47 助けに来てくれた2
「全部、僕のせいです。サナがアンドレアの手の者に見つかったのだって、僕が不用意にアニムニアに行ったせいなんです。きっと怖い思いをしたことでしょう。謝って済むことではないのは重々承知しています……」
私としては、今回の事件はフランに謝ってもらうことではないと思っている。けれどフランも、そしてテアさんも深々と私に頭を下げてしまった。
「あ、謝らないでください。私はこうして無事だから!」
確かに怖くなかったと言えば嘘になる。けれど被害なんて、若干の擦り傷や打ち身くらいのものだ。
しかしまったく頭を上げようとしない彼らに、私は困り果てた。助けを求めてキョロキョロと頭を動かせば、ジーノさんとその隣にいるロッソさんが目に入る。
「わ、私こそ、ロッソさんに謝らないといけないし!」
「ええっ!?」
突然、話を振られたロッソさんは目を見開いて、驢馬耳を伏せる。
「あの、ロッソさん……恋人のエイダさんを危ない目に合わせちゃってごめんなさい!怪我してるって……」
「あの、いやいや……ええとですね……」
私はロッソさんに頭を下げた。フラン達が頭を上げた物音は聞こえないから、彼らもまだ頭を下げているのかもしれない。
「みなさん落ち着いてください。フラン殿、顔を上げて。今は一旦落ち着きましょう。サナさんもですよ」
取りなしてくれたのはジーノさんだった。
「ロッソ、まずサナさんに説明してあげては?」
「……ええ、そうします」
ロッソさんは決まり悪そうに後ろ頭をかいた。
「サナさん、まずこれ以上謝らないでください。聖女であるからといって、貴方のせいではないです。それに、エイダは無事です」
「そ、そうなんですか!でも、すごく苦しそうだったし、耳も……」
「それがですね、リベリオ殿下が戻られるのが早かったのもありまして、早い段階で医者に診てもらうことが出来ました」
「同一犯にやられたと思しき衛兵も、倒れているのを早朝に発見され、治療を受けています」
「はい。本来なら、一命は取り止めても、耳に後遺症が残っておかしくなかったのです。でも、そういうことも一切ありません。みんな無事です。そして、サナさんのおかげでもあるのだと思います」
「わ、私の……?」
ロッソさんは頷く。
「エイダが言うには、もう耳は駄目だと感じていたそうなのですが、サナさんが連れ去られてからしばらくして、温かいもので包み込まれた感覚を得てから、耳の感覚が戻り、体の痛みも軽くなったそうです」
「それって……」
私には覚えがあった。ロザーンに連れてこられてから、部屋に閉じ込められていた私は皆の無事を祈ったはずだ。
「はい。サナさんが、遠いロザーンに囚われて尚、エイダ達のために加護を授けてくださったのでしょう」
ロッソさんは穏やかな微笑みを浮かべる。
「ボクは一応、ジーノ殿下の秘書官ですんで、エイダにもいざという時の覚悟をするよう常々言ってあります。サナさんの事情も知らせていて尚、仲良くなりたいって言ってくれた自慢の彼女でして。だから、危険な目に合わせたと気に病まないでください。そして、良ければまた恋話に付き合ってもらえませんかね?」
「……はい!」
私はエイダさんの無事に心から安堵して、大きく頷く。
リベリオも優しい微笑みでこっちを見て、よかったなと言うように頷いてくれた。胸がポカポカと温かくなる。
「そういうわけなので、私はフランに謝罪は要求しません!だって、フランのせいだと思わないもん。全部、アンドレアのせいでしょう。むしろフランは追われる立場なわけで、完全な被害者だと思う」
それに、フランのお父さんである前の国王だってまだ無事かどうか分からない状況だ。
「ね、もう謝罪合戦は止めておこう。アンドレアをなんとかする方が先だしさ!」
「は、はい……サナがそう言うなら……」
けれどフランの顔は晴れないままだ。
「アンドレアはなんとしてでも止めなければ……」
「サナさん、ひとまず移動しながらにしましょう。フラン殿、作戦も練り直しですから」
「はい……」
ジーノさんがそう仕切り、私達は人力車に乗り込んだ。
人力車と言っても引き手の人数も多いし、みんな体格のいい獣人だ。それに比例して乗り込む部分も広々としている。軽トラくらいはありそうだ。その分重いはずだけれど、スピードはかなりのものだ。景色があっという間に流れていく。
「音と揺れの軽減魔法を掛けました」
テアさんが魔法をかけると、舌を噛みそうなほどの揺れも、激しい車輪の音も格段に減る。すごく便利だ。
リベリオは私の居場所を探すのに何日も寝ていなかったらしく、壁にもたれて目を閉じている。私もその横に座ってリベリオの長い睫毛を見つめていた。
「……サナはリベリオ殿下のおかげで無事に取り戻すことが出来ました。なので、ジーノ殿下達も含め、兄に相対する必要は、もうありません。申し訳ないですが僕はこの脚なので……王都付近まで送って頂いた後は、この国から離脱してください。あなた方をこれ以上危険に巻き込むわけには参りません」
フランは決心した顔でキッパリと告げる。
「いえ、そういうわけにはいかないでしょう。サナさんは取り戻したとしても、アニムニアにいることがあちらに知られてしまっています。今後の安心のためにも、そして獣人の人権のためにも、アンドレアと会談は避けられない」
「ジーノ殿下、兄の獣人嫌いはかなりのものだとお伝えしたはずです。会談まで進めるかさえ……」
フランとジーノさんは私そっちのけで話し合いを続けている。
「え、えっと……元々はどんな作戦だったのですか?」
「ええ、まずはとにかくサナさんを奪い返さなければと、アニムニアの客人であるフラン殿を連れて来たとして城に乗り込む予定で……」
「はい。城の内部にまで入り込めれば、獣人のボクらは耳や鼻でサナさんの居場所を探すことが出来ます。後はリベリオ殿下の転移魔法で脱出するという乱暴な作戦でした」
本当に乱暴な作戦だ。私は目を丸くした。
ロッソさんもそう思っていたのか肩をすくめる。一方で名案と思っていたらしいジーノさんは慌てている。
「で、でもサナさんはアニムニアに戸籍がありますからね。軍属の人間もいませんし、ロザーンとアニムニアには距離がある。我が国民を救出するという建前があればそう簡単に戦争には……」
「ですから兄にそれを期待するのがそもそも間違いです。……兄にはロザーンの国宝の指輪があります。あれがある限り、他国との戦争でもかなり有利となります。そうすれば多数の国とアニムニアが争うことにらなってもおかしくはないんです」
「……指輪、それって」
「サナさんもご存知でしたか。ロザーンに伝わる秘宝中の秘宝、魔法での攻撃を全て無効化するのです。もっとも持ち主に適性と、使いこなすだけの魔力量が必要なのですが。代々の国王でも必ずしも使えるわけではなかった指輪を、兄はなんなく使いこなし……」
フランの話は続いている。
しかしながらその指輪は、私が脱出した際に壊してしまったのだ。




