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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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24/61

24 カフェ初日終了

 

 それからも席が常に満員になるというほどではなかったけど、ひっきりなしにお客さんが訪れてくれていた。

 どのお客さんもこの敷地内の涼しさと、飲み物の冷たさを絶賛して、時にはおかわりまでしていくのだ。予想以上の手応えに私は目を丸くしながらも忙しく立ち働いていた。


 全部で12席しかないカフェながら、そこそこに忙しく、けれどメニューの数を絞ったこともあり、目が回るというほどでもなくあっという間に時間が過ぎていった。


 リベリオには炭酸水を汲むのだけ手伝ってもらったけど、なんとかそれくらいで済んだ。獣人(アニムス)に比べれば全然力がない私にももっと簡単に水を汲めるような道具があればいいんだけど。いつかリベリオの役目も終わり、私1人で切り盛りするのに重くて汲めないでは話にならない。




「お待たせしました。アイスコーヒーです!」


 お客さんに注文のアイスコーヒーを出して、それでようやく手が空いた。新規のお客さんもいないし、飲み物は全て出し終わっている。今の内にやるべきことはあっただろうか、と考えたところにリベリオから声をかけられた。


「おいサナ、疲れただろ。少し休め」

「え、でも……」

「働いてて忘れてるかもしれないが、水分補給はちゃんとしてるのか?」

「えっと……あははー」


 すっかり忘れていた。気温は暑いとはいえ自分の闇魔法でこの空間だけは涼しくしているし、忙しく動いていたらうっかり飲みそびれていたのは事実だ。


「……まったく。今なら手が空いてるんだろ?ほら、少し奥で休んでこい。その間だけ引き受けてやるから。申し訳ないから、なんて断るのは無しだ。初日に倒れられる方が邪魔だ」

「う、うん。じゃあお願いします」


 リベリオがわざとキツい物言いをしているのは理解していた。私の罪悪感を少しでも減らすためだ。

 大人しく頷いて家の中に入ろうとした私の背中にリベリオの声が掛けられる。


「飯、作ってあるから食え」

「えっ、ありがとう!」


 自分の食事のことは忙しくてすっかり忘れていた。リベリオが気を利かせてくれなかったら食いっぱぐれるところだった。

 リベリオは言い方はきついしぶっきらぼうに見えてとても優しいし気が回る。レクが懐くのも当然だ。なんだかすごく嬉しくなって、私は足取りも軽く家の中に入った。



 居間に向かうとテーブルにリモル入りの水と、パニーニのような焼き目のついた美味しそうなサンドイッチが置いてある。


「わあ!」


 思わず歓声を上げてしまった。リベリオはあれでものすごく料理上手なのだ。最初に食べたスープは空腹だっただけでなく、今でも思い出すたびによだれが出るほど美味しかった。教会でもたまにご飯を作ってくれるが、そのたびに奪い合いになるのでは、と思うほど子供からも評判の美味しさなのだ。


「いただきます!」


 パクッとサンドイッチにかじりつく。

 外側はパリッと、中はもっちりなパンに塩気の強いハムみたいな加工肉と炒めた香草みたいに香りの強い野菜が入っている。

 味付けは最低限だと思うけど、もうとにかく味のバランスがすごい。香ばしいパン、それに負けない味の強いハム、香りが強い野菜と、わずかに酸味もあるのはリモルで風味を付けたのかもしれない。それらが素晴らしく調和している。もちろん味だけでなく、噛んだ時の食感までしっかり考えて作ってあるのだろう。たまにサクリ、カリッとした何かが入っていて飽きることはない。食べれば食べるほど次の一口が恋しくなる味。人によってはただのシンプルなサンドイッチにしか見えないだろうけど、とにかく美味しい。何か変な成分でも入っているんじゃないかってくらい。


「お、美味しい~」


 手も口も止まらない。気がつけば食べ終わっていた。

 お腹がいっぱいになって、はあーと息を吐く。空腹だって認識していなかっただけで随分お腹が減っていたし、かなり疲れていたらしい。水も冷やしてごくごくと飲み干すと、また働く元気が戻ってくる。


 よし頑張るぞ、と気合を入れて立ち上がった。




 その後もかなり順調な客入りで、気がつけばたくさん作ったアイスコーヒーがもう残りわずかになっていた。

 水出しアイスコーヒーはどうしても抽出に時間がかかるから、仕込んでおいた分が無くなればその日は終わりだ。リモルシロップはまだまだあったけれど、一番人気はやっぱりアイスコーヒーなので仕方がない。


「あんなにあったのに……」

「予定より少し早いが、今日は初日なんだし早めに店仕舞いした方がいいかもしれないな」

「うん……」

「初日としては順調だった。そんな顔するな」

「ん、ごめん。リベリオ、ありがとう。それから、お疲れ様!」

「ああ、お疲れ」


 リベリオは柔らかい笑みを浮かべてポンと私の頭に手を置いた。

 胸がじんわりとあったかくなる。私は今とても満ち足りた気分だった。




 ちょうどお客さんも途切れた頃合いだったのもあり、リベリオがその旨を紙にさらさらと書いてくれた。これを貼って門を閉めれば本日は終了だ。


「明日は今日の倍くらい作った方がいいんじゃないのか?」

「そうかなぁ。それは流石に多すぎない?」

「ああ。きっと今日の客が宣伝してくれるだろうからな。多少余るのを想定して多めに用意した方がいい」

「うん、じゃあ増やしてみるよ」


 そうするとまた大きい容器を買い足さないといけないな、と私は思案する。教会に戻る前にリベリオに頼んで大通りの店についてきてもらった方が良さそうだ。


 そうぼんやり考えていたが、リベリオが門を閉めに行ったまま戻ってこないと気がつく。時間がかかるようなことではないから、不思議に思って門の方を見に行くと、見知らぬ誰かと話しているのが見えた。


(あれ、お客さんかな?)


 早めの閉店か、それともアイスコーヒーが品切れになったことで文句でも言われてしまっているのだろうか、と訝しんだ。


 かなり年配の山羊っぽい耳と角のあるおじさんだった。足でも悪いのか杖を手にしていた。耳だけでなく顎に白い髭を生やしているからますますもって山羊らしい。

 神経質そうにリベリオに向かい何事かをずっと言い立てているようだ。


 もしクレームならそれは私の責任だ。リベリオに矢面に立たせるわけにはいかないと、私はリベリオ達に近付いた。


「あ、あの……」


 だが、当のリベリオは私の方を向きもせず、前に出てくるなとばかりに片手で制した。

 私は思わずリベリオの横顔を見上げた。

 その顔からは感情全てが抜け落ちたかのようで、そんなリベリオは今まで一度も見たことがない。まるで知らない人のように見えた。


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