27 カフェ2日目
「よし、アイスコーヒーは昨日の倍あるし、リモルシロップに冷やし飴に……」
木陰カフェ2日目、私はまた朝から準備に明け暮れていた。
今日からリベリオはカフェの従業員だ。昨日の今日なので軽食の準備はさすがに出来なかったけど、飲み物のメニューも増えたし、1人では追いつかない作業も頼めるから助かる。
「サナ、フォクシーからもらった服を着たんだが、おかしくないか」
リベリオは灰色の襟付きシャツに細身の黒いズボンを合わせて、その上にギャルソンエプロンのような黒いエプロンを巻いている。すらっとして身長の高いリベリオにとてもよく似合っている。
「うわあ、すごくよく似合って──はっ、し、尻尾ぉ!!」
ズボンが細身なせいか、リベリオは珍しく銀色のふっかふかな太い尻尾を出している。まさに狼の尻尾といった感じ。太くて長くて、付け根の方が色が濃く、先に行くにつれて淡い色になっているが、先端にチョビチョビと黒い毛が少しだけ混じっている。日本犬のように巻いたりもしていない。立派な垂れ尾だ。
ズボンに尻尾を出す用に後ろにV字の切れ込みがあるのを今知った。ちなみに私の履いている下着にもお尻に切れ込みがある。それがちょっと気になるので、新しいのを買うたびに布を継ぎ足して縫っているのだ。少しだけ面倒くさいが、尻尾の大きさを考えれば納得だ。
「ああ、こんな服装だと入れるとモコモコするし暑いからな。正直、出してるのも邪魔なんだが……」
「えええ、いいよ、最高だよ!リベリオのもふもふふかふか尻尾……すご……触りた……いや、それはさすがにダメ、落ち着いて私!」
「……サナ、口からなんか漏れてる……」
「うわ、ごめん!」
私はハンカチでよだれを拭った。
リベリオはドン引きしたような顔で私を見てくる。まずい、箍が外れてしまった。深呼吸をして心を落ち着けた。
「それより、気がついてるか?」
「え、何が?」
「外……人が集まってる気配がする」
「ええっ!?」
慌てて門の方を見れば、列ができるほどではないけど既に2.3人の人が開店を待っているようだ。
「多分、昨日来た客から聞いてきたんじゃないか。少し離れたところで待ってる奴もいるみたいだ」
「えと、じゃあ、これの準備が出来たら開店にしよう!」
「分かった」
「今日は忙しくなりそう。リベリオが居てくれて本当に良かった!」
「まだ働く前だぞ」
「それでも、だよ!昨日もアイスコーヒー倍にしろって言ってくれたし。1日大変になるかもしれないけど、頑張ろうね!」
「……ああ」
そしてカフェ2日目が始まった。
それがまあ忙しいのなんの、という状態でお客さんは入れ替わり立ち替わりやってくる。
ほぼずっと満席なため、テーブルは相席でお願いしている。アニムニアは相席もよくあることみたいで、それほど嫌がられることもなく、知らない人同士でアイスコーヒーが冷たいと驚きあっていた。
「あらー、満席なのね。じゃあまた後で来るわー」
シビラさんは今日も来てくれたけど、混雑した店を見て帰ってしまった。
「……やっぱり、12席じゃ足りないね」
元々1人で店をやるつもりだったから少なめにしたが、リベリオも正式に手伝ってくれることになったし、何よりせっかく来てくれたのに追い返してしまうみたいで申し訳ない。
「それは仕方がないだろう。今日中にはどうしようもないし、今は目の前のことをやるしかない」
「う、うん……」
結局、コーヒーは倍に増やしたが、昨日とそう変わらない時間に売り切れてしまった。
「ねえ、アイスコーヒーはないけどリモルスカッシュはまだあるし、リベリオはこのままお店を見ていてくれないかな?」
「それはいいけど、お前は」
「新しいテーブルをまたカストさんに頼めないかと思って。お隣だし、さっと行ってさっと帰ってくるから」
「……それなら俺も行く。大体、炭酸系以外のリモネードや冷やし飴も俺じゃ出せないだろ」
「あーそっか……」
「……それに俺がサナから目を離すのが心配なんだ」
ふさふさの尻尾をへろりとしてそう言われてしまっては何も言えない。尻尾は卑怯!
「くうっ、分かったから!」
結局この日も早仕舞いにして、カストさんにまた依頼が出来ないか打診に行った。
カストさんは快く引き受けてくれて、なんと二日後にはカウンター席が設置された。対面カウンターではなく、チェーン店のカフェにあるような壁際に向いているお一人様用の席だ。これでなんとか18席に増えた。今までの1.5倍だ。
混雑回避にテイクアウトというのも考えたけど、こっちには紙コップがないし、仮に容器を持参制にしても、氷を入れているわけじゃないからすぐに温くなってしまう。なので、テイクアウトは個別にお願いされた時だけということにした。主にシビラさん用だ。
アイスコーヒーもどんどん増やすことにした。朝一の客入り次第で追加を作れば午後には出せるし。
そんな感じで木陰カフェの経営は順調に進み始めていた。
「サナさん、カフェ開店おめでとうございます。すぐにお祝いに来れず、すみません」
今日はジーノさんがお祝いに来てくれたのだ。驢馬耳のロッソさんも一緒だ。
「いいえ、ありがとうございます!来てもらえて嬉しいです!ね、リベリオ!」
「ん……」
「リベリオも良かったな、サナさんと一緒に働けて」
「……俺、仕事あるから」
リベリオは照れ臭いのか、奥に引っ込んでしまったが、尻尾がご機嫌そうにふりふりしているのを私は目撃してしまった。ついニヤニヤとしてしまう。
「気になるのが多くて……選べませんね。アイスコーヒーにする予定だったのですが、この冷やし飴というのも気になるし、リモネードも2種類……ううん」
ジーノさんはメニューを見ながらうんうんと唸っている。優柔不断なところがあるのかもしれない。リベリオと同じ狼の耳が立ったり横になったりと忙しい。炭酸系メニューはあまり好きでないところまでリベリオと一緒だ。
「あ、ボクは水出しアイスコーヒーというやつをお願いしますー」
ささっと決めたロッソさんをジーノさんは恨めしそうに見る。
「ええ、もう決めたのかい?あの……ロッソ、ひとくち……」
「あげませーん。もういっそのこと2杯頼んだらいいんじゃないですかー?」
「だって、気になるのは4杯もあるんだ」
それからも迷い続け、結局アイスコーヒーと冷やし飴の両方を頼んだジーノさんなのだった。
「そうそう、開店祝いを持ってきたんですよー」
そう言ってロッソさんは陶器の花瓶をくれた。白くて小さい、可愛らしい花瓶だ。
「わあ、ありがとうございます!可愛い!」
「実はボクの彼女に選んでもらったんですよー。喜んでもらえたら嬉しいです」
「すっごく嬉しいですよ!良ければ彼女さんとデートの時に是非木陰カフェにも来てくださいね」
デレっとしながらさりげなく彼女自慢をするロッソさんに私は営業をしておいた。
ジーノさんは何か大きな瓶を取り出した。透明なガラス瓶だ。
「私からはこれを。こういう蓋のしっかりした硝子瓶を欲しがっていると聞いたので」
「いいんですか!ありがとうございます!」
陶器の柔らかい雰囲気もいいけど、ガラス瓶の透明で涼やかな感じも好きだ。もう少しお金を貯めてから買おうと思っていたから嬉しかった。
「それ、魔法耐性加工がされていますから、サナさんの魔法で急激な温度変化なんかがあっても壊れにくいはずですよ」
「えっ!それはすごい!」
私はもうすでに何度か陶器を割ってしまっていたから、割れにくいのはありがたい。
「で、でもお高いんじゃ……」
私が市場で売っているのを見たガラス瓶にはそんな加工がなかったけど、そこそこいいお値段だった。まさか王族しか買えないような超高級品なのだろうか。
おそるおそる聞いた私にジーノさんは笑って答えた。
「いえいえ、すごく高い物じゃありませんよ。ただ、魔法を使える人が少ないアニムニアでは魔法耐性加工の必要があまりないので、このあたりのお店には売ってないかもしれませんね」
「リベリオさんと一緒なら、この街の外に出ても大丈夫ですし、一緒に人間街に買い物に行くといいかもしれませんねー」
人間街というのがあるらしい。多分名前の通りなのだろう。その入手経路になるほど、と私は頷いた。他にも面白いものや私に使いやすい物なんかもあるかもしれない。
そう、お尻に尻尾用の切れ込みの入っていない下着とかね。




