表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/103

トラニナッタ・その3

「なんや……? もしかして、聞こえるんはワイだけなんか……!?」


 やたらと目を(かがや)かせて見つめて来るター坊を見て、ガオルは自分の方が()()()()のだと気が付く。


 不思議な怪異(かいい)達だからこそ、言葉の一つくらいで今更驚くことでもないと感覚が麻痺(まひ)していたらしい

 そのためか、彼は自分だけに聞こえて来る剥製(はくせい)の声に疑問を抱かなかったのだ。


「当ったり前だろ? オレ達には動物の鳴き声しか聞こえねーもん!」


「そうだね……ボクも声なんて聴いたことないよ。 もちろん委員長もだと思う」


「ね、ねぇ……私の思い違いかもしれないけど……ガオルの頭が()()なっちゃたせいじゃないの? 声が聞こえるのって……?」


 窓際に背を預けていたヤガミンは、自分の膝元(ひざもと)に集まる剥製の一体を手に取ると、己の頭の前に重ねるような仕草を見せる。


 それは、ガオルの頭がすっかり(とら)になってしまったことを暗示していた。


「つまりなにか、ワイが()()()()()せいっちゅうんか……んなアホな……」


 どんどんと自分が人間離れしていくことを受け止め切れず、ガオルは変貌(へんぼう)してしまった頭を抱えてその場にへたり込む。


 そんな悲壮感(ひそうかん)(まと)う彼を(しの)びなく思ったのか、ヤガミンの元に集っていた剥製達は口々に(なぐさ)めるようなか細い鳴き声を発し始めた。


「ええい! 同情はいらん、動物と一緒にすんなや! ワイは人間やっちゅうに!! なぁ、せやろお前ら!!」


「だから、オレ等には何言ってっか分かんねーって! でもよぉ、ガオル結構(した)われてるみたいじゃん。 今のお前なら百獣の王って感じで、言う事聞かせられんじゃね? なんか芸させてみてくれよ、なぁなぁ!」


「百獣の王はライオンだろ、ター坊……でも確かに、ボク達だけじゃ心許(こころもと)ないし、この剥製達が骸骨(がいこつ)を追い払ってくれたら頼もしいかもね」


「骸骨……そういえばあなた達、クラヤミさんはどうしたの? 見当たらないようだけど、もしかしてその骸骨に……!?」


 廊下から帰って来た男子三人組、その後に続くはずの背の高い女子の影が未だに無い。

 薄々(うすうす)(さっ)していたようだが、ようやくヤガミンは恐れていた不安を口にした。


 彼女の言葉でガオルはハッとしたように面を上げ、申し訳なさそうに(まぶた)を落としながら事情を語る。


「そうやねん……アイツ、ワイの目の前で連れてかれてもうたんや……あのクッソデカイ骸骨が邪魔(じゃま)せんかったら、くそぅ……」


「クソデカ骸骨!? カッケー!! なぁなぁ、ガオル! ソレ、どんくらいデカかったんだ!?」


「そりゃお前、学校よりデカかったんちゃうか? 窓からガーっと(うで)突っ込んできよってん。 なんでワイが生きとんのか不思議なくらいや」


 ガオルはそう言ってジーンズを(めく)り上げると、(にぎ)()められて赤くなった(あと)を見せつける。

 クッキリと浮き上がる太い五本線、それは巨大な手が彼の脚を襲ったことの何よりの証拠(しょうこ)だろう。


「ヒィィ!? ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!! そんなバケモノが外にいるのかい!?」


「なにビビってるのよ、ゲット! クラヤミさんが連れ去られたのよ? だったら行くしかないじゃない!!」


「そ、それは……そうだけどさ……」


「頼む! ワイも(くや)しいねん! アイツ取り戻すのに、力貸してくれ!!」


 今まででもトップクラスに恐ろしい怪異の存在を知った途端、尻込(しりご)みして(しぶ)るゲット。

 そんな彼に向かって、ガオルは(ひたい)を床に(こす)り付ける勢いで頭を()せると、(はじ)をかなぐり捨てて助力を()う。


「わ、何もそこまでしなくても……!? やるって! ボクだって友達は見捨てられないからね」


「よく言ったぜゲット! 勿論(もちろん)オレも行くからな!」


「ター坊達だけじゃないわよ、クラス委員長として、私だって当然行くわ!」


「お、お前ら……くぅぅ、泣かせるでホンマ……!!」


 少年少女は互いに決意を表明し、小さな身体に大きな(きずな)を結び合う。


 しかし、それだけで現状を打開(だかい)できるわけでもなく、問題点は何一つ解決していない。

 連れ去られたクラヤミの安否(あんぴ)も不明なため、至急(しきゅう)作戦を立てる必要があるだろう。


 そう思ってか、ヤガミンが眼鏡をクイと直して光らせると、浮かれた男子達に釘を刺す。


「それで、どうやってその巨大骸骨を突破する気なのよ? 誰か考えはあるのかしら?」


「それは勿論、ガオルに命令してもらって、剥製達が骸骨を蹴散(けち)らせば……」


「あらそう。 でもこの子達、ほとんど草食動物だから戦力にならなそうなんですけど?」


「うっ……言われてみると確かに……」


 ゲットが自慢気に上げた案は、呆気(あっけ)なくヤガミンに却下(きゃっか)される。

 もとより、動物園育ちの剥製達に、そんな闘争心(とうそうしん)を求める方が(こく)というものだろう。


 撃沈(げきちん)して落ち込むゲットを押しのけると、続けてター坊が案を披露する。


「なぁ! オレ、思ったんだけどさ! ガオルって今は虎なんだろ? だったら、虎パワーで滅茶苦茶に強くなってんじゃね?」


「お? せやったわ……確かにワイもこの姿になってから、力を試したことあらへんかったわなぁ」


「ター坊にしては良い着眼点じゃないの。 ねぇ、ガオル……試しにそこの机を持ち上げてみたらどうかしら?」


「へっへっへ、ワイのパワーアップした身体を見て、(おどろ)くんやないでお前ら!」


「うぅん? ボクには特に、これといった()()の変化は見えないけど……?」


 ダボダボのジャケット脱ぎ捨てると、ガオルはいかにも強そうに肩をグルリと回して力こぶを作る。

 運動部所属ではないため、隆起(りゅうき)した筋肉は肉眼で確認できるかどうかという所。


 ゲットの不安通り、本人の言葉の割りにはなんとも頼りなく見える。

 それでもガオルは自信を崩さず、二段重ねになった机に手を掛けた。


「よっしゃいくで! フンヌヌヌヌヌ……!!!」

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ