89話
あけましておめでとうございます。
休憩し続けていてもご飯はできないので私復活。ご飯の為に私復活。
しかし復活したものの、無心でキャベツ刻んでたらものっそい量になってた。やばい、スープに入れようと思ってたのに今日のお昼ご飯は強制的にお好み焼きか?こりゃ。
あ、いや、待て。この世界に来て色々と香辛料も調味料も手に入れられるようになったけど、未だにソースだけはできてないのである。
あれ、マジでどうなってんの?色々研究してみたんだけども上手くできないんだな、あれ。
という事で、ソースも無しにお好み焼き食べるとか苦行でしかない気がするので、粉ものでもなくこの大量の千切りキャベツを消費しなければなるまい。
ええと……ああ、いかん、頭回ってない!くっそ、何で私のメンタルはこんなに豆腐なんだよ!フィジカル豆腐な分メンタル位鍛えられてろよ!せめて高野豆腐程度には硬くなってろよ!
……しょうがないからこのキャベツ群は漬けよう……。昆布の千切りと調味料と一緒にしておいてさ……。
少し遅れたけれどまあお昼ご飯も済んで、また装備や道具を揃える作業。
やっぱりというか、鎧、中でも鳥海の甲冑は作るのにえらく時間がかかるそうな。
だから今までハンドメイドじゃなくて発掘品使ってたんだって。
そりゃそうだね、調整とかも大変そうだし、金属の加工なんて考えただけでも複雑怪奇だよ。
彼らには焼き入れ焼き鈍しとか、金属加工の知識が知識としてあるらしいんだけども、私は金属加工はさっぱりだからなあ、頑張れとしか言いようがない。
今は酸化被膜と塗装の話してるらしい。うん、ぜんっぜん分からん!
制作系のスキルが無い人は外に出て色々採ってくる予定らしい。まあ、そうか。金属で何か作るんだったら金属が必要になるのは当然のことだし、その他にも色々要るらしいんだ、よく分からんけど。
その他、の部分の大半は社長の毒関係なのが笑えないね!社長、何やら作るらしいんだよ、これまた不思議で不穏なもんをさ……。
布製品は特に誰かとスキルが関連してる訳でもないし、パーツごとの分担とかが必要な訳でもないし、材料以外は大体私一人で完結するから全部ひとり作業になる。
刺繍してれば考え事もしなくて済むし、楽でいいよね。ホントにこういうスキルまみれでよかったよ。メイド長もそんなに悪くないよね。例え補正0でもね。うん。
ひたすらに針を動かして、時々糸作って、時々できた装備の確認して、とかやってたら結構あっという間に時間は経ってしまう。
金属関係と違って布製品のいいところはすぐに物ができる所かな。スキルのおかげでとんでもない速さで完成していくし。
ということで最後に私が作ったのはメイドさん人形達の新しい服。
今までは空色のエプロンドレスだったんだけど、そろそろそれじゃあ駄目になってきたからね。
何故、防御力は紙、攻撃力皆無、一発食らったら多分即死、という私が『魔王』として名乗りを上げて矢面に立つことになったか。また、それをなんで皆さんが許したか。
それにはメイドさん人形達の存在が大きい。
今やメイドさん人形達は私の手足みたいに動かせる存在だ。
そして、どんなに離れていても、階層が違っても、『共有』できるし、何より装備を整えられるのだ。
そして、私達には『大黒蛇の鱗』による『魔法無効』がある。
無効っていうんだから無効なのだ。一切効かないのだ。
それはもう、物理的な耐久性が私より無いメイドさん人形だったとしても。
そしたら、こういう事ができる。
メイドさん人形達を360度に配置して、(情報過多で頭吹っ飛びそうになるので私自身の目を閉じておく必要はあるし、まだ練習が必要だけども)視野を完璧に保ち続ける。
そして、私自身は敵陣から離れた場所に悠々と(しているふりをして)陣取る。
前に出て実際に皆さんが戦っている間、私は私に向かって飛んでくる魔法や物理的攻撃をとにかく避ける。ひたすら避ける。
魔法の中にはもちろん、大規模なものもある。けど、それは効かない。私もメイドさん人形も『魔法無効』ならば魔法によってやられることはまず無い。
物理的攻撃が来そうになったら、避けられそうになれば避ければいいし、避けられそうになかったらすぐに『転移』すればいい。
……つまり、私は宣戦布告していざ戦争だ、となった時にはひたすら逃げる係になればいい、という事になる。
というか、多分実際はそうもならない可能性が高い。
だって皆さんのあの戦闘力よ?ありえん程の戦闘力よ?あんなのが8人も来て交戦してみ?その後ろに居る変なの一匹に攻撃する暇なんて絶対無いよ、これ。
なので、私は実質流れ弾を避ける形になるんじゃないかなあ、と、思っている。
というかだな、そもそも『魔王』は倒されてはいけないのだ。傷つくのも望ましくない。
完全無欠の『魔王』を演じるには、交戦する必要のない、というか交戦できない、ただ逃げるしかない私が9人の中で適任だった、っていう事でもある。
でも私はそれをできるだけの能力が……多分、多分、ある。ある、よな?あるはず……うん、あるよ。あるんだよ!私は逃げられる!避けられる!完全無欠を演じられる!と、思う!
そう、メイドさん人形がいればね。
……なので、壊れたら困るカメラ兼回復役兼エフェクト係であるメイドさん人形をだな、強化している所なのです。はい。
具体的には、ワンピースを『大黒蛇の鱗』で染めれば『魔法無効』と『防御力上昇(大)』が付くから、それでもう殆ど終わり。後は空色の百合で『飛空』をつけたパニエを履かせて、それからそれぞれのプチ魔法を強化するような染料で染めた糸で刺繍したエプロンと頭装備を作ってあげればこれで本当に終わり。
この装備の難点はMPの消費を抑えられないって事だけど、私自身のMPは装備でガッツリ増えたし、メイドさん人形自身もミント抽出液使ってくれたりするので意外と問題なし。
……なので後は、数を作るだけだ。
しかし数。されど数。いつだって数は脅威だ、暴力だ。
……現在、メイドさん人形達は増えに増えて50体を記録しました。50体です。50体。
それこそ、眼前に並んだら盾になるぐらいには多いよ、50体。
なので、50着のミニチュアメイド服をひたすらひたすら縫う作業が……うん、メイドさん人形達も自分の装備は自分で作ってやる!位の気概があるらしくて、すごく手伝ってくれるからそこは楽なんだけども、縫ったり刺繍入れたりするのは私なのである。諦めて私はミシンになるよ。がががががががが。
そうこうしている内に何とか装備が整った。いやー、肩がばっきばきだ。針仕事は楽しいけれど肩がばきばきになる。
現在黒いエプロンドレスに着替えてご満悦のさくらとみなもが肩の上で飛び跳ねてくれている。あ、勿論やってることは肩たたきです。有難いね。うん。
「舞戸さん、ちょっとこれ装備してみて」
そうこうしている間に私の分の鎧試作品ができたらしい。
「自信作だよ。多分これなら装備できるんじゃないかな」
加鳥に手渡されたのはどこか虚ろな白い色と艶のある黒の鎧。首から肩、それから胸を覆う形状で、それに腕を守るパーツとベルトで付ける直垂みたいなパーツがある。。
……明らかに、増えてる。なのにそんなに重くない。
「軽い分強度が不安だけど、それは多分大丈夫、だと思うんだ」
「鱗と……骨?」
「そう。骨。火竜の奴。あとは大黒蛇の鱗。『素材加工』っていうスキルが新しく手に入ったからやってみたんだけど、どう?それで動けそう?」
装備してみると、不思議な位体に馴染んだ。重いのは重いけど、別にこれ着て走ったりするわけじゃないし、うん。避けるモーション位になら全然邪魔にならない。どうせ武器も使わないのだから、腕も動かなくてそんなに問題は無い。
「うん、大丈夫。避ける逃げるに支障は無さそう」
「あー、よかった。あと、頭装備なんだけど、これ」
こちらは薄い金属でできたメイド頭標準装備ホワイトブリムだね。……金属になると一気にメイドっぽくないね、最早これは……別の何かだね。
「冠か、これ」
「うん……メイドさんの頭標準装備ってさ、金属で作るとこうなっちゃうんだよね……」
……うん、なんというか、そこまでしてメイド長のアイデンティティを保とうとしてくれる皆さんには頭が下がるよ。
「で、重さはどうかな」
「これぐらいならこっちも大丈夫」
いくら金属と言っても、薄いし、こう……割と、造りが華奢なんだな、これ。
だから大丈夫。
「そっか。うん。じゃあ舞戸さんの分もこれで上がりってことで、あとは僕の分かあ……あ、そうだ」
「はいな」
「あのさ、とこよ、借りてもいいかなあ?」
因みに当のとこよは疲れたのか私のエプロンのポケットでぐてーっとしている。
「うん、いいけど、何に使うの?」
「うーん、男のロマン」
……。
あ、うん。不埒な事は考えてません。大丈夫です。
「うん、ええと、とこよだけでいいの?あと7体位貸す?」
「うん、1人でいいんだ。単純に緊急脱出用に舞戸さん連絡網が欲しいだけだから」
……あれっ、君、装備、作ってるん……じゃなかったっけ?緊急脱出って……ええと……。
ちら、と窓の外を見ると何かが見えちゃったけど私は見ないことにした。見てない。私は見ていないぞ、モ○ルスーツみたいなのなんて……。
晩御飯もご飯にブラウンシチューでさらさら終わらせて、皆さんの装備づくりはまだ続く。
殆ど食う・寝る以外は全部装備作成に費やしてるけど、大丈夫なのかこいつら。
現在は顔隠す装備を作ってるらしいね。それぞれ個性があって面白くていいと思う。
とりあえず私は社長のペストマスクで大笑いした。似合いすぎだし怪しすぎだし、なんというか……最高。
結局実用的じゃないっていう理由で没になってたけども。残念。
そうしてそろそろ日付が変わるかな、という頃、やっと全員分の装備が完成した。
「全員並んでみようぜ!」
ノリノリの鳥海につられて全員円状に並んで見てみたら、思ってたより禍々しかった。
やっぱり筆頭は鳥海だ。その全身フルプレートアーマーは漆黒に染まることで重量感と圧迫感が生じ、しかも手に持つ大型のハルバードが禍々しすぎる。血の様に赤い石をあしらった漆黒のそれはひと薙ぎで人を数人殺せてしまいそうだ。
というか、数人どころか数百人、もうヤっちゃってるかんじの風格である。
次点は社長。やばい。白衣ならぬ黒衣を纏い、そして頭にはガスマスク。……成程、実用的だ。というか、これが実用的になっちゃう戦い方をするつもりなんだな、お前はっ!
ちなみに、白衣ならぬ黒衣は当然私が作った!
ぺらく見えて案外丈夫なつくりのあれの内側には大量に薬品の試験管やフラスコが収納できるようになっているのだよ……。
角三君は遂に兜がフルフェイスになった。まあ、顔隠したいならそうした方が無難だよね。
そして案の定鎧は真っ黒。真紅のマントが良く映える。それは血染めですかと聞きたくなるかんじがなんとも言えない。
それに合わせて剣も鳥海とお揃いで刃以外を黒く仕上げてあって、柄に赤い石を付けた模様。
暗黒騎士ってこういう奴の事か。納得。
刈谷は聖職者じゃなくなってた。
私の鎧が金属でできた感じのパーツが少ない鎧を着て、その下に漆黒と真紅の法衣。頭は円筒形のフルフェイス兜。正直、怖い。
そしてその手にはやはり漆黒のメイス。このメイス、鈴本の『冷静』と鳥海の『話術』を『付与』してあるらしい。
「コミュ障の俺でもこれで煽りスキルMAXですよ!ドヤァ……」との事。
なにそれ、私も欲しいです。
見てて面白いのは針生かな。ニンジャだからね。ニンジャ。
部分部分を覆う鎧に忍者装束。当然、忍者装束は私が縫ったとも。
針生も暗器いっぱい収納したいタイプだからね。収納スペースには気を遣いました。
しかし、怪しい。こんなのが走ってたら凄く怪しい。
しかし、今回の作戦では針生は走り回らないからね。普通に隠密するだけだからね。……残念な気もする。
羽ヶ崎君はあんまり変わりがない。頭装備として仮面付けただけで、杖も例の銀と薄青の奴使ってるし。……どうも、赤い石のついた杖を使おうとすると上手くいかないんだそうだ。うーん、魔法って仕組みがよく分かんないからね。
尚、仮面は案の定加鳥謹製。
……あれだ。これ装着してこれに血垂らしたら吸血鬼になれるやつだ。なんだろ、羽ヶ崎君、人間やめるのかな。
……うん、仮面だけで十分おかしかったね。うん。
鈴本は鎧も無しに例のド派手着物一丁なんだけど、頭装備が狐面。すごく怪しい。
狐面は無駄に高度な技術により、ずれない、付けてても視野が狭くならない、というファンタジーなアイテムです。
黒地に鳳凰の着流しに狐面、そして刀、って、絶対これ中二病発症してるよ、と思っていたら「クッ……鎮まれ、俺の右腕……!」をやってくれた。やばい腹筋が壊れる。
そして……もうお前魔王軍じゃなくて他の軍だろ!というかんじなのが加鳥だ。
外にそびえる人間型有人機動兵器。カラーリングはこちらに合わせて赤と黒。
レーザーが出るらしいけど、もうこれは動かして地上に立った瞬間がクライマックスだろうなあ。
敵軍はきっと唖然とするね。動いたらもうきっと阿鼻叫喚だろうね。「こいつ……動くぞ!」どころじゃないね。
ああ……南無、としか言いようがない。
ちなみにどうやって作ったかは聞いても理解できなかった。
色々と異世界クオリティなスキル及び魔法を使いまくったらしいんだけども。もうこれ生産スキルってレベルじゃねーぞ!
そして決行は明日の逢魔が時、夕方という事で決定した。やっぱりその方がそれっぽいじゃない。
朝日とともに現れる魔王とかちょっと爽やかすぎてよろしくない。朝日と共に現れていいのは正義の味方と相場が決まってる。
さて、そしたら私は明日に備えてもう寝よう。……朝型の魔王ってどうなんだろ、いや、いいよね、所詮は演技だしさ。




