればガッタイコツがドアップで写されており、あの窪んだ眼の奥まで見通せる。
その両目の間の辺り、ちょうど灯篭のように灯る光に、不自然な影が浮かび上がっていた。
「これ……人影、だよね? さっきは作戦だけで細かいところは聞けなかったけど、ガオルが自信満々だったのはコレのせいってわけだね」
「せや。 あの脳無しの骨どもが統率して動けるわけあれへん。 誰かは知らんけど、そいつが『頭脳』になってたっちゅうわけやな」
「これが……クラヤミさんを連れ去った真の敵だったってことだね。 そういえば、なんでガオルだけ残されたんだろう?」
「そりゃ分からんけど、このトラの頭のせいちゃうんか?」
「あの大きな骸骨が、それくらいで引き下がるとは思えないけど……」
「まぁ、なんにせよや。 そこんところは、アイツに直接聞いてみればええやろ」
そう言って、ガオルは言葉を止めてガッタイコツの方を指す。
校舎の陰に隠れて様子を窺っていたが、あれからウンともスンとも動きを見せていない。
もう近付いても安全だと判断したらしい。
「ほ、本当に行くの……? 上にいるター坊達を待ってからのほうが……」
「なにヘタレとんねん! あっこにクラヤミがおるはずなんや! どこの馬の骨とも知らん奴と寝かせておけるかい!!」
「う……わ、分かってるよ……」
及び腰のゲットをどつくと、ガオルはずんずんと先陣切ってガッタイコツへと歩いていく。
その後ろで盾にするように背中へ縋りながら、ゲットもなんとか追従した。
何事もなく歩を進め、地上の二人が巨大なシャレコウベの目前にまで迫る。
すると、突然に頭蓋骨が首から外れて転がっていく。
「ひぃッ!?」
「大丈夫やって、いちいちビビんなや」
歪な形が幸いしてか、その場でグラグラと揺り籠のように船を漕ぐだけで被害は納まる。
それに腰を抜かしたゲットがガオルの服を引っ張るものだから、呆れた顔で彼を立たせることに。
世話を焼いてガオルが振り向くと、なんと忽然と頭だけを残して身体の骨が全て塵に消えていた。
「……な、なんや? 急に朽ちていくやんけ……?」
「ま、待ってガオル!! 何か聞こえる……!! クラヤミさん……?」
「ホンマか!?」
パキパキと、焼けた骨が割れる音。
がらんどうの眼の奥から響くそれは、恐らく誰かがシャレコウベをよじ登っている証なのだろう。
やがて、穴の中から漏れ出る煙がいっそう増していく。
遠目では煤けた煙だと思われていたもの、だが眼と鼻の先で見比べると、それがこの学校を覆っていた霧の元凶であることが判明した。
つまりそれはクラヤミとは別人であることを意味している。
「いや違う、中のヤツが起きてるんだッ!?」
「チッ!? しぶといやっちゃなぁ!!」
すぐにガオルは大きく牙を剥き、臨戦態勢を取ってグルルと威嚇する。
実際の戦闘能力はなくとも、無いよりはマシだろう。
ゲットが離脱の準備を整える時間稼ぎだけでも買って出る気らしい。
だが、そんな彼らの勇気を一蹴するように不機嫌な声が返って来た。
「喧しいぞ餓鬼共。 まったく、我が慈悲の心を見せてやったというのに、仇で返しおって……」
声と共に姿を現したのは、褐色肌を黒い衣で包んだ異国風の少女であった。
背丈も年頃も、ガオルやゲットと変わらないくらいだろうか。
ジロリと見下す鋭い瞳は、よく見ればそれぞれ色が異なり、赤と青の怪しいオッドアイを光らせていた。




