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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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49 聖女の奇跡

 人力車はとても静かに、スムーズに進んでいく。

 再び眠ったリベリオがだんだんと私の方へともたれかかり、その心地よい重みを感じていた。

 重くないかとジーノさんが気遣ってくれたけど、私もリベリオにくっついていた方が安心する。それをリベリオのお兄さんであるジーノさんに言うのはとにかく恥ずかしかったけど。


 そうこうしているうちに、気がつけばもう随分と王都付近に来ていた。

 とはいえ私は移動手段はほとんどリベリオの転移だったために、ロザーンの都や道路がどうなっているのか、どういう造りなのかも知らないままだ。


「ここから先は警備が厳しくなるでしょう。特に王都は壁に隔てられ、このまま門を通過するのは無理です」


 木陰で人力車は止まり、フランはそう言う。

 これまでの道のりは第二王子派と呼ばれる人たちの領土だったので、こっそり通行出来たらしいけど、さすがにここからは難しいらしい。

 木々に隠されてよく見えないけれど、枝の隙間から街を囲むように壁が続いているのや、霞むほどずっと遠くに城らしい大きな建物があるのが伺えた。


「この距離くらいなら、城まで数人連れても転移出来るが」


 目が覚めたリベリオはそう言う。

 しかしフランは首を振った。


「いくらアンドレアが指輪を失ったとはいえ危険です。そこまでは頼れません」

「……確かに、アニムニアは国民であるサナさんを既に保護し、目的は達成しました。これ以上はロザーンへの侵略行為とみなされてもおかしくはない」

「その通りです。だから、ここからは僕とテアだけで向かいます」

「……そんな!」


 リベリオもジーノさんが乗り気ではない以上、助力も難しいみたいだ。眉を寄せて肩をすくめている。尻尾もしょんぼりだ。


「大丈夫よ!少なくとも指輪はもうない以上、私達はただ死にに行くわけではなくなったもの。フランには私がいるわ。私だって並の魔法士よりずっと強いのよ」

「アンドレアは少しでも自分に逆らう人間はことごとく処刑している。それが諫言であっても。つまり、守る層もこれ以上ないほどに薄くなっているはずです」

「そこに、王の血を引く正当な後継者でもあるフランが戻れば、必ずこちらに着いてくれる人がいますもの」


 フラン達の顔は明るい。


「ここまで送ってくださり、本当に助かりました」


 フランは私を含め全員に深々と頭を下げ、テアさんに車椅子を押されて人力車のタラップを降りて行く。


「……もし何かあれば、ここまで戻ってきてください。しばらくは我々もこの付近に隠れていますから」

「ありがとうございます」


 フランは堂々としながら王都の門への道を進んでいく。

 私はこれ以上、何も出来ないのだろうか。

 これまでだって、何もしていない。ただ捕まって、なんとか脱出しただけだ。

 せっかくフラン達と友人になれたのに。

 それにいくらテアさんが強くても、フランがあの足では逃げるのも難しい。


「……そうだ!」


 私は慌てて人力車を飛び降りた。


「サナさん!危険です!」

「でも、私にも出来ることがあるかもしれない!大丈夫、お城まで着いていくわけじゃないから!」


 私はフラン達の後を追いかけて走る。

 振り返ると私を止めようとしたジーノさんとロッソさんは、リベリオに制止されていた。


「サナ、行ってこい。危なければすぐに迎えにいく」

「うん!」


 リベリオは私が何をしようとしているのかお見通しなのかもしれない。

 私はすぐにフランに追いついた。


「サナ!ここはもう、門の兵士に視認されてもおかしくない場所です!戻って!」

「ううん、私だって聖女だもん。まだ出来ることがあったのを思い出したの!」


 お城に囚われていた時、私は怪我をしたマルグレートを癒すことが出来た。

 フランの動かない足は怪我ではなく呪いらしいけど、それだって治せないと決まっているわけじゃない。あの指輪を壊し、結界を消し去ったみたいなことが出来るかもしれない。


「フランの足、治せるかはわからないけど、試してからでも遅くないでしょう?」


 失った魔力もアンドレアの魔力を吸った後なので充実している。人力車に乗ってしばらく休んだせいか体調もいい感じだ。もっと言えば、リベリオにずっとくっついていたから気力も満点。


 私はフランの足元に蹲み込んだ。

 足に触れると、ズボンの上からでもわかるほど硬い。勝手にズボンを捲れば、肌が石のような灰色をしている。

 本当に治せるのか、正直なところ不安しかない。

 それでも、私は友人であるフランの足を治したい。

 肌に触れてそう強く願う。手がじわっと光った気がした。


「サナちゃん、もういいから逃げて!」


 テアさんの声に門の方を見ると、門が開いて兵士の人達がこちらに走って来ていた。まだ距離はあるけれど怖い。

 それでも私はフランの足から手を離すことはしなかった。

 光がどんどん強まる。

 時間はかかっているけれど、行けそうな手応えを感じていた。


「──お願い、フランの足から呪いは出て行って!」


 ぱあっと燐光が私の周りを飛んでいた。それと共に私の体から魔力がどんどん失われていく。


(──これ以上はまずいかも)


 そう思いつつも、私は癒しの力を止めない。

 私を取り巻く光がビカビカと激しく光り、今どんな状況なのかよく見えない。その直後、カッと一際強い光に包まれ、そして消えた。


「ど、どう……?」


 私は強い光と魔力貧血状態のせいで視界が暗くなっていた。けれど、手の触れているフランの足がさっきより柔らかくて、温かい気がする。


 立ち上がろうとしたが、ふらふらだった。今までで1番魔力を使った気がする。

 そのまま背中から倒れそうになったところで、温もりに包まれる。


「サナ、よくやったな」

「……リベリオ、ごめん、魔力切れ……」


 どうやらまたリベリオに助けられてしまったみたいだ。リベリオは私のことを何度だって助けてくれる。


「フランは……」


 私はリベリオに背中を支えられ、フランの方を見る。

 フランは立ち上がっていた。

 背筋を伸ばし、自分の足でちゃんと立っている。

 テアさんは泣きそうな顔。そしてもうすぐ近くまで迫っていた兵士の人達は、その場に跪いていた。しっかりと立ち上がるフランの方を見ている。


「ああ……奇跡だ……」

 

 視界は暗いけど、聴覚はまだ無事だ。兵士の誰かが呟いたそんな言葉が聞こえた。


「サナ、フランの足だけじゃない。お前の光が届いた箇所、急激に植物が育ってる」

「え……」


 暗い視界で目を凝らすと、フランの周囲を取り囲むように草が伸びて花まで咲いている。まるでアニメのワンシーンみたいだ。


「──僕はフランミリオ。このロザーンの第二王子だ!暴君アンドレアを止めるために戻ってきた!」


 急激に育った植物の中心でしっかりと立っているフランはすごく王子様としての気品に溢れている。

 フランの名乗りに顔を上げた兵士も顔をくしゃくしゃにして泣いていた。


「ああ、フランミリオ殿下……!ご帰還をお待ち申し上げておりました……!」


 良かった。どうやら上手くいったようだ。

 しかも聖女の奇跡を見せつけたのも良かったみたい。


「サナはここまでだ。戻るぞ」

「うん……」


 リベリオはそう耳元で囁く。それから声を張り上げた。


「聖女はその使命を果たした!天へと帰還する!」


 そしてそのまま転移魔法を使った。

 なるほど、その手があったか。

 そう思ったのも束の間。シュンッと風景が溶ける。それと共に限界だった私の意識も溶けていった。


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