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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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32 新メニュー!

 魔法貧血を起こしてから数日が経った。

 私は毎日少しずつシャーベット作りに挑戦し、一日一回なら闇魔法でシャーベットを作っても魔法貧血にならない余力があると判明した。他より魔力消費が激しいのが原因みたいだ。でも、私には自分がどれだけの総量があるのか、数値で見えるわけではないしいまいちわからない。

 でもこれで安全にリモルシャーベットを作ることが出来るようになったし、フォクシーやレクたちからも味のお墨付きを貰えた。

 それなら当然、新メニューとして出したいわけである。


 しかしたったの一日一回、しかもせいぜい数人分が限度だ。暑さですぐに溶けてしまうし、保存は出来ない。

 先着順にすれば開店時にこぞってお客さんが押し寄せてトラブルの原因になってしまう可能性もある。なので、クジ引きをすることにしたのだ。


 ルールは、お客さんは一日一回、来店時にリモルシャーベットを希望すればクジを引ける。当たればリモルシャーベットをその場で作って提供する形にした。もし外れても何か他のメニューを頼んでもらう。

 値段は他の飲み物と同じ50デルだ。でも氷の価格から考えれば、ありえないほど安すぎるレベルだそうだ。でも一日一回のみだし、と押し切った。数量限定の目玉商品みたいなものだ。

 それでも、いずれリベリオの作る軽食やスイーツの足掛かりにしたいから、飲み物以外のメニューを追加して様子を見たかったというのもあるし。


「今日こそは絶対当てるわよー!」

「こっちこそ負けねえぞ!」

「こっちもリモルシャーベットのクジを引かせてくれ!」

「はーい!」


 リモルシャーベット狙いのお客さんは毎日盛り上がり、木陰カフェは大賑わいだ。常連さんも一見さんも関係なく、知らない人達同士でも楽しそうに盛り上がっている。当てた人がいれば拍手喝采だし、外れた人同士で慰めあったりもしている。


「あーんまた外れちゃった!」

「まあでも、この興奮して熱くなった体に冷たいアイスコーヒーがまたいいんだよな!」

「ああ、次こそ!」


 今のところトラブルもなく、カフェ内での小さな娯楽のようになっている。

 砂糖の産地なのもあって、甘い物が好きな人も多いから、スイーツメニューの需要は十分ありそうだ。


 いずれはバニラアイス……バニラがなくてもせめてミルクアイスを作れるようになりたいのだが、材料的にまだまだ難しい。

 バニラアイスがあればコーヒーフロートもリモルフロートも出来るし、パフェだって視野に入ってくる。とはいえ一日一回しかアイス類を作れないのではそんなスイーツ計画ももう少し先のことになりそうだ。


 それに、魔法は使えば使うほど魔力量が上がるものらしい。元々の才能なんかによって増え方は違うけど、それでも何回も同じ魔法を使えば段々と最適化して、体に負担がかからないようになっていくのだとか。そういえば、飲み物を冷やすのも木陰を作るのも今は一日中やっていても全然意識はしないし、全く疲れる感じもない。

 アイスもそんな感じでもっと多く作れる日が来るかもしれないな、と思う今日この頃なのだった。




「サナ、この花いつから飾ってあるんだ?」


 リベリオが突然そんなことを言い出して、私は目をぱちくりした。

 カウンターにはロッソさんから開店祝いにもらった花瓶が飾ってある。そこに教会の敷地内に咲いていた花を挿しておいたのだ。白くて鈴蘭みたいな花が可愛らしい植物だ。

 そういえばかなり長持ちしていることに今気がついた。花も全然萎れないし、葉っぱも生き生きしている。


「いつだっけ、えっと……リベリオと出かけた次の日に摘んだから……」

「……もう十日は経ってるな」

「へえ、長持ちする花なんだねー」

「……いや。普通なら四、五日ってところじゃないか?」

「え?」


 そう言われても特別なことはしていない。

 毎日水は変えているがそれだけだ。


「うーん、ここが涼しいからじゃないかな。直射日光も当たらないし、その分萎れにくいのかも」

「ああ、そうかもな……」


 木陰カフェは一日中木陰のような涼しさだ。日向の地植えと違って根っこが熱されたりしないし、水分も蒸発しないからかもしれない。

 それを言えばリベリオは頷いた。


「そうだな。考え過ぎたみたいだ」


 リベリオの言葉に私は首を傾げた。




 数日後、まだ教会で寝泊まりしている私は迎えにきたリベリオと一緒にカフェに毎朝出勤していた。


「あ、サナちゃん!」


 カフェの近くまで来るとシビラさんが待ち構えていて手を振っていた。


「シビラさん、おはようございます。どうかしましたか?」

「おはよう、サナちゃん。ねえ、咲いてるのよ!」

「え、なにがですか?」


 首を傾げる私にシビラさんは興奮して言った。


「ミンティオよ!生垣のミンティオの花が満開なの!」


 カフェの門前まで行った私は目を見張った。

 昨日まで青々としていたミンティオの生垣が真っ白い小さな花で覆われていたからだ。

 5ミリくらいの小さな小花がたくさん咲いている。まるで雪でも降ったかのようだ。

 手に摘み取ってみれば清涼感のある香りに甘い香りが足されて、普通のミンティオとはまた違ったいい香りがする。


「うわぁ、綺麗だし、いい香り」

「そうよねえ、私もこの花好きなのよ」

「でも、昨日まで蕾もなにもなかったですよね?リベリオ、覚えてる?」

「そうだな、なかったと思うが」

「ああ、この花は一晩で蕾を付けて一気に咲くのよ。散るのもあっという間なのよ。明日には散ってしまうでしょうねー。でも、この花って一年に1.2回しか咲かないはずなの。サナちゃんがくる少し前に咲いたばかりだから、早すぎてびっくりしちゃって!」

「そうなんですか!じゃあ、珍しく早いタイミングで咲いてくれたんですね!」

「ここにミンティオを植えられてから、こんなの初めてのことだわー」


 それでシビラさんは驚いて私達を待ち構えていたらしい。


「綺麗だから、私は別にいいんだけど……あ!」


 咲いたばかりのはずだが、散るのもすぐのミンティオの花は、風が吹くだけでハラハラと雪が舞うように花を落としてしまう。

 それも綺麗だしいい香りでもあるが、このままにするわけにはいかない。風でそのままあちこちに飛ばされてしまうようなのだ。近隣の迷惑になってしまう。


「わ、ごめんなさい。掃除しなきゃですね!」

「ああ、大丈夫よサナちゃん!」

「え、でも」

「この花はいい肥料になるのよ。魔力含有が高いとかで。だからどこの家や畑でもこの花が飛んで来て嫌な顔する人はいないはずだから」

「ああ。畑の周囲にミンティオを植えることが多いのはそのせいなのか」


 リベリオも納得したように一人で頷いている。


「風でミンティオの花が飛んでいくのも綺麗よねー!」

「そうですね……」


 飛んでいく白い花は、この常夏のアニムニアでは見ることのできないはずの雪のようで、もう帰ることのできない故郷がほんの少しだけ懐かしくなった。


 リベリオはそんな私に気が付いたのか、無言で頭にポンと手を置いた。

 こういうさりげなく優しいところが好きだ、もう。

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