表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/103

ガッタイコツ・その7

 首だけの不気味な『ブレーメンの音楽隊』は、どれも何かへ(おび)えるように(ふる)えており、小刻(こきざ)みな振動がヤガミンを()する。


 皮だけの()り子といえど、板張りも含めればそれなりの重量。

 それがいくつも乗っているのだから、子供の力では押し返せず、ヤガミンが抗議(こうぎ)していのだ。


「へへ、ヤガミンもたまにはモテるんだな。 人間に、じゃなくて動物にだけどな!」


「余計なお世話よ、ター坊!! いいから、どけてってば!!」


「へ~? いつもみたいにガミガミ言ってやれば、そいつ等も聞くんじゃね~の? うぷぷ」


「ちょっと!! それが、か弱くて困ってる女の子に()ける言葉なわけ!? 本っ当に信じられない!!」


「か・よ・わ・い~? あれれ~? いつもオレのことをツネる怪力は、どこいったんだぁ~? ししし!」


 相手が絶対に手を出してこない、それを理解しているためか、ここぞとばかりにター坊がからかっている。

 実際、彼女は剥製(はくせい)に埋もれて手も(あし)も見えず、出せるわけもなかった。


 おまけにヤガミンへ()り寄る剥製達に悪意がないのもあってか、彼女が安全な内に手を貸すつもりはさらさら無いらしい。


 このまま放っておけば、どこまでも冗長したター坊との口論(こうろん)は過激化していくのが目に見えていた。

 最初は流れに任せていたゲットも、流石にそれは困るようで、見張っていた扉から視線を外すことになる。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて二人共……あんまり(さわ)ぐと、またあの骸骨(がいこつ)(おそ)われるじゃないか……」


「それもそっか。 剥製に追われたと思ったら、今度は骨だけ人間来襲(らいしゅう)だもんな。 今日は変な日、だぜっと……!!」


 そう言ってゲットの話に乗ると、ター坊は(ほうき)をバットのようにブンと大きく振り、追跡者を退(しりぞ)けた様子を再現する。


「というか……この剥製も、その骨に追われてたって感じだったけれどね……この(おび)えようからすると。 ちょっと、変なとこと()めないでよ!!」


「し~!! 静かにしてってば委員長!! その子達、キミの近くにいると大人しいし、もう少しだけ面倒見ててよ……ね?」


「はぁ……なんなのよ、ウチのクラスの男たちは……」


 首だけ剥製達の信頼を得たのもその時であり、大所帯では目立つためにこうして立て(こも)もったのだ。


 単体では少年でも対処出来る弱い骸骨だったが、数を揃えられると対処が出来ない。

 ゾロゾロと後続を引きつれた骸骨軍団を眼にした瞬間、即座に剥製も含めた皆で逃げ出したのである。


 その後、教室へ逃げ込んだ途端に剥製達がヤガミンへ(すが)り寄り、今に至っていた。


「それにしても……委員長って、なんで好かれてるんだい?」


「そんなの、私が聞きたいわよ……」


「あれじゃね? 髪の毛の噛み付くヤツ。 ヤガミンに似てガミガミしてっから、ボスだと思ってんだぜ、きっと!!」


「なによそれ!? 私はか弱い女子だって言ってるでしょ!!」


「ははは……シッ!! こ、今度こそ聞こえて来た……何かの足音、間違いないよ……!! ター坊も聞こえるだろ?」


 みんな本音は怖いのか、それを(まぎ)らわすように止まらない談笑(だんしょう)の中。

 扉に耳を当てたゲットの口から、不穏(ふおん)な報告が上がる。


「さっきは悲鳴だっけ? 今度も聞き間違いじゃねーの?」


「いいから、確認してみてくれよ!」


「へいへい……」


 血相(けっそう)変えたゲットの表情、そのあまりにも鬼気(きき)迫った目に根負(こんま)けし、面倒臭そうにター坊も耳を当てがう。

 すると、キュ、キュ、と廊下を叩く聞き慣れた足音が響いていた。


 骨のような堅い音でも、動物のような柔らかい音とも違う。

 それはター坊達が()いている上履(うわば)きのゴム底の摩擦(まさつ)に間違いない。


「これ!! 人間だ!! ここにいない、ガオルかクラヤミが来たのかもしれねぇぜ!! オレ、(むか)えにいて来る!!」


「あっ!? ちょっと、待ってくれよター坊!!」


「大丈夫かしら……? ねぇゲット、あなたも様子見て来てくれない? 私はコレだし……」


 まだ姿も確認していないというのに、無鉄砲(むてっぽう)に扉を開き廊下を突っ走るター坊。


 危なっかしい彼を案じてか、剥製に埋もれるヤガミンが困り(まゆ)を作ってゲットを見つめた。

 あれだけ口喧嘩はしても、喧嘩するほど仲が良いといことなのだろう。


「うっ……!! こんなことなら、早めに委員長を起こしておけばよかったかな……」


 いくらヤガミンに期待の目を向けられたとしても、危険を侵してまで教室の外には出たくないゲット。

 しかし、自分から『彼女にはそのままにして』と言った手前、否が応でも行くしかなかった。


「何か言ったかしら?」


「あっ、いや……い、行って来るね!!」


 バツの悪い顔でそそくさと扉を開けると、ゲットもター坊の後を追って廊下を駆けていく。


 すると、隣の教室の前を通り過ぎた辺りで、ター坊が立ち止まっているのを見つける。


「良かった、近くにいた……ター坊、どうしたんだい?」


「いやさ……ゲット、あれ……あれって、何に見える!?」


 ター坊の小さな指が震えている。

 彼の指差す廊下の奥、太陽光が(さえぎ)られて薄暗い通路の奥から、人影のようなものがたどたどしい足取りで(せま)っていた。


「何って、人……じゃない!? ひぃ!? な、なんだコイツ!!」

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ