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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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番外編 ふわふわパンケーキ1

 

 トンテンカン、と朝からそんな音がしていた。

 どうやら建物を作っているみたいだ。


 場所はといえば、木陰カフェの隣……になるのだろうか。シビラさんの家があるのとは逆隣に小さな公園がある。そこを挟んだ向こう側の空き地に、大工さんが何人もやってきては建物を作っているというわけだ。

 中にはカストさんもいる。色々指示を出しているようなのがちらりと見えた。


 それにしても全部手作業での普請は大変そうだ。

 トラックなんかもないから、重そうな木材も大八車みたいな形の人力車で運ばれてくる。獣人(アニムス)の中でも大柄で力が強そうな種族の人が何往復もしているようだ。


 それでも手作業だというのにあっという間に柱なんかが建っていて、驚きの速さだ。思わずじーっと見てしまう。


「おい、サナ」

「ん、どうしたの?」


 工事のせいとは思わないが、今日は朝から少しお客様が少ない。さっきから暇していたところにリベリオに声をかけられたのだ。

 リベリオは少しだけ苦笑した。


「……いや、実は少し暇で……」


 調理担当のリベリオには仕込みとか片付けとか色々お願いしているけど、それでも手が空いてしまったらしい。


「暇だよねえ。なんでだろう」

「いつもより暑いからかもしれないな」


 言われてみれば道を歩く人自体が少ない。暑いから用がなければ外に出ないのかもしれない。私は闇魔法で日陰にして快適に過ごしているけど朝から炎天下だと歩くのもしんどいよね。


「それで、前にサナが作ってくれたパンケーキを焼いてみたんだ」

「えっ!?」


 リベリオは私の前にパンケーキを差し出した。分厚くてふわっふわのパンケーキがまだ湯気を立てていた。


「昼休憩には少し早いんだが、もしよければ味見をしてくれないか?」

「いいの!?すっごく美味しそう!」


 表面は綺麗な狐色で、焼きムラがなく均一でつやつやだ。綺麗な円形で厚みは一枚2センチはありそう。それが2枚重なっていてほこほこと湯気をあげている。


 私が以前作ったものとは全然違う。私のは1センチないくらい、真ん中だけが妙に膨らんで、他はぺったんこ。外側はカリカリなところはそれなりに美味しいけど、まあ素人の手作りってこんな感じだよね、って出来だった。味だってそれなりに美味しかったけど、リベリオ作とは見た目のクオリティからして別物だ。


「冷めないうちに食べてくれ」

「うん、お客さんいないし、ここで食べちゃうね!」


 バターは暑いと傷みやすいからアニムニアではあまり使われていない。その代わりによく使われているのがインド料理で使うギーのようなバターオイルだ。液状になっていて、バターより香ばしい匂いがする。常温で保存していても腐らないらしい。


「んー、いい香り!」


 それをパンケーキに少しかけるとふわっと香りが立った。シロップは赤リモルシロップと、アニムニア産のお砂糖から作ったカラメルシロップだ。

 私はパンケーキにメープルシロップをたっぷりかけるのが好きだったけど、アニムニアは暑いからかメープルシロップはないみたい。

 赤リモルシロップと、カラメルシロップを混ざらないよう別々の場所にかける。綺麗な狐色につやっとしたシロップが映えていかにも美味しそうだ。


「いただきます!」


 まずはカラメルシロップがかかった方だ。私はフォークを刺して一口切り取りパクッと口に入れた。


「んー!!」


 ほっぺたが落ちそう。上手く言葉が出ない。

 あまりの美味しさに思わず頬に手を当てた。 


 幸せで蕩けてしまいそうな甘さが口の中に広がる。小麦粉の香りにバターオイルとカラメルシロップの香ばしさがたまらない。口当たりもよく、ふわっふわの感触は噛んでいるだけで笑顔になってしまう。分厚いけど、柔らかくて重くないから食べやすい。

 続いて赤リモルシロップは甘さにほんの少しの酸っぱさが唾液腺をきゅうっと刺激する。これはこれで小麦粉の風味を引き立てているし、バターオイルとの相性がいい。そういえばいちごバターって美味しいもんね。


「ふわぁー美味しいー!」


 私は夢中になって咀嚼し、ごっくんと飲み込んだ。

 顔を上げてリベリオにそう告げるとリベリオは微笑む。リベリオは顔がただでさえ整っているのに、そうやって柔らかい微笑みを浮かべると王子様度がものすごく跳ね上がるのだ。もうドキドキしてしまう。


「サナは美味しそうに食べるな」

「いやそれが本当にすっごく美味しいんだよ、これ!リベリオってやっぱりお料理の才能があるんじゃないかな。だって私が前につくったのより何倍も美味しいよ」

「サナが作ってくれたのも美味しかったよ。分厚くてふわふわにしたいのは分かっていたから。それに、似たようなの料理はこの国にもあるから、初めてでもないし」

「そうだよねえ。材料もシンプルだし、多分どこの国にもパンケーキ的なのはあるんだろうね。でもいきなりでこんな理想的なほど綺麗に焼けるのはやっぱりすごいよ!」


 私はアイスコーヒーを自分用に注ぎ、いつもの闇魔法で冷やして口の中をスッキリとさせた。



「ねえねえアニムニアのパンケーキみたいなのってどういうのがあるの?」

「アニムニアだと生地にバーシュって果物を入れて練って焼いたやつとか。バーシュは甘くなくてねっとりしてる果物で、繋ぎにするためにいれる。生地ももう少ししっかりして薄くて平べったい。それにおかずを包んだり、砂糖のシロップで味を付けたりする。祭りの出店でよくあるんだけど、棒に刺してあって、色んな味のがあるんだ」

「へえー!」


 ちょっと分厚いクレープのような食べ物だろうか。それはそれで美味しそうだ。


「クリームと果物たっぷりとかもいいけど、生クリームはアニムニアじゃ難しそうかな。むしろ砂糖とバターオイルだけでシンプルにしても美味しそう……」


 クレープだとクリームたっぷりにイチゴやバナナにチョコなんかのボリュームあるものも好きだけど、以前に東京の有名店で食べたバターシュガーだけのクレープも絶品だった。

 アニムニアは砂糖の産地だけあって、風味のいい上質なお砂糖が安く手に入るのだ。

 思わず想像だけでじゅるりとなってしまう。

 私だけでなくリベリオも同じみたいだ。


「それはいいな……」

「でしょう!あー、パンケーキ美味しかった。リベリオ、ご馳走様!」

「どういたしまして」

「これもお店で出せそうなくらい美味しいよね」

「そうか?」

「うん。味はもちろん、プリンよりお腹いっぱいになるし、頼む人は絶対いるよ!」

「……ちょっと焼き上がりに時間がかかるのだけが難点か」

「まあそれは時間かかりますよーって言えばいいんじゃない?」


 私はリベリオのパンケーキをメニューに入れるべく、拳を握って力説したのだった。


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