46 助けにきてくれた
涙が止まったリベリオはすごく恥ずかしそうだった。でも私の方も死んだと思って、めちゃくちゃなことを言ってしまったからおあいこだ。
それに目の縁が赤くなっているリベリオなんて滅多に見られない。希少価値だ。美形は泣いても美形のままなのでずるいなぁと思ってしまう。
目の縁以外はいつも通りに戻ったリベリオは私を連れて転移した。
「ねえ、そんなに何度も転移して大丈夫?」
そう聞いたのは転移魔法は魔力をかなり使うことを知っていたからだ。特に遠距離を転移すればそれだけ負担がかかる。
「問題ない。長距離を直接転移したんじゃないから、そこまでの負担はない」
「そうなの?」
転移魔法で降り立ったのは草原だった。気温からして、まだロザーンなのは間違いない。
今は昼間なのであの時とは雰囲気は違う。けれど──
「──ここって、もしかして、私とレクが奴隷商から助けてもらった時に転移した場所……?」
「ああ。ここはロザーン王都の郊外だ。よく覚えてたな」
私はすーはーと大きく息を吸い込む。
「うん、なんかね、この空気を覚えてたんだ」
吹き抜ける風が髪を揺らしていく。ようやく解放されたんだって、清々しい気分になる。
かつて私は異世界にやってきて、ここで初めてちゃんと息をした気がしたのだ。
「でも、どうしてここに?」
リベリオはそれに答えず、草原に腰を下ろした。私もその横に座る。下生えがふかふかしていて、雑草なんだろうけど芝生の上に座った感覚とよく似ている。なんだかホッとする。
「……サナが消えて、俺はすぐにロザーンの仕業だって分かった」
「うん」
「俺が任務で出かける時、サナが無事を祈ってくれたせいか、力が湧いてきたって言ったの覚えているか?」
「あ、うん、あったかも」
「俺はその言葉通り、たった1日で別の場所にいた子供達を助けることが出来たんだ。けど戻ったらサナが攫われたのを知って……。もちろんすぐに大アデル石にサナの居場所を尋ねた。だが、サナの行方が分からなかった」
「え、でも髪留めはちゃんと持っていたよ?」
「不自然に辿れないようになっていた。ぷっつり途切れるみたいに」
「あ……多分、閉じ込められていた部屋に、結界みたいなのが張られていたせいじゃないかな」
私はちょっと話し難かったけど、攫われてからのことを話した。そして、アンドレアの指輪を破壊したら結界が壊れて窓が開くようになった話も。
「ああ、そのせいだろうな。急にサナの居場所が分かって、それで飛んできたんだ。そしたら落ちかけていたんで正直肝が冷えた」
「あの時は助かったよ。自分を過信しちゃ駄目だね」
おどけて笑う私に、リベリオは首を横に振る。
「お前は頑張ったよ。怖かっただろうに、何日も抵抗し続けてくれた。やっぱり、サナの強さはその芯の強さなんだと思う」
「わ、私のことはいいから!それより、エイダさんは大丈夫なの?私のせいで巻き込んじゃったし……それから、教会のみんなとか、お隣のシビラさん達は……」
「エイダは怪我はしていたけど、医者に見せている。命に関わるような怪我はないはずだ。教会もお隣もなんともないし、サナのことを心配している」
「……そっか」
エイダさんの怪我の様子がわからないから、まだ安心は出来ないけど、少しだけホッとした。
俯いた私の頭をリベリオはくしゃくしゃと撫でる。
「俺の方は、サナの居場所がわからなくても、そのままじっとしていることなんて出来なかった。居ても立っても居られなくて、ロザーンに来たんだ」
リベリオは遠くの方を指さした。
「見えにくいかもしれないが、あっちは街道になってる。舗装もされていないし、人の通りも多くない道なんだが」
リベリオの指さした方向を私は向く。遠くから土埃が立ってこちらに向かってくるのが見えた。
「ねえ、あれ、もしかして馬車か何かかな」
隠れた方がいいのでは、と少し危惧したが、リベリオは首を横に振るばかり。
「いや、あれは味方だ。ロザーンには俺だけで来たんじゃないんだ」
「え、まさか馬車で……?ううん、アニムニアからはすごく遠いはずだよね。まさかその距離を馬車ごと転移してきたっていうの!?そんなの、魔力がどれだけあっても危険じゃない!」
「半分当たりで半分外れ。転移魔法をする補助をしてもらったんだ。俺一人なら運べてせいぜい二人ってとこだ。けど、魔力が高い人間が数人補助してくれれば、もっと多い人数でも運べないことはない」
リベリオは立ち上がり、行くぞというように土埃の方向に親指を立てた。
私も慌てて立ち上がろうとしたら、リベリオに手を差し出される。まるでお姫様みたいだ。そう思いながら手を握り返し、立たせてもらう。リベリオは私の手をそっと握り直して、手を繋いだままエスコートするように歩き出した。
「ねえ、誰と来たの?ジーノさんと、軍の人とか?」
「ジーノはいるけど、軍属の人間は連れてこられなかった。それをやると、下手したら戦争になってしまうから。俺一人で転移する時と違って、国境を越えるのには色々絡んで来るんだ」
「え、じゃあ……」
土埃を立てていた馬車は止まったようだった。
私とリベリオはそっちに歩いていく。
私の視力ではかなり近寄らないと見えない。だが、馬車だと思ったのは馬車ではないのが分かった。箱型の大きな車だけど、それを引いているのは馬ではない。
体格の良い男性が数人、大型の人力車のバーを握っていた。耳を見れば分かる。獣人だ。顔にもどことなく見覚えがあった。
「あの人達──」
「ああ、何度か木陰カフェのお客さんとしても来てくれたよな」
「でも、どうして……」
「ロザーンに入国するのに大義名分が必要だった。ロザーンからの客人を輸送するという」
「それって──」
言いかけた私に聞き覚えのある声が聞こえた。
「サナ!」
「サナちゃん!」
大きな人力車からゆっくりと車椅子が降りてくる。
見間違いようもなく、フランだった。そして車椅子を押すのはテアさん。彼らに付き添うように後から降りてきたのはジーノさんにロッソさんだった。
「フラン!テアさん!」
「よかった、無事で……ううん。僕らのせいだ……本当にごめんなさい……!」
フランは今にも泣きそうな顔で震えていた。その肩に手を置くテアさんも瞳が揺れている。




