66話
「……おい、舞戸、なんだそれは」
「今メイドさん人形達から賜った」
メイドさん人形たちは一斉に敬礼して見せる。あれか、死地へ赴く人への敬礼か、それは。
「まさかそれで溶岩を消すとかいうふざけた事を考えてるんじゃないだろうな」
「ビンゴ」
なにやら穂村君以外の皆さんは頭を抱えだしてしまった。
「……それ、掃除する前にハタキが燃えないか?」
「やってみなきゃあ分からんよ、それは」
一応、『火消し』なるスキルは持ってるぞ。……穂村君曰く、火と溶岩は別物らしいから、怪しいけども。
けどもまあ、やって見なきゃあ分からんでしょう!
ハタキが燃えるのが先か、溶岩が消えるのが先か!それとも私が焼け死ぬのが先かな!ははははは!
というわけでやって参りました、溶岩流の前です。
勿論、只来ただけだとそのまま私は焼け死ぬ。ので、羽ヶ崎君が頑張って冷房係になってくれてます。
「ちょっと、やるなら早くしてよ、僕のMP無駄にする気?」
羽ヶ崎君にも悪いので、さっさとやってみることにしましょうかね。巨大ハタキを溶岩に向かって振り……引火した。
「ちょ、ま、『お掃除』!」
慌ててハタキでハタキをはたいて『火消し』を発動、巨大ハタキが燃え尽きるのは防いだ。
……期待させといてこれとか!
そのままそこにいても羽ヶ崎君のMPの無駄遣いなので、一旦戻ってきました。メイドさん人形たちがもふもふすりすり慰めてくれたり、一部が燃えた巨大ハタキの補修をしてくれたりしている。
「やっぱり溶岩は火じゃない、ってことなのかな」
だろうね。多分、『火消し』で消せるのは火だけで、単純に高温の物体とかに発動されるものじゃないんだと思う。
「いっそハタキを耐熱素材で作って……!」
「溶岩で溶けないハタキってもうそれハタキじゃないんじゃないですかね」
……セラミックスハタキとか?うん、確かにそれ、ハタキじゃないね、それ。
「ハタキの布を『染色』して何とかならない?」
あー、それはちょっと考えてみる価値があるなあ。けど、なんにしても続きは明日にした方が良さそうだね。
今日は穂村君も皆さんと一緒に寝ることになったようなので、私が使ってたお布団を提供しようとしたらメイドさん人形たちに阻止されてしまった。
具体的には、私が使ってた布団で既にメイドさん人形たちが寝てた。炬燵か何かの様に、布団の四方からメイドさん人形たちが布団に入って寝ているのを見ていると、お布団を没収しちゃうのはなんだか忍びないのでしょうがない、新しくお布団を作りました。最近布団作ってばっかな気がするなあ。
そして私はケトラミさんで……寝ようとして、気づいた。
ケトラミさんは大丈夫らしいんだけども、私はこの温度に耐えられない!
教室の中って、外と比べたら大分涼しいのだ。なんだろ、教室自体にそういう補正が掛かってるのかな?まあ、そういう事なので、私も今日は室内で寝ようとして……うん、そうだった。布団はメイドさん人形たちに取られてたね。
しかし、もう布団を作る気力は無い。メイドさん人形たちを上手くそっとどかして、私も布団の隅っこに入って寝ることにした。
……これ、私の布団だったはずなんだけどなあ……。
おはようございます。朝ごはんは和食にしますよ。何故かっていうと、穂村君が長らく味噌汁飲んでないだろうなあという配慮。
というか、今までトカゲの肉だけで生活していた人にはご飯にしろパンにしろちゃんと美味しいものを食べていただきたい。
ご飯を炊きつつ、『調合士』でみられるレシピノートみたいな奴を頭の中で捲って見てみる。
……火耐性とか、そういうのが付けばいいのかな?と思ってそういうのを探してみた所、ありました。
ただし、材料が『火竜の鱗』。……無理だよ!
ということで、耐火性ハタキの夢は潰えたのでした……。
しょんぼりしながら朝ごはん。穂村君はまたしても感激してよく食べていました。朝っぱらから元気だなあ。うんうん、いっぱいお食べ。
一応耐火性ハタキの事を報告しておくと、「あーやっぱり」みたいな顔された。そ、そうか、やっぱり、っていうレベルだったのか!
「昨日冷房係やってて思ったんだけど、僕が溶岩冷やして固めれば舞戸も『お掃除』できるんじゃないの?」
あ、盲点。そうか、普通に溶岩は冷やせばいい。そしたら普通にハタキではたけるようになる。なる、けども……。
「一応、聞いてみるけども、それ、羽ヶ崎君に滅茶苦茶負担がかからんかね?」
つまり、冷房係と冷却係を一人で、って事でしょ?
「だろうね」
……まあ、本人がこう言ってるんだし、大体自習室がありそうな位置も見当が付いてない訳じゃ無いし、冷やし固める範囲もそんなに広くなくて良さそうだ。それならいけるかもなあ。
他の人からも賛成の声が出たので、早速ご飯食べ終わったら行って見ることになりました。
というわけで、溶岩流の前に来ました。
「じゃあ、冷やすから、舞戸はそこ削ってくれる?」
……ちょっと待て、今気づいた。
これ、これ……滅茶苦茶難しくないか?つまり、つまり、『あるか分からない物の境界線を意識して岩を削る』。……ど、どうしよ。え、ええと……でも、やるっきゃないよなあ。
羽ヶ崎君がひたすら頑張って溶岩流の一部を固めてくれたので、そこに行ってひたすら集中、そしてハタキを振るって『お掃除』する。イメージとしては化石かなんかを発掘するみたいに、一回一回で削るのは薄く、薄く、回数を重ねていく感じで。
……うっかり教室『お掃除』しちゃいました、とかになったら笑えない!
「舞戸!戻れ!」
鈴本の声で慌てて固まった溶岩の上から退くと、すぐに凄まじい熱気が襲い掛かってきた。うお、何、何?
「……総員待避だな、鳥海」
「あいよー、『転移』」
何が起きたかよく分からないまま戻ると、羽ヶ崎君がぐったりしてた。
「MPの消費が激しすぎるんだけど……何アレ」
どうも、溶岩をひたすら冷やし固めまくっているのには凄まじいMPを消費するらしい。しかも、冷房係も兼ねてるから余計にだろう。
「舞戸の方はどうだった?」
「難しいよ、あるか分からない物の境界線を意識して削っていく作業、なんてさ」
言うと、皆さん難しい顔をして考え込んでしまった。
今の所、一番現実味のある方法だっただけに、羽ヶ崎君のMP消費の大きさと、私の技術不足は致命的だ。特に、羽ヶ崎君の方は他にも応用が利きそうだっただけに何とかしたい所ではある。
羽ヶ崎君が回復したところで、今度は社長が頑張ることになった。
一応こいつ、最近毒ばっかり使ってるから忘れがちだけども、土魔法が使えるのだ。
冷えて固まった溶岩なら、土魔法でなんとかできちゃうんじゃないかなあ、という、そういう話であった。
「じゃあ、手短にやってね、じゃないと僕の方がまたぶっ倒れそうだから」
元々羽ヶ崎君はそんなに体が丈夫な方じゃない。補正でかなり超人になってはいるけども、生まれ持った性質は変わらないのかな、やっぱりこういう時は辛そうである。顔色が悪い。
「はい、じゃあお願いします」
社長も杖を構えて準備万端になった所で、羽ヶ崎君がさっき同様、溶岩を冷やして固める。そして、それを社長が土魔法で穴を空けていく。教室にぶち当たったら分かるらしいので安心して見ていると、やっぱりというか、先に羽ヶ崎君の限界が来てしまった。
しょうがないのでまた鳥海が『転移』して全員離脱。
ふーむ……固めて何とかする、ってのは、いいと思うんだけどなー。
羽ヶ崎君がヤバそうだったので、寝かせておいてこっちはまたしても作戦会議である。
「羽ヶ崎君以外の誰かが氷若しくは水魔法を覚える、ってのはどうだ?」
「ちょっと難しいんじゃないかなあ、今までやってて覚えてないって事は、誰も羽ヶ崎君以外に水とか氷の魔法の適性が無い、って事じゃないかと思うんだけど……」
だろうなあ。
社長はもう毒の方に進み出しちゃったし、加鳥は最近オーパーツ改良しまくってどんどんファンタジー世界観ぶち壊しの方向に進んでるし、刈谷は光魔法位しか使えない。
「せめて、水でもいいから誰か出せればいいんだけどな」
鈴本がそういった瞬間、羽ヶ崎君を扇いだり、冷たい水で絞ったタオルを頭に乗っけたりしてあげてたメイドさん人形たちが急激に反応した。
……うん、想像はつくよ。あれだろ?持ってくるんだろ?
……そして、その予想は的中し、数秒後にはメイドさん人形たちが揃って、私にジョウロを差し出していたのである。
……うん、うん、いいよ、またやってみるよ。
羽ヶ崎君は使い物になら無さそうだったので置いてきた。
なので現在、凄まじく暑い。肌が焦げそうな感覚である。もうこれ、いい加減スキルになってほしいものである。
「あ、舞戸さん、オーケーですんで、どうぞー」
刈谷に『箱舟』を発動してもらう。これはありとあらゆるダメージを防いでくれる万能型の防御スキルである。
……なんでこんなことしなきゃいけないかっつーと、こういう事である。
私が早速ジョウロで溶岩に水を注いであげると、凄まじい勢いでそれらは蒸発し、私を蒸し焼きにしようとして来るのだ。
……やめてよー、やめてよー!これ、モロに食らったら私、一瞬で戦闘不能だよ!
という事で、まあ、『箱舟』のお蔭でひたすら水を注ぐことに専念できたんだけども、だめだ、こりゃ。
いっくら水で冷やしても正に焼け石に水。もうなんか、これジョウロでどうにかできるレベルの何かでは無いよ。
しょうがないのでまた撤退。刈谷にはMPの無駄遣いさせて申し訳ないが……私も大概無駄遣いなので勘弁してくれくれい。
「うーん、どうしたもんかな、これ」
「いっそスキル入手に賭けてマグマダイブ」
「却下」
まあ、ね、取り返しがつかないことはするべきじゃないよね。
「ホント、教室が溶岩に浮いてくれれば良かったんだけど」
そしたらその教室、どんぶらこっこ、すっとんとん、と流れていかないかね?
「溶岩が透明でも良かったな」
それはきっと綺麗なことでしょうなあ。
「いっその事、教室に足生やして自力で出てきてもらうとか」
それはユニークだなあ、きっとあれだろ、教室の足って8脚とかでガシガシ駆動するかっこいい奴だろ。
「……一瞬で溶けるかもしれませんけど、足ならできるかもしれませんね」
……しかし、社長が何やら思いついたようです。




