29 人間街におでかけ
「貧血だそうだ」
「いやぁ、迷惑かけてごめんね」
倒れた私はいつのまにかベッドに寝かされていて、お医者さんが目を覚ました私を診察してくれたけど異常なし。おそらく脳貧血でしょうね、と帰っていったところだった。
「ちゃんとご飯は食べてたけどなぁ」
「いや、多分だが魔法の使い過ぎによる貧血かもしれない。大抵は子供の頃にしか出なくて、使い方を学ぶ内に起きなくなるんだ」
「そっか、私は闇魔法使えるようになったの、最近だもんねぇ」
確かに今日は一日カフェで闇魔法を使った上で更に新しい使い方で試行錯誤していた。キャパシティオーバー、ゲームで言うマジックポイント切れなのだろう。
「ああ、だから俺も失念していた。俺も小さい頃には何度か起きてはいたんだが」
リベリオは私の頭をポンと叩いた。
「まあ、明日はカフェの方は休みだな」
「ええ、そんな!」
「魔法貧血を起こしたら次の日くらいまではあまり魔法を使わない方がいいんだ」
「でもせっかく軌道に乗ってきたのに……」
「どちらにせよ、カフェだって年中無休ってわけにはいかないだろうが」
「そ、そうだけど……」
「それに明日はアデル教の安息日だから、店も休みなところが多い。安息日と言っても厳密に守るやつは多くない。教会に祈りに行くのは一部の熱心な信者だけだ」
「安息日……日曜日的な感じかな」
当たり前だがこっちでは1週間とか1か月とかの区切りではないらしい。年間を通して大きく気温が変化することもないから、季節を気にしたりもしないのかもしれない。
「六日に一度、安息日がやってくる。教会ではむしろ忙しい日だな。フォクシーが忙しそうにしてなかったか?」
「……あ、あったかも」
その前の日に念入りに掃除したり、フォクシーが忙しそうだから、レク達の面倒を見たりした。
「全然気がつかなかったよ……」
「サナは異世界人だし、見た目は獣人じゃないから教会の表立った仕事はあまり手伝わせないようにしていたんだろうな」
気がつかなかった自分が恥ずかしい。
「分かった。じゃあ明日は休みにする」
私は大きなため息を吐いた。
「それはともかく、休みかぁ。急に言われても何したらいいんだろう……」
ここのところカフェに夢中だったせいでやることが思いつかない。しかも闇魔法が使えないから新メニュー開発も無理だ。
「サナ、人間街に行ってみたくはないか?人間の宗教の安息日とはズレてるから、明日でも店はやっているはずだ。こういう魔法耐性の道具も色々売っていると思う」
「え、いいの?」
「俺と一緒なら大丈夫だ。もしまた具合が悪くなれば転移で帰れるからな。その代わり、今日は闇魔法は一切なし。暑くても我慢だ」
「うん、行きたい!」
私は大きく頷いた。
次の日、私はリベリオと人間街へ向かった。
徒歩だと少し遠いので、乗り物に乗る。こっちにきて初めての乗り物だ。なんと馬車ではなく、馬系の足が早い獣人による人力車なのだからすごい。しかもとても早いのだ。獣人だから、心情的な理由で馬を使わないのではなく、ただ暑いから普通の馬があまりいないせいらしい。それに、馬系の獣人の人は走るのが大好きで、大好きなことが仕事になるから最高!って感じみたい。私のカフェと似たようなものだ。
街から街へ行く道はちゃんと整備されている。それでも自動車に乗るよりはずっと振動が来るのでお尻が痛い。
しかし見たこともない植物や街道沿いの景色を見るのが楽しくて、全く退屈しなかった
「あれがリモル畑だ」
「わあ、プチトマトみたい!」
鈴なりに実ったリモルは遠目に見ると実のつき方もかなりプチトマトだ。
他にも見たことない木の実がなった木がたくさん植えられている。
それを眺めてしばらくすると人間街のある大きな街へと着いた。
今来た道とは別の大きな街道と交わる街らしい。そのせいか街に入る前に大きな門を通らなければならないし、両サイドで衛兵さんが大きな槍を持って睨みを聞かせている。
ちょっとドキドキしたけど、リベリオと一緒だからか一切咎められずに街へと入れた。
「新しい場所に来るとついキョロキョロしちゃう」
「ここは商業都市の意味合いが強い街だからな。街の雰囲気が全然違うだろう」
「うん。面白いね!」
住んでいる場所は住宅地と商店街の組み合わせで多分住みやすい場所なのだろう。
一方でこの街は、建物も狭い場所にキツキツに並び、2階や3階まであって、その分庭がない。木々が少ないからか少し埃っぽい。道の両端に屋台が出ていて大勢の人で賑わっている。みんな獣人だ。
「人間街はこっちだ」
リベリオは私がまたはぐれないように、しっかり手を握ってくれている。ちょっと恥ずかしいけどだんだん慣れてきた。とはいえリベリオの顔面の良さにはなかなか慣れないけど。
少し歩いて木の塀で囲われた場所に出た。唯一の開口部である門には衛兵の人と、受付のような人がいる。
リベリオはちょっとだけ私の手を離して受付の書類に何か書き込んでいた。
「ほら行くぞ」
「う、うん」
ぐるりと堀に囲まれ、門からは橋を渡って入れるようになっていた。長崎の出島ってこんな感じだったのだろうか。こっちは陸地だから雰囲気は違うかもしれないけど。
「おお……本当に人間が多い」
大体半数くらいが人間のようだ。髪の毛は黒髪から金髪まで様々。人種も東洋っぽい親近感の湧きそうな顔立ちの人もいる。
けれど、ついなんとなく緊張してリベリオの手を強く握った。
「安心しろ。ロザーン国民はほとんどいないはずだ。近隣の国からの商人が大半だ」
「そ、そうなの?」
「ああ。ロザーンは遠いんだよ。普通に旅をすれば40日くらい……いや、海も隔てるからもっとかかるかもしれないな」
「そっかぁ……」
改めてその距離を一瞬で転移できるリベリオはすごい。
「ほら、買い物するんだろ」
「うん、色々欲しいものがあってね」
「あの魔法耐性の瓶とかか」
「あー、うん。あと……」
私は口ごもる。
下着が欲しいとは少しだけ言いにくい。
「ふ、服とか!」
よし、ごまかした、と思った私は気がそぞろになっていたらしい。トン、と横にいる人に肩をぶつけてしまった。以前のマウロさんの時といい、私は人混みでは粗忽なのかもしれない。
「あの、ごめんなさい!お怪我はないですか!?」




