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第102話 明日に向かって

―― ヤクモ視点


 ジュリアスと手分けして、砦の部屋を全て確認したが、ルシフェルとアシュケルは見つからなかった。


 アシュケルが入っていた牢屋の床に、血溜まりができていたのが気になったが……。


 このままでは埒があかないので、俺は全員と合流する為に、一階のホールに向かった。

 俺がホールに着くと、既に全員が集まり思い思いの場所に座っていた。


「みんなはどうだった? ルシフェルとアシュケルは何処に……」

 俺は全員を見回したが、首を縦に動かすメンバーはいない。


「ヤクモ、あいつは勇者なんだし、何とでもなるんじゃないか?」

 ジュリアスは、ルシフェルに対して良い印象を持っていないので、適当だった。 


 確かにジュリアスの言うことも一理あるのだが、砦に攻める前のルシフェルは見ていて危うかった。

 しかし、見当たらないルシフェルを心配するのも、建設的でないような気がする。


 俺はルシフェルの事は置いておくことにする。


「ジュリアスの言うとおりだ。いなくなったルシフェルより、ここにいるメンバーの方が大切だよ」

 今後の事で全員の意向を聞こうと、視線を動かした。


 全員が、それぞれ隣同士や近くのメンバーと話し合った。

 それを聞いたジュリアスが、取りまとまる。


「ヤクモ、やはり全員疲れている。できれば撤収してシュタットに戻りたい」

 俺はその答えは想像していた。問題は上にいるピリスになる。


「全員の意向は了解したよ。一度、上に行ってピリスの状態を確認してくる」


 俺はそう言って階段を上がろうと……。

 あれ? 皆様の視線が痛くないですか? 俺の気のせいですか?


「ヤクモ、全員の考えている事を俺が代弁してやる。爆発しろよ!」

 先生、ジュリアスの言っている事が分かりません。


 俺は、ジュリアスの肩にポンと手を置くと、階段を上がりだした。


「テオドール! ヤクモに! あの野郎にフレアを放ってくれぇっ!」

 HAHAHA、ジュリアスは本当に冗談がすきだなあ。



 俺は階段を上がり、再び四階の部屋にたどり着いた。


 ドアをノックすると、中から美しいハーモニーが聞こえてきた。

 ドアノブを下ろして、ゆっくりとドアを開ける。


 部屋の中に視線を向けると、奥のベッドには四人の美少女が腰をかけている。

 全員の視線が、俺に突き刺さっている。これはなんて剣山なんでしょうか?


「え、と、下で待っているメンバーは、出来るだけ早く戻りたいみたいなんだけど……」

 俺はピリスの状態を知っているので、歯切れが悪い発言になってしまう。


 しかし、ピリスは俺を見て、満面の笑みをこぼしていた。


「私は大丈夫よ、ヤクモ。身体もこの通り元気だわ」

 ピリスはベッドから立ち上がって、小さく跳び上がる。


 俺の上着を着ているだけのピリス。その美しい絶対領域が、ふわりと浮かぶ衣服から顔を見せる。

 思わず顔を反らした時、鈴のように可憐な笑い声が聞こえてきた。


「ヤクモは純粋なのね。もうこちらを向いても大丈夫よ」

 俺はその言葉を信じて、ベッドの方へ顔を向けた。


 既に全員が立ち上がっている。

 ピリスも立ち上がり、ベッドに敷かれていたシーツを身体に巻いていた。


 いつかの舞踏会でみた、美しい三人を思い出す。

 穢れのない純白のドレスに身を包み、ダンスを踊ったのが遠い昔のように思える。


「もう一度、みんなの純白のドレス姿を見てみたいなぁ」

 俺は思っている事を口に出してしまい、はわわっ! となってしまう。


「わたくしは、ヤクモの気持ちに答える準備がありますっ!」

 相変わらずティアは猪突猛進だ。そんな心遣いがうれしい。


「ありがとう、ティアにはいつも気を使ってもらっているよね」

「ホンキなのですがっ!」

 ティアは、ふんすっと両腕を胸の前で組んでいる。こぼれそうな胸の自己主張が激しい。


「くすくす、ティアは先程指摘されていたではないですか。懲りないですね」

 エリーは本当によく見ているよね。いつも驚かされる。


「エリーはよく見ているよね、旦那さんになる人は幸せなんだろうね」

「アナタだけなのですけどっ!」

 エリーらしくない大声だった。ふいっと明後日の方向を向いてしまった。うなじが美しい。


「さぁ、みんなが待っているから行こうよ!」

「私達はっ!?」

 お姉ちゃんとピリスだった。私達は? どういうことだろう?


「え、と? お姉ちゃんとピリス、だ、よ?」

 俺は意味が分からず、しどろもどろになってしまった。


「えーっ!? 弟君! どうして? お姉ちゃんだよ?」

「ヤクモ! 確かに日は浅いけれど、私と裸で抱き合った仲よねっ?」

 お姉ちゃんには感謝しているし、ピリスのは不可抗力だ。


 ピリスが話したあと、三人から刺すような視線を頂戴する。先端恐怖症だと絶谷に気絶するだろう。


「は、ははは、俺は寒くなってきたから、先に行っておくね」

 俺は戦略的撤退という名の逃走を選ぶ。


「風よ……」

 突然、部屋のドアが自動で閉まった。俺は部屋から出る前に退路を塞がれる。


 振り返ると、お姉ちゃんとピリスが待ち構えている。


「そ、そうだね、お姉ちゃんは……」

 俺は正座をしながら、お姉ちゃんとピリスを語らせて頂きました。


「きゃーっ! やっぱり弟君はよく見てるわよねーっ!」

「こ、こほん、ヤクモが私をそういう風に見ていたなんて……」


 ようやく部屋から出ることができた俺は、酒に酔ったようにふらふらと階段を降りていった。

 美少女四人も、しばらくしてからホールに降りてきた。


 全員揃った俺達は、砦を出て宿営地に向かう。



 俺達が宿営地に到着すると、大規模な歓声が巻き起こった。


 エリーは副団長へ矢継ぎ早に指示をだしている。ピリスは天幕に一度入り着替えてきた。

 第一騎士団全員を砦の修復に当たらせて、冒険者にも手伝ってもらうようだ。


 全ての引き継ぎを終えて、俺達はグングニルに乗り込んだ。


「よーし、シュタットに向かっていくぜー!」

 キャリーさんの号令と共に、グングニルは動き出した。


 満天の星空は、数時間前に比べて何も変化していないように思う。

 しかし、俺達は何か大きく変わったような気がする。


 今はそれが何かは分からない。


 それでも前進するしかないのだろう。

 何も変化をしない星空の下を奔るグングニルのように。

 


キャリー「波動砲、発射!!」

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