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62話

『この世界は、常に崩壊の危険を孕んだ不安定な世界だ』


「崩壊?」

『魔力の流出、減少により世界の形が保てなくなり、放っておけばいずれ崩壊する』

 魔力が世界の形を保ってるって時点でなんかよく分からなくなってきたけども、まあいいや。

『そして、その崩壊を食い止めるために、神殿は異世界から『勇者』を召喚することにしたのだ』

「魔力の減少の元凶、っていうのが居るんだってね。それを倒すためなのかな」

 そして、それを倒せば元の世界に戻れる、と?

『魔力減少の元凶を消せればそれに越したことはないが……それ以上に、異世界人は高い魔力を持つ。いれば、それだけで世界の魔力を補填する』

 ……あれ、なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?

『始めのころはそれでもまだ、少人数の勇者を召喚し、女神より授けられし武具を授け、元凶を消すことのみを目的にしていたのだ。……それを、神殿の奴らは……』

 あ、うん、なんか分かった。

『異世界人は、いれば、いただけ世界の崩壊を防ぐ楔となる。だから、だから……だから神殿は好かぬのだ!あ奴らは、無為に異世界人をこの世界に落として、その異世界人の魔力で世界の崩壊を食い止めているのだ!』

 ……つまり、あれでしょ?働けるのに働かずに必要以上の生活保護受給して豪遊してるってことでしょ?

 ……『アライブ・グリモワール』さんが神殿嫌いになるのも無理はないよなあ。




「じゃあ、『勇者』っていうのは、私達異世界人の総称?」

『昔はそうだったのだが、今は違うな。……これも腹の立つ話だが、汝らはバラバラにこの世界に落ちてきたであろう?』

 うん。非常に。部員全員揃うまでにも10日かかったし。

『あれで、偶々神殿に落ちてきた者を『勇者』としている。それ以外は只の『異国人』だ。……聡い汝なら、分かるであろうな?』

「おうともよ!胸糞悪いね!奴隷が欲しかったんだろ?」

『正解だ。……そうだな。この世界に奴隷制度ができたのも、丁度そのころだったか』

 結構根の深い話なんだなあ。それ。

「『神殿』は……何だろ、単に勇者を召喚する施設、って訳じゃなさそうだけど」

『ふむ、神殿は本来、女神の声を聴くために在る。神殿に居る物は皆、元々は女神の声を聴けるものだったのだが……今となっては、大司祭のみが女神の声を聴くという』

「『女神』が勇者に神託を出した、って福山君は言ってたけど、という事は、神殿の腐敗って、即ち女神の腐敗?」

 腐った女神。……あ、違う違う、そういう意味じゃないぞ。決してBL云々の意味では無く。

『それは分からぬな。……女神の声を聴く者が1人だけだったら、それは如何様にもできようが?』

「あー、女神の声の改竄してるかも、ってことかー」

 ややこしいなー、これ。

『本来、女神はこの世界を創った後、この世界を導く存在となったのだ。神殿の腐敗が女神によるものでは無いとは、言いきれぬのかもしれぬな……』

「その神託って、私達聞ける?」

『神殿に行けば大司祭より神託を受けるかもしれぬな。一応名目上、異世界人の召喚は勇者召喚であり、つまり召喚された以上は全員勇者である、という事になっている故にな。……神殿に行くつもりか?』

「どうだろう。いずれは行かなきゃいけなくなるかも。皆さんとも話し合うけど」

『ふむ、勧めはせんぞ?あそこに行く時間があるなら寝ていた方が余程マシというものだ』

 そ、そんなに嫌いかあ、神殿。

 まあ、私も今の話を聞いて嫌いになったけどさ。

 ……まあ、誰か1人(1冊だけども)からの話だけで色々判断するのは危険っちゃ危険だ。この『アライブ・グリモワール』さんが本当に信用できるかとか、結構微妙な所あるし。

 ……うん、でも、やっぱりあれだな。神殿に行くのは当分保留にしたい所だなあ。

 火のない所に煙は立たぬ、ってね。




 というか、あれだ、それよりも大事なことがあった。

「でも、一応その元凶とやらを消したら、元の世界に帰れるんでしょ?神殿は召喚できたんだから戻すこともできるんだよね、多分」

『うむ、召喚術の逆を行えばいい訳だが……うむ』

 あれ、文字が止まった。

「どした?」

『うむ……そのあたりについては、もっと詳しい者が居ろう。その者に聞くがよい。我が語るには少々荷が重い故にな』

 え、荷が重い話なの?

「その者、って誰よ。私が知ってる人、だよね」

『ふむ、まだ気づいておらなんだか。……おかしいとは思わなかったのか?』

「……何がよ」

『うむ、ならば気づくまで待つというのも一興かな、答えが分かったらまた来てくれ』

 え、ちょ、待て待て待て!こら!なんか光ってるけどもこれ、帰そうとしてるんじゃないの!?まだ話は終わってないぞ!帰すな!

『ヒントは……そうだな、汝の嫌いなものかもしれぬ。『質量保存の法則』が好きなのだろう?』

「は?」




 はい、帰されました。『アライブ・グリモワール』さんは大層ご満悦、ってかんじである。

 あれだな、知的なやり取りができて満足してるに違いない。

 そして、知的な問題を出して、喜んでるんだな、こいつは。

 ……もっかい『共有』するのは無粋ってもんだろう。よし、ここは1つ、考えてみるけどもその前にもう眠いので寝ます。

 おやすみなさーい。




「……という話だったのさ」

 はい、朝です朝ごはんです。今日はご飯に味噌汁目玉焼き、ってな感じです。

 そして食べながら、昨夜『アライブ・グリモワール』さんと話した内容を伝えた所。皆さん、理解が早くて助かりますなあ。

「ええと、つまり……俺達、その元凶を倒せばいいの?」

「そもそもその元凶って何だ」

「福山君は倒す、って言ってたけど、『アライブ・グリモワール』さんは、消す、って言ってたんだよね。元凶がどんな形してるのかも分からんね」

 多分、あの本のことだ、こういう細かい所には気を使いたがるだろうし。

「じゃあ、神殿に行った方がいいのかな、僕たち」

「あの本は勧めないって言ってたぞ」

 単にあの本の好き嫌いかもしれんけど。

「……何にしても、ここであの本から出題されてる訳でしょ?『神殿は僕らが元凶を消した時に元の世界に帰してくれるのか、という問いの答えに詳しい人』。……で、ヒントは『質量保存の法則が好きな人は嫌いな奴』」

 そこで皆さん、大体同じことを考えたらしい。

「あー……月森さん、だっけ」

 あ、そうね、彼女、『コピーウィッチ』だもんね。

 滅茶苦茶に質量保存の法則無視してるよね。

 まあ、この世界に来てそういうの、しっちゃかめっちゃかになってるから、今更感もあるけど、真っ向から質量保存の法則に喧嘩売ってるのは彼女ぐらいなものだ。

「何にしても、『交信』の腕輪をコピーしてもらいたいんだし、月森さんに会いに行くのは変わらないな」

 ふむ、とりあえずは足で稼ぐしかないかな。

 ということで、私たちは3F北東あたりに行くことにしました。




 勿論、『転移』は、皆さんの記憶を『共有』してから行いました。だって私、行ったことないもん、3F。

 そして、そこからまたケトラミライディングで、情報室・新聞部組を探そう、という事に。

「では、尋常に」

 ということで、またじゃんけんに。

 ……既に乗ったことのある社長・針生と、ケトラミさんが乗せたがらない鳥海は除く。

 で、また高度な心理戦に持ち込まれて、延長12回にしてようやく刈谷が負けたので、私が視覚を『共有』した上で、ケトラミに乗って旅立っていった。


 ……その間、私たちは暇なので、そこら辺で稲刈りしてました。

 いやー、3Fって、米がいっぱいなんです。何故か。

 そろそろ蓄えも心もとなくなってきてたんで、ここらで収穫しておきたいなあとは思ってたんだよね。


 それから十数分で見つかっちゃったので、早速『転移』。

 ケトラミさんはやっぱり速いなあ。しかし、その反動で刈谷が死にそうになってた。

 お疲れ様です。


「アンタ達、暇なの?」

「そういう月森さんも暇なの?」

「私は布団の警備よ」

「それは羨ましい」

 さて、情報室・新聞部組とそんなに久しぶりでもないけど久しぶりに会いました。

 生活リズムが私達より幾分遅い彼らは、今から朝ごはんのようです。

 そして月森さんは相変わらず寝坊している。羨ましい。

「それで、何かコピーするものでもあるの?」

 そして察しがいい。素晴らしい。

「うん、これなんだけど」

 ということで、効果を説明した上で、早速『交信』の腕輪を『複製』してもらうことにした。

「『複製』。……えっ?」

 しかし、ここでちょっと不思議な事が発生。

「何故2つ」

 ……一回の『複製』で、2つ増えた。

「……まさか、2つ同時にやっちゃった……?今度は1つに分けるから」

 という事で、もう一度。

「『複製』。……うん、今度は1つね」

 ということで、3つの腕輪を渡された。……んだけど、ちょっとおかしい。

「あれ、腕輪の石って、水色だったっけ?」

「いや、オレンジ」

 そう。2つの腕輪が……石が水色になってたのである。


「……これ、2つ同時にできちゃった奴か。……んー、『複製』」

 月森さんは今度はその水色の方を1つだけ『複製』した。

「うん、水色よね。……じゃあ、『複製』」

 そして、今度は2つ同時に。……やったら、今度は赤い石の腕輪が2つ。

 ……ど、どういうことなの……?


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