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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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15 水出しアイスコーヒー

「お帰りなさい、サナ」


 教会に戻った私は、穏やかな笑顔のフォクシーに出迎えられる。


「ただいま、フォクシー!」

「よかったわ。サナが戻るまで待つんだって子供たちもお昼を食べようとしなかったのよ。ねえ、リベリオも食べていくでしょう?」

「いや、俺は……」

「ねえ、食べて行ってよ。その後で書類の手続きも手伝って欲しいし」

「わ、分かった」

「まあ、サナ。もしかしていい物件が見つかったのね!」


 フォクシーは自分のことのように嬉しそうに顔を輝かせた。私は頷く。


「はい!詳細はお昼ご飯食べた後に報告しますね!それからこれ、お土産です。確か、リモルの実って言ってたよね」

「リモルね、黄リモルなら子供たちでも食べられるかしら。酸っぱいのよね」

「あ、私まだ食べてないんです。味見をしてみたくて」

「あら、じゃあ食後に出すわね」

「フォクシー、それから例のやつも」

「ふふ、了解よ」


 私とフォクシーは顔を見合わせて笑う。

 リベリオはなんのことだと言いたげな顔で首を傾げていた。


 食後、子供達に黄色のリモルをデザートに出した。わあっと歓声を上げて各々の小さな手に黄リモルを握る。

 私のは緑と黄色の両方だ。指でつまむと皮がプニっとする。


「感触もかなりプチトマトみたい。確か緑が酸っぱいんだよね。一口でいかない方がいいかな」

「……食べてみればわかる」

「えー、そう言われるとかなり酸っぱそうなんだけど……」


 私はままよ、と緑のリモルを口に放り込んで噛んだ。プチトマトより少し硬いけど、大体似た感じだ。噛むと中から果汁が溢れる。


「酸っぱ!!!」


 その酸味ときたら、きゅうっと耳の下が痛み、目が覚めそうなほどだ。ビリビリと舌が痺れる。

 フォクシーが酸味で涙目の私に、慌てて水の入ったカップを握らせてくれた。


「もう、リベリオったら。サナが本当に食べてしまったでしょう。サナ、お水飲んで口直しして。それから黄リモルを食べるといいわ。甘いから口直しできるわよ」


 フォクシーはそう言うけど、私は酸っぱさよりも感動の方がまさっていた。

 ものすごく酸っぱくて、そして馴染みのある爽やかな香り。


「やっぱり、レモンそっくり!」

「まあ、そうなの?サナの故郷の味に似ているものがあったのならよかったわ」

「フォクシー、これ、料理に使うんですよね。どんな感じに使うんですか?」

「青リモルはお肉を煮る時に入れたりするわ。酸味は火にかけるとある程度飛ぶし、さっぱりして美味しいわよ。それから、天候のせいでお水が美味しくない時がたまにあるから、そういう時にほんの少し青リモルの果汁を入れると臭みが消えるの」

「なるほど」

「あとは酒だな。絞って酒と割るんだ。緑だと酸味があってさっぱり、黄色だと甘みが出て飲みやすくなる」

「そっか、マウロさんもお酒って言ってたよね」

「私はお酒は飲まないから……。黄リモルは料理ならソースにするかしら。焼き菓子の風味づけに使う人もいるわね。でもそのまま食べる方が私は好きだわ」

「へえー」


 私はまだ緑の方、青リモルしか食べていない。舌が痺れるくらいの酸味も水を飲んで落ち着いてきたので、次は黄リモルを手に取った。

 色が違うくらいにしか見えない。くんくんと香りを嗅げば、確かに青リモルとは違う甘酸っぱい香りがある。


 もう一度口に放り込み、噛んでみる。

 青リモルより皮が柔らかく、そして果汁が多い。その味はレモンよりオレンジに似ている。オレンジジュースにレモン果汁を入れた感じだろうか。強い甘みではなく、ほんのりとした甘味とすっきりした香り。皮を剥く手間もなく、そのまま丸かじりできてしまうから食べやすい。

 私はもぐもぐと咀嚼して飲み込んだ。


「美味しい!これ絶対使えるよ!」


 思わず笑顔になっていた。





「それじゃ、次はこっちの番だね」


 私がそう言うと、フォクシーは微笑みながら用意をしに立ち上がり、1人知らされていないリベリオは首を傾げた。


 私はフォクシーが持ってきた陶器のピッチャーを受け取り、沈めてあった物を引き上げて受け皿に置いた。


「……コーヒーか?」

「正解!正しくは、水出しアイスコーヒーだよ」

「水出し……?」


 コーヒー豆は普段使っている物だ。煮出すためか、やや細かく挽かれていたから水出しにしても薄過ぎることはないはずだ。それを料理用のガーゼみたいな濾し布に包んで朝から抽出しておいたのだ。


 私はいつもの闇魔法で常温のアイスコーヒーから熱を奪う。

 常温っていっても食糧庫の1番涼しい場所に置いてもらっていたのだが、それでもそのまま飲むにはぬるくて物足りない。

 確か、冷たい飲み物なら8度前後が美味しいはず、とネットで見た雑学の知識を思い出して、強くイメージする。

 温度計がないから正確に8度ではないと思うけどかなり冷えた実感がある。陶器のピッチャーに結露が付いて、それだけでなんとなく美味しそうだ。


「出来上がり!飲んでみよう」


 私はカップに水出しアイスコーヒーを入れてリベリオとフォクシーに配り、自分の分も注いだ。


 見た目も香りも普通にアイスコーヒーだ。

 いきなりは口をつけにくいだろうと私は真っ先にアイスコーヒーを飲んだ。

 ごくごくといけてしまう。キンキンに冷えたアイスコーヒーが喉を流れていく。暑さにやられてしまいそうな頭が、その冷たさでシャキッとする。


「うん、美味しいー!ねえ二人とも、飲んでみて」


 私は水出しのスッキリしたアイスコーヒーが特に好きで、真夏にはよく飲んでいた。ミルクも砂糖も入れない派だから今日は用意しなかったが、こっちは砂糖を入れた甘いのを飲むことが多いから、シロップは用意した方がいいかもしれない。


 リベリオとフォクシーが水出しアイスコーヒーのカップに口をつける。

 途端に大きく目を見開いた。


「お、美味しい……確かに味はコーヒーなのですが、すごく飲み口が軽くて……さっぱりしているのですね」

「ああ。とにかく美味いとしか言いようがない。香りが残っているのに、苦味が少ない。薄い気もするんだが、これだけ冷たいとごくごく飲みたくなるし、それならこれくらいでいいかもしれない」

「ええ、豊かな香り、そしてこの冷たさ……素晴らしいです。サナが来るまで飲み物を冷やしてまで飲もうとは思いもしませんでした」


 ちなみに電気はないけど、気化熱で冷やすタイプの冷蔵庫はこっちにもある。でも腐りやすい生鮮食品を入れるのに使うので、飲み物を入れるほどゆとりがないらしい。


「冷やして出す店もあるが、それだってかなりの高級店だ。普通のカフェでは採算が取れないからどこもやらない。けど、サナは自分の魔法でなんとでもなる。しかも手間も時間もかからない。……この水出しアイスコーヒーなら絶対に受けるはずだ」

「ええ、私も確信が持てました。きっとたくさんの人で賑わうカフェになるでしょう」


 二人とも真剣な面持ちで私を見ていた。

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