16 爽やかリモルスカッシュ
私のカフェ計画はこうして動き始めた。
まず、メニューは水出しアイスコーヒーがメインだ。アニムニアの人はコーヒーに慣れているし、フォクシーやリベリオからもお墨付きだ。
いずれは飲み物の種類も増やしたいが、最初の内は様子見をしながら、2.3種類の飲み物から始めたい。そして、せっかく冷たい炭酸井戸があるのだから、それを利用したい。
私はうーんと考え込んだ。
「炭酸かぁ。ジンジャーエールもいいなぁ。でもせっかくリモルの実があるんだし、レモンスカッシュとか……」
甘酸っぱくて、シュワシュワした味を思い出して思わず生唾が出る。おばあちゃんはレモンや生姜を砂糖とはちみつで漬けて、それを炭酸水で割っていたはずだ。
でも果物シロップの時は砂糖のみで作っていたから砂糖での代用も出来るだろう。
アニムニアではサトウキビによく似た砂糖の材料を栽培している。だから砂糖は比較的安く手に入る。精製した砂糖は輸出用で、一般に使われているのは茶色っぽい優しい甘味の砂糖だ。少し黒糖っぽい香りがして、私は結構好みである。
私はマウロさんからもらったたくさんのリモルをスライスして砂糖と一緒に漬け込んだ。レモンのように皮を剥いたり種を取る必要すらない。
リモルと同量の砂糖を入れて1週間くらい寝かせたら完成だ。本当はきっちり口の閉まる瓶があればそっちの方がいいんだろうけどガラス瓶は高い。とりあえずフォクシーから借りた陶器製の瓶に蓋をしてやってみた。
青リモルだけでなく、黄リモルも漬けてこれで2種類。
できたリモルシロップを炭酸水で割ればリモルスカッシュに、普通の水で割ればリモネードになる。カフェのメニューしても悪くないんじゃないだろうか。
他の果物でやってもいいかもしれない。季節によって変えるとか。どうせ種類は増えても手間はそこまで変わらないのだ。
シロップを割るだけだから種類が多くても出すのもすぐだ。水出しアイスコーヒーも同様に前の日に用意しておけばいいだけだから、接客しながらでもお客さんを待たせることはないだろう。
「お店で出す時は簡単だけど、漬けるのに時間がかかるのだけが難点だなー」
1瓶に1週間くらい。
まだどれくらい集客できるか分からないが、シロップ自体は保存が効くので多めに作っておく方がいいかもしれない。
物件も無事に決まって、リベリオと共に書類を書いた。後でリベリオが提出してくれることになっている。
これで私もとうとう一国一城の主である。カフェ計画が夢じゃなく現実に近づいているのをじわじわと実感していた。
立地としても教会からも近いので、互いに行き来できそうだ。フォクシーも場所を知って喜んでいた。治安的にもいい場所だからホッとしたらしい。
だが私が近いうちに教会を出ると知ったレクは私のお腹辺りにぎゅうっと抱きついて離れようとしない。ぐずぐずと鼻を鳴らしてベソをかいてしまっていた。
私は困ったようにフォクシーと顔を見合わせる。
「レク……」
「やだぁ、サナお姉ちゃんいっちゃやだ」
「サナはまだ家具も用意してないのでしょう。しばらくは教会から通うことにしては?」
「そ、そうですね……じゃあお言葉に甘えて」
「いかない?ずっといる?」
私はぐずるレクをよしよしと撫でる。
「レク、ごめんね。まだしばらくは教会にいるけど、いずれは新しい家に引っ越すよ。でもね教会の近くだから、レクでも遊びに来れる距離だよ。みんなと遊びに来ていいし、来たら美味しいジュースをご馳走するから」
「おいし?」
「うん、リモルスカッシュかリモネードか。出来たらレクにも味見してもらうからね!」
「ん……」
お腹にぐりぐり頭を押し付けてくるレクだけどなんとか納得してくれた。でも私に抱きついたまま離れる気はないようだ。私はピクピク動くレクの可愛い耳が間近で見られるので構わないけど。
「レク……そんなに強くしがみついたらサナの息が出来なくなってしまうわ」
「やだなぁ、そこまで苦しくはないですよ。いくらなんでも息が出来ないほど──」
突然、強い光がカッと私の視界を遮った。これは何度か経験したことがある。レベルアップのファンファーレのような私だけに見える合図。
「あっ……」
「サナ?どうしたの?」
「い、いえ、なんでも……」
私はまた新しい闇魔法の使い方を理解していた。奪うものは『空気』だ。
今の何気ない会話がきっかけになったみたいだった。思えば、熱を奪えるようになったきっかけはレクの熱を下げたい一心だったし、日差しも強すぎるから頭の上だけでも弱めたいと思っていたからだ。
(……私の気持ち次第で能力が増えていくってこと?)
しかしながら今は空気を奪ってカフェ計画に役立てそうなものは思いつかない。
例えば、真空にして食べ物が傷みにくくするとか。あとは真空低温調理なんていうのもある。だが、どちらにせよ真空にできそうなしっかりした蓋つきのガラス瓶は高くてまだ当分は買えないだろう。
そう考えるとビニールって安くて便利ですごかったんだな、としみじみ思った。
とはいえこの闇魔法だって、いずれ使えそうな時が来るかもしれない。
「強いて言うなら、あの炭酸水から少しだけ空気を抜けば、弱炭酸になってレクにも飲めるリモルスカッシュが出来るかもしれない……とか?」
あの炭酸水は私にはシュワシュワとした刺激がとても美味しく感じるけど、炭酸を飲み慣れていない人には舌を刺すような刺激はあまり好かれないかもしれない。日本にも炭酸苦手な子がいたし。シビラさんなんかは好きって言ってたけど、旦那さんは苦手にしているそうだし、リベリオなんて嫌そうな顔で炭酸水を飲もうともしなかった。
サービスで炭酸を弱めて、少しずつ慣れるようにしていく、なんていうのもありかもしれない。
レクに美味しいリモルスカッシュを飲んで欲しいし、リベリオにも美味しいと思って欲しい。
私のリモルスカッシュを飲んでリベリオのアイスブルーの瞳がまん丸のハッカ飴みたいになるのを想像して微笑んだ。




