22 甘々アイスコーヒー
「こんにちは、サナちゃん!」
「あ、いらっしゃいませ!」
早速お客様の来店だ。私は張り切って出迎えた。
開店すぐに来てくれたのは、いつも元気でお喋りなシビラさんだ。旦那さんのカストさんと一緒の来店だった。
約束通り来てくれたのがとても嬉しい。
シビラさんは店の敷地内に入って驚いたように顔を上げた。かんかん照りなのにこの店の敷地内だけすっぽり木陰のような涼しさだから無理もない。
「わぁ、外なのにすごく涼しいのねー!お店の名前のとおり、本当に木陰みたいじゃないの」
「ええ、これは気持ちがいいですね」
カストさんも驚いたように顔を上げている。
「もう、期待以上だわー!うふふ、今日をすごく楽しみにしててね、私もだけどうちの人ったら、そろそろ行こうかってまだ早いのに何度も催促してくるんだもの」
「やあ、こんにちは。開店おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます!空いてる席にどうぞ!」
リベリオはシビラさんのお喋りに巻き込まれないためにか、さっさと家の中に隠れてしまったようだ。
「ねえサナちゃん、もしかして私達が1番客だったりする?」
なんだか嬉しそうにそわそわとしながらシビラさんが聞いてくる。
「すみません、実は1番目のお客様はリベリオで……」
「あらー!まあまあまあ、やっぱり2人って、ねえ?あーん若いっていいわぁ。私もこれで若い頃は……」
シビラさんは何やら思うところがあったようでやたらと興奮して頬を押さえた。
「ほらほら、座りましょう。サナさん、いつもすみません」
シビラさんの扱いに慣れているカストさんは喋り続けるシビラさんを席に着かせて、静かにメニューを見ている。決まったのか、2人分の100デルをテーブルに置いた。
「それではこのアイスコーヒーというのを2ついただけますか」
「はい!」
私はリベリオに一度出したこともあり、緊張もしなくなっていた。さっきと同じように水出しアイスコーヒーを用意してシロップと共に出す。
「砂糖は入っていないので、甘い方がよければこちらのシロップをお使いください」
「まあ、サナちゃん、これすごく冷たいのね!」
シビラさんは陶器のカップを持って驚きの声を上げた。冷たい炭酸水を汲みに来ていたから冷たい飲み物には慣れていたはずだが、コーヒーを冷やして飲むことは今までなかったのかもしれない。2人は甘い方が好きなのか、シロップをたっぷり入れたようだった。
そのままアイスコーヒーを一口飲んで絶句したように固まる。あのお喋りなシビラさんがだ。カストさんもまた目を大きく見開いていた。
「こ、これは驚きました」
カストさんがそう言い、シビラさんは無言でコクコクと頷いた。
「えっと……大丈夫でしたか?」
概ね評判が良かったアイスコーヒーだが、口に合わないこともあるかもしれない。おそるおそる尋ねたが、カストさんが優しく微笑んでくれた。
「ええ。もちろんです。とても美味しいですね。この場所自体、涼しいのに驚きましたがアイスコーヒーはそれ以上です。こんなに冷たく心地よい飲み物はいつぶりでしょう……」
「……そうね。私達の結婚の時以来だわ。カストの両親が、わざわざ遠くの街から氷を買ってきてくれたんです」
「氷って、売ってるんですか!?」
私はアニムニアに来て以来、氷の話は聞いたことがなかった。一年中暑い国だから自然に氷は出来ないだろうし、ない物とばかり思っていた。
「もちろんアニムニアでは氷は出来ませんよ。ただ人間の商人が稀に魔法で作った氷を売りにくるのです。買った氷をなんとか少しでも持ち帰ろうと、走って走って……、そしてほんの小さな欠片が浮いた冷たい水を結婚のお祝いにしてくれました」
「あの時飲んだ冷たい水はなんだかほのかに甘い気がして、本当に美味しかったのよね……」
「……素敵なお話ですね」
シビラさんもカストさんも素敵な笑顔で微笑んでくれた。
「ええ、私、この人と結婚して本当に良かったと思っているの」
「私こそ……貴方と夫婦で幸せです」
すっかり2人の世界に浸ってしまった。
お熱い2人にはシロップたっぷりの冷たくて甘いアイスコーヒーがぴったりだったみたいだ。
しばらくしてから私は2人にポイントカードを持っていく。最初の3日間はなんとポイント2倍だ。
「飲み物一杯につきこの模様が一つ付きます。10個集まったら、お好きな飲み物を無料で差し上げるので、もし良ければ次もお持ちくださいね!」
「まあ、ありがとう!ねえ、とってもお得だわ。また来ましょうね。なんだかここでこうして2人で冷たい飲み物を飲んでいると新婚に戻ったような気分になるのよね。すぐお隣なのに不思議だわー」
シビラさんはいつも通りのお喋りさんに戻り、カストさんはそんな奥さんを優しく見つめていた。




