33 再会
「いらっしゃいませ──あ!テアさんにフランさん!」
「こんにちは、来ちゃいました」
その日のお客さんは、少し前に人間街で出会った二人だった。
「通行許可証がやっと出まして。王都に行く前に寄らせてもらいました」
「本当に来てくれたんですね!嬉しいな。あ、どうぞ座ってください!」
車椅子では椅子が邪魔だろうと椅子を一つ退けながら歓迎した。
「ありがとう。サナさん。あ、僕のことはフランでいいですよ。多分僕の方が年下だから」
「え、でも……」
「いいのよ。フランは周りに歳の近い人があまりいないから、良ければ仲良くしてくださいね」
テアさんはまるでフランの保護者みたいな感じだ。
「それなら、私もサナって呼んでください」
「うん、よろしく、サナ」
フランはニコッと笑う。
確かに見たところ15.6歳くらいのように見えるから、私より年下なのだろうが、とてもしっかりしていて大人びていると思う。いや、私がガキっぽいのかもしれないけど。
きらきらの金髪で、顔立ちも整っているし、仕草もどことなく上品な感じがする。リベリオでイケメンには見慣れていたつもりだけど、また違ったタイプのイケメンだと思う。どこかの王子様って言われてもおかしくないくらいの。特に数年後はすごくカッコよくなっていそうだ。
「私はサナちゃんって呼んじゃおう。それにしてもこれ、サナちゃんの魔法なのね。とても涼しいわ」
「木がないのに木陰カフェって、なんだろうって思ってたけど、すごいですね。道中が暑かったから助かります」
木がないのに木陰ということに久しぶりに驚かれた。最近では常連さんも増えたし、噂も広まったからこうして驚いてもらえるのは珍しくなってしまった。
「あと冷たい飲み物もお出ししてますよ。これメニューです。良ければ説明しましょうか?」
「ええ、お願い」
私は一通り飲み物の説明をする。
「あとクジで当たるとリモルシャーベットも頼めますけど、クジは引きますか?リモルを使った甘い氷菓です」
「氷菓があるんですか!?」
「あ、一日一回しか作れないんで、当たった人だけが頼めるんです」
「フラン、引かせてもらったら?」
「は、はい、お願いします!」
フランは氷菓が好きなのか、頬を紅潮させている。
クジの紐を一本選んでもらい、引っ張る。
紐の先は──赤色。
「わあ、当たりです!おめでとう、フラン!」
「え、じゃあ、本当に氷菓が食べられるんですか?」
「良かったわね、フラン」
「はい、それじゃあお持ちしますね!」
テアさんの注文はアイスコーヒーだ。
「お、当たりが出たのか、よかったな!」
「リモルシャーベットはうんまいぞー!」
「ありがとうございます!」
今日のクジに外れてしまった他のお客さんも祝福している。人間のお客さんだけど、嫌がっているような人はいないみたいでほっとした。まあ、店長の私が人間な時点で、人間嫌いな人は滅多なことでは来ないだろうけど。
私はまずフランのシャーベットを作る。それからささっとテアさんのアイスコーヒーを冷やして持っていった。
リベリオはアイスコーヒーをあとは冷やすだけの状態まで準備しておいてくれたり、気がつくと洗い物を済ませてくれているので、複数注文が入っても私も焦ることはない。無口だけどその分周りをよく見てて、すごく気が利いているんだよね。頼れる店員だ。
「お待たせしました!リモルシャーベットと、アイスコーヒーです」
「うわぁ!」
フランはシャーベットを前にして目をキラキラさせている。そうすると大人びた雰囲気も消えて年相応っぽい。
テアさんもそう思ったのか、フランを見つめてふふっと笑っている。
「ほら、早くしないと溶けちゃうわよ」
「わ、分かってるよ」
フランはスプーンで一口すくい、パクリと口にする。
「すごい……冷たくて、甘い……」
「氷菓だけじゃなくて、このアイスコーヒーも冷たいわ!氷はないのよね?」
テアさんも目を丸くして驚いている。そう驚いてもらえるのは新鮮だ。
「氷じゃないけど、魔法です!」
「ん、冷たい。美味しいわねえ。こっちは暑いから冷たい飲み物は嬉しい」
「氷菓もすっごく美味しいです!故郷にいる時に誕生日パーティーで食べた以来で……」
「あ、やっぱり人間の国では氷菓も食べるんですね」
「滅多に口に出来る物じゃないですけどね。それこそ王侯貴族でもないと……」
「冬に氷を保存しておいたりもするのよね。私は寒さが厳しい山岳地方の出なんだけど、子供の頃には冬に氷を作って保存している大人がいたわよ。あ、でも最近は魔法で氷を作るのが主流だから、もうやってないかしらね」
「……テアのそれ、何十年前の話?」
「フラン……今、何か言った?」
「な、なんでもございませんっ」
やっぱりフランとテアさんは仲がいい。二人の掛け合いにクスッと笑う。
「そういえば、フランやテアさんはどちらの国出身なんですか?」
「……あ、ええと……」
フランは少し口ごもる。
と、そこへリベリオが声をかけてきた。
「──サナ、悪い。アイスコーヒーの注文が入った」
「はーい。それじゃ、ごゆっくりどうぞー」
話の途中だったけど、注文が優先だ。
私はカウンターでアイスコーヒーを冷やす作業に戻った。
「……サナ、あんまり人を詮索しない方がいい。見た感じ商人じゃなさそうだし、訳ありかもしれない。それに、サナの方だって詮索されたら困るだろう」
「あ、そうだね。……気をつける」
リベリオに小さな声でそう言われ、私は頷いた。
フランは足が不自由みたいだし、きっと何か事情があるのかもしれない。
私はその後、出身国の話題は出さず、テアさんとファッションの話で盛り上がった。テアさんはとってもおしゃれさんだ。何重にも巻いたネックレスやブレスレットを見せてもらった。
「耳飾りは落としてしまいそうで心配だから付けないの。その代わり、首飾りも腕輪も集めるのが大好きで。国によって形や使ってる石が様々で集めてて楽しいのよね」
「アニムニアだとアデル石とかですかね。この髪飾りの石もそうなんですよ」
私はリベリオにもらった髪飾りを指し示す。
「あら、素敵。よく似合ってるわ。石もいい色ね。お守りの石よね、確か」
「はい。そうらしくて」
「もしかして、旦那さんからもらったの?」
リベリオと結婚していると勘違いしているテアさんの言葉に、私はまた真っ赤になってしまった。
「アイスコーヒー美味しかったわ。ごちそうさま」
「氷菓もとても美味しくて……本当に50デルでいいんですか?安すぎませんか?」
「はい。まだ私の力じゃ一日一回しか出来ないんで、目玉商品として出してます」
「また食べたいけど、クジで当たらないと食べられないんですね……」
「もし良ければまた来てください。あ、でも王都に向かわれるんでしたっけ……」
せっかく仲良くなれたけど、彼らはこの国の人じゃない。用が済めばアニムニアから出て行くのだろう。それは少しばかり寂しい。
「そうね……。でも、王都での用が済めばまた帰り道にこの街の近くを通るから、その時に寄らせてもらうわ」
「はい。出来ればまた氷菓が食べたいですが、リモルスカッシュというのも気になりますし。テアも冷やし飴を試せば良かったのに」
「次の楽しみにしておくの!」
テアさんが私に手を振る。
「それじゃあね」
「サナ、またね」
「はい、ありがとうございました!」
私も笑顔で手を振った。




