17 カフェ開店準備
次の日はリベリオと市場に行って調理器具や食器を用意した。
大通りとは比べ物にならないほど人が多いが、リベリオがすぐ側で目を光らせているからか私が人間であることを指摘する人もいない。
リベリオは私のことを始終心配そうに見つめて、私と目が合うたびに不器用そうな微笑みをちょっと浮かべてくれるのだった。
買った食器類はリベリオが持ってくれる。気がつけばかなりの量になっていた。
「ねえ、重くない?私手ぶらだし、少し持とうか?」
「いや、全然重くないから大丈夫だ。それよりすぐ近くにいろよ。3歩離れたら俺を呼んでくれ。いいな?」
「う、うん」
それより荷物を持つと私と手を繋げない方が気になるらしく、とにかく私から目を離さないように必死なようだった。
コーヒー豆や砂糖の相場も見たが、たくさん買った方が安くなるので、週に一度カフェに届けてもらう契約にした。私は獣人に比べればあり得ないほど力がないから、届けてもらえるのはとても助かる。だって店員さんはにこにこしながら30キロくらい入ってそうな麻袋を平気で「はい」って渡してくるんだもん。無理だ。
「リモルはマウロさんに頼もうと思うんだよね。配達してるって言ってたし」
「ああ。それがいいだろう。リモル畑を所有しているらしいし、それなら安いし新鮮だ」
カフェ用の食器や食材は揃ってきた。
お次は家具である。
テーブル類は4人がけのテーブルとベンチは元々家にあったものを再利用するつもりなので、今回は2人がけのテーブルを2台と椅子。それからカウンターテーブルとスツールを探す予定だ。
「ねえ、リベリオ。カウンター席を作りたいんだけど、そういうのってどこで注文するの?」
「テーブルみたいに売ってないだろうし、特注なら家具職人だろうな。フォクシーに伝手がないか聞いてみるか」
「あっ!」
私は名案を思いついて顔を上げた。
「ねえ、お隣のシビラさん!旦那さんが大工さんって言ってた。なら家具職人に知り合いがいるかもしれないし、聞いてみよう!カップ類も一度運び込みたいし、今から行こうよ!」
シビラさんのおしゃべり具合に辟易しているらしいリベリオは無言で鼻にシワを寄せた。
「こんにちは、シビラさん!」
「あらー、サナちゃん。よく来てくれたわね。あ、もしかしてお隣を借りることに決めたのね?よかったわ。これからはお隣同士仲良くしてね。それから、こないだ私ってばうっかり水を汲むの忘れて帰っちゃって──」
「あ、あの、旦那さんて、大工さんでしたよね」
相変わらずのシビラさんはどこで息継ぎをしているのかと思うくらい喋り続けるので私はさすがに遮った。
でも全く気を害した様子もない。朗らかだし、おしゃべりだけどとてもいい人なんだと思う。
「そうよー。あ、部屋の間取りとかいじる?それとも建て増し?うちの旦那さん腕がいいからぜひ任せて」
「い、いえ、実は家具職人に知り合いがいたら紹介してもらおうと思って。カフェのカウンターテーブルを作りたいんです」
「あら、それくらいならうちの人でも作れるわよー。ちょっと待っててちょうだいな」
シビラさんは早足で旦那さんの名前を連呼しながら家の中に入っていく。少しして、シビラさんと同じくビーバーの獣人である旦那さんがやってきた。
「やあ、初めまして。シビラからお噂は伺っております。カストと申します」
「初めまして!あの、隣に引っ越す予定のサナです!」
リベリオも無言で頭を下げた。
カストさんはシビラさんに比べると、だいぶ大人しそうというか寡黙なおじさんだ。とはいえ大抵の人はシビラさんに比べたら寡黙になると思うけど。
「大工さんだそうですけど、カウンターテーブルが欲しくて……お願いできますか?」
「細かな装飾や金細工のない、木製のカウンターテーブルでしたら出来ますよ。こう、跳ね板の出入り口の付いた……」
「あ、はい。そういう装飾のないのをむしろ望んでて!ぜひ、よろしくお願いします!」
「まあよかったわー。うちの旦那さんに任せればきっと素敵なのができるわよ。こないだも私がうっかりして床を──」
「妻がすみません。いつもこうなので。他にも必要なものがあれば作りますよ。引っ越しで色々と物入りでしょう」
「え、じゃあテーブルとか椅子とかはできますか?」
「ああ、お隣に大きいテーブルがありませんでしたか?あれは前に私が頼まれて作ったんです。あの程度のものならいくらでも」
「あのテーブルも使う予定なんです!それと2人がけテーブルと──」
市場で買おうと思っていた家具類は全部カストさんが作れるという。ちょうど建てていた家の案件が終わったばかりでしばらく休暇中らしく、1週間ほどで全て揃えてくれるとのことだった。しかも買うより安い。
「休暇中なのにすみません」
「いえ、私は手を動かしていた方が休まるものですから。私は手を、妻は口を動かなさいと死んでしまうのですよ」
そうはにかみながらカストさんは請け負ってくれた。
なお、私とカストさんがサイズや置き場について話し合っている間、リベリオはシビラさんに捕まって一方的に喋り相手にされていた。耳が横向いてへんにょりしていたのが可笑しくて、つい笑ってしまった。
「お疲れ様。今日も付き合ってくれてありがとう。私1人だったらまだまだ全然何も出来てなかったと思う」
帰り道、リベリオにそう言うと、リベリオは疲れたような顔をしつつも微笑んでくれた。鋭い目も柔らかく細めている。
「いや、サナじゃなかったら計画倒れだったと思う」
「ま、まだ開店前だけどね」
「きっと上手くいくはずだ。他に真似出来るやつはいない。問題は立地だが、人伝で知れ渡ればいいんだが。冷たい飲み物を出すってだけで興味を持つ奴は絶対にいるからな」
「あ、そうだ。料金設定ってどうすればいいいと思う?カフェってこっちのはまだ行ったことないから、いくらくらいなのか想像も付かなくて。ねえ、これから行ってみてもいいかな」
「そうか……失念していたな。少し暑いが今から行ってみるか」
「うん!敵情視察だね!」
敵情視察とは言ったけど、むしろこれってカフェデートっぽくない?
私は力いっぱい頷いた。




