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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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番外編 ふわふわパンケーキ2



 リベリオは鼻歌でも歌いそうなほど機嫌良く皿を片付けている。

 それはただ美味しいパンケーキが焼けたからだけではなさそうだ。


「ねえ、リベリオもしかして機嫌いい?何かいいことあった?」


 私がそう問うとリベリオは顔を赤くした。

 滅多に見れない照れ顔だ。つい拝みたくなるくらいかっこいい。拝むと困惑されるからしないけど。

 しかし一体何事だと私は首を傾げた。


「実は……引っ越す許可が出て。元の屋敷を手放すわけじゃないんだが」

「え、ええ、ちょっと初耳!」


 私は思いっきり身を乗り出した。


「悪い。私財とはいえ面倒な手続きなんかがあるし、一応機密だったから許可されてないとあまり話せることではなくて……」


 リベリオは王子様だからそこら辺が色々煩雑なのかもしれない。


「ええと……それでどこに引っ越すの?」


 私は少しだけ不安になりながら聞いた。今住んでいるのは結構遠い。無理して木陰カフェに通ってくれていたのは知っていた。もし、もっと遠くなったら──


「あそこ」


 リベリオは指差した。

 その指を辿れば──行き着く先は現在工事中の公園を挟んだお隣さん。


「ええええっ!!!」


 私の口からひっくり返った声が出た。


「あれ、リベリオの家なの!?」

「今建てているのは俺の私財で建ててる別宅扱いだな。今まで住んでた屋敷にもたまに帰るけど、あっちはあっちで管理してもらってるし」

「お、お金持ちは違うな……」


 なんたって王子様だ。


「いや、別宅っていってもそんなに大きくないんだが」


 大きくないのだろうか。随分と広そうにも見える。そう言うとリベリオは頷いた。


「ああ、ただの別宅ではなくて、近隣の治安維持に使ってもらえるようにしているんだ。二階建てにして、一階は衛兵の詰め所になる予定だ」

「そうなんだ!?」


 このあたりは平家が多いのに二階建てなのはそんな理由があるみたいだ。


「大通りに出て少し行かないと衛兵の詰め所がないだろう。この街も最近は人口も増えたし、人通りが多いから詰め所を増やして欲しいって意見が前々からあったんだ」


 それに、少し前に衛兵が襲われる事件もあった。わたしがロザーンに誘拐された時のことだ。


「わ、私のせい……だよね」


 詳細は広く知らされていないはずだが、治安が悪くなったと近隣の人に不安な思いをさせてしまったのだろう。


「そんなの気にするな。教会の孤児院も近いし小さい子供が多いからって理由もあるんだ。人間(ヒュムス)の通行証緩和に向けて、市民の安心感を高めたいってジーノも言っていたから」

「そう、かな……」

「それに──俺もサナとなるべく長い時間一緒にいたい。特に一緒にいられない夜から朝までサナが心配になるから……せめて距離だけでも近くにいたい」


 リベリオは耳まで真っ赤だった。

 私は思わず口を押さえた。あまりにドキドキしすぎて心臓が口から出ないように。

 私の顔も熱く、リベリオと同じく真っ赤になってしまっているだろう。


「えと、あの……私もリベリオと長くいられるの嬉しい」

「俺も……すぐ隣に詰め所があればもし俺が不在の日でも少しだけ安心出来る」


 目を細めて微笑むリベリオに更にドキドキしてしまった。




「リベリオ、それなら大工さん達に差し入れとかした方がいいのかな」


 必ずしもではないだろうけど、日本では建築中に飲み物なんかを差し入れすると聞いたことがある。

 しかもアニムニアはこんなに暑い中に手作業でやるのだから大変だろう。特に今日は暑いし、せめて冷たい飲み物だけでも差し入れしたい。


「なるほど……そういうことも必要なのか」


 リベリオは顎に手を当てて考えていた。


「……じゃあ暇だし、差し入れの材料買ってくる。サナも飲み物を出してくれるか?費用は俺が──」

「もう、飲み物くらい私に用意させてよ」


 なんてったって大事なリベリオの家を建ててくれているのだ。私も何かしたい。


「分かった……。ありがとうサナ」

「任せて!あ、材料ついでに安い木のカップも買ってきてもらっていいかな?人数多そうだから」


 リベリオは頷いた。




 差し入れの飲み物は3種類。いつものアイスコーヒー、それから炭酸水と普通のお水に、輪切りの青リモルをいれてキンキンに冷やした。コーヒーが飲めない人や、炭酸が飲めない人もいるだろうし、青リモルは熱中症対策にも良さそうだから。


 リベリオも材料を買って戻ってくる。


「ほら、サナ。これがバーシュだ」


 バーシュという果物を差し出すリベリオ。見た目は手のひらくらいの少し曲がった楕円形。

 薄茶色の皮はアケビにどことなく似ているかも。紫色だったならアケビそっくりだ。少し裂けて中身が覗いている。バナナにも似ているかもしれない。


「この裂けたところから剥く」


 リベリオが剥くとつるんと中身が出てくる。やはりアケビかバナナだ。


「なんか美味しそうだけど甘くないんだっけ」

「ああ。生では食べないな」


 それを木べらで潰し、水と小麦粉、バターオイルを加えて手早く混ぜた。バーシュの実はねっとりしていたのに、思ったよりさらっとした生地が出来上がる。あっという間だ。


「バーシュは卵を入れなくてもふわっとするんだ。焼くところも見るか?」

「うん!」


 お客さんもいないしリベリオにくっついてキッチンへ向かう。

 リベリオが使いやすいように魔改造されたキッチンでリベリオは鉄板を熱し、その上にバーシュをいれた記事を丸く垂らしていく。

 見ているとすぐにぷわっと膨らんだ。


「おお、膨らんだ」


 まんまるの生地がぷつぷつしてきたところでリベリオは生地にシロップを垂らし、棒を真ん中に置いた。どうするのだろう、と見ていたら生地をひっくり返さずに半分に折り畳む。

 あっという間に半月状の焼き菓子が完成した。オムレットみたいな形だ。


「これがバーシュ焼き。一つ食べてみるか?」

「うん!」

「熱いから気をつけろ」


 私はリベリオに渡されたバーシュ焼きを受け取った。火から下ろすとぷくぷくに膨れていたのが落ち着いて平たくなった。

 棒が刺さっているからそのまま持ち手になって便利だ。棒も少し熱いけど持てないほどじゃない。

 半月状でいい焼き色だ。中にシロップを入れていたから甘い香りがしていた。


 パクッと口にする。さっきのホットケーキはふわふわだったけど、これはモチモチだ。中に入った熱いシロップがとろりと出てくる。

 それほど大きくないのでぺろっと食べられる。でももちもちの食感なのもあり小腹満たしにはいいかもしれない。


「美味しかった!」

「バーシュ焼きは冷めても硬くならないし、軽食にいいだろう?」

「うん!」

「たくさん焼いておいて、冷めたら表面を軽く焼き直したりしても美味しい。祭りの時の定番メニューだな」


 餡子とかあるなら是非挟みたい。あとチョコレートやカスタードなんかも良さそうだ。


「ってか、お祭りもあるんだね」

「ああ、年に一回、アデル教のお祭りがある。今年はもう少し先だけど、近隣の店でも出店をやったりするから」

「へえー木陰カフェでも出られるのかな」


 このバーシュ焼きとアイスコーヒーなんかを出せれば良さそうな組み合わせだと思う。


「そうだな。売り上げの一部は教会に寄付になるからどうせ出るならたくさん売り上げたい」

「あ、それは頑張っちゃうね!」


 こっちにきてからずっとお世話になってるフォクシーにお金を受け取ってもらえるチャンスだ。

 普段の売り上げから寄付しようとしてもまだ受け取ってもらえないんだよね。貯金してくださいって言われてしまうのだ。


「それにこうしてたくさん出来るから、差し入れにもいいだろう?」

「うん!」


 リベリオは話しながらも手は止まらず、ひょいひょいと焼いていく。

 ぷくっと膨らんで美味しそうだ。さっきパンケーキを食べ、バーシュ焼きも一つ食べたのにもっと食べたくなってしまう。


「もっと食べるか?」

「や、やめとく。太る……」

「生地が余ったら具を入れて焼くけど?」

「うっ……それは食べたい。くうう……我慢無理!」


 リベリオは私の言葉に破顔して、頭をポンと軽く叩いた。


 ──結局余った生地で色んな具を挟んでくれて三つも食べてしまった私なのだった。


 それもこれもリベリオのご飯が美味しすぎるせいだ!

 アニムニアにも体重計はあるけど、怖くてまだ買っていない。……なるべく買わない方向で行きたいよね……。




 そうして木陰カフェにまた新メニューが加わった。

 リベリオの特製パンケーキだ。

 バーシュ焼きはお祭りの時の特別メニューにしようと決めた。


 ボリュームたっぷりでふわふわ極上のパンケーキもすぐに大人気となり、木陰カフェは今日も大盛況なのだった。

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