50話
はい。当日の朝です。
朝ごはんをさっさと食べて、お弁当やMP回復茶、あとおやつとかも用意。もはや遠足気分。
そして全員武装、かつ私はダリアさん状態(赤い髪、オレンジの目、小麦色の肌)に『変装』して、王都の例の宿に『転移』する。
一応私達、今ここに泊まってることになってるからね。
そしたら荷物を全部、新しく買った革袋というか、革のナップザックみたいな、この世界の旅人御用達っぽい荷物入れに詰め込んで、コロシアムへ出発です。
コロシアムでは受付を行っていた。
今日はモノの部なので、受け付けは一人一人だ。
ここで私はダリアさんとして、割と難なく受付を済ませて、出番の時間等を説明される。
今年はやっぱり参加人数が凄く多かったらしく、バトルロイヤルを全8ブロックに分けて行って、そのブロックごとの勝者2名が第二回戦に出場できるらしい。
何故2名、っていうのについては、やっぱりすごく強い人が同じブロックに2人入っちゃって潰しあった時の残念感が半端ないから、とか、16ブロックに分けてる暇が無い、とか、諸説ある。
私は……Gブロックだ。
うーん、他の皆さんはどうだろうか。
「俺はAだった」
「え、うーん……僕もAなんだよね。わー、被っちゃったね。あ、でも2人までは被っても平気か」
「えええ!?俺もAなんだけど」
……早速、鈴本と加鳥と針生がAで被った。
少なくともこの中の一人は絶対に第一回戦突破ならず、ってわけだ。
「うーん、じゃあ僕が棄権するよ。僕の戦法ってタイマン向きじゃないし」
加鳥がそういうので、多分鈴本と針生が勝ち上がるんだろうなあ。
うん、頑張れ。
「僕B。他にBいる?」
「あ、俺Bなんでよろしくお願いします。……できれば前衛がいた方が良かったですね……俺ですみません……」
Bは羽ヶ崎君と刈谷だ。
うーん、ここ2人は上手い事勝ち上がれるだろうか。
もしかしたらどっちか駄目かもしれん。こういう時に魔法使いは不利だよね。
「Cは俺だけですか、不安ですね」
Cは社長だけのようだ。
こちらも不安の残る振り分け。頑張ってください。
「Dは……俺だけ?うわー、マジですかー」
Dも鳥海一人かあ。でもこっちは安定感あるね。頑張れください。
「俺……F」
角三君はFのようだ。こっちは必ずや勝ち上がってくれる、と、思う。
……あれ、しかし、じゃああれか。私、一人か。
「舞戸は?」
「G」
「がんばれ」
うん、このぞんざいな感じが何ともなあ。
「つまりあれでしょ、EとHには僕らの誰もいないし、CとDとFとGが一人なんだから、絶対に第二回戦では8人以上が僕ら以外の人になるってことでしょ」
……あれ、これ、私もしかして、第二回戦も真面目に戦う羽目になる恐れが結構あるのかな?
「舞戸さん、大丈夫?」
「大丈夫と胸を張って言えない程度の自信しかないよ!」
「僕は嫌だからね、またお前が誘拐されて走り回るの」
嫌でもなんでも、いざとなったらそうなっちゃうんだな、これが……。
「舞戸さんはとりあえず、第一回戦を勝ち抜くことを考えてください。第二回戦はその後ですから、また後で考えても間に合います」
……まあ、実際、社長の言う通りそうなのよね。
とりあえず私は、第一回戦を頑張らねばね……。
ということで、まずは観客席入りします。
鈴本、針生、加鳥はAブロックだからもう控えてるはずだ。
他にもBブロックの羽ヶ崎君と刈谷がもう控室に行ってるね。
ということで、こっちはこっちでのんびり観戦と洒落込もうという訳です。
「Aブロックになった人たちはちょっと不利ですね、どうしてもこの世界の人たちの戦い方が今一つ分からない状態で戦わされるわけですから」
社長のいう事はご尤もである。
そういう意味では、この中では一番私が有利だ。
Gブロックはこの中じゃ一番最後だから、他の皆さんの戦う様子を見て、少しでも研究してから自分の試合に出られる。
やっぱり、相手の実力が平均してどんなもんか、とか、気になる訳で。
うーん、やっぱりAブロックとBブロックの人はかなり不利だよなあ。
うちのメンバーの半数以上がAとBに振り分けられてしまったというのが辛い。
ここら辺はまあ、どうしようもなかったし、しょうがないんだけども。
「俺らがその分研究して、勝てばいいんだから……がんばろ」
まあ、角三君の言う通り、私たちの内の誰か一人が勝てばいいのだ。
優勝者は一人。私たちが欲しい、『異世界の魔法の部屋』は優勝賞品なのだから。
「あ、始まるっぽいよ」
お茶と焼き菓子をつまみつつ、のんびり観戦態勢に入ったように見えて、皆さんの目は真剣だ。
私もしっかり見ておかなければ。
コロシアムの円形のステージ上に、選手が集まってくる。
その数、25人。
うーん、多いのか、少ないのか。
いや、多いな。25人の乱戦とか、ちょっと想像つかない。
そして、何やらアナウンスが流れ、ルールの説明などを行っていく。
結局は戦闘不能になっておらず、場外にもならずに残った2人が第二回戦進出、と、まあ分かり切った説明なので割愛。
尚、アナウンスは魔法で拡声して行っている模様。
『それではいざ参りましょう。レディー・ファイっ!』
実況ってどこの世界でも同じなんだなあ、と思いつつ、早速始まった乱闘を見学させてもらう。
やっぱり3人はとびぬけてるね。
もう加鳥の初撃だけで半分ほど吹っ飛んだのが笑えない。
後はもう、まるで消化試合かのように針生と鈴本が撃ち漏らした人たちをざくざくやっていく。
もう、それはそれは速くて、そこから何かを学ぶという事が出来ない。
そしてあっという間に残り3人だけになると、加鳥が棄権して終了。
その間、実況も実況する暇が無かったようで、何の解説も無し。
……何の参考にもならねえーっ!
「これはひどい」
「同感ですね」
「せめて次はまともな戦い方をしてほしい」
やっぱり加鳥が異常だよなあ、あれ。
そして次はBブロック。こっちは魔法使い系2人だからそんなに何が起きたか分からなくなるほどではないはずだ。
ということで、開始直後からじっと見ていた。
しかし恐ろしい事になんと、羽ヶ崎君の初撃の『ライトニング』で残りが5人になってしまったのである。
逆に残った3人が凄い。
そしてその残った3人と羽ヶ崎君と刈谷で睨み合いが続き、遂に動いたのは騎士風の男性。
刈谷を狙って一直線に剣を構えて突っ込んでいく。そしてそれと同時に、盗賊風の女性も短剣を構えて回り込もうとする。
しかし刈谷、それらをあっさり『光球』で一掃。ひどい。
そして残ったのは3人。
刈谷でも羽ヶ崎君でもないその人は、身の丈程もある大剣を振るう歴戦の戦士、といった風貌の人。全身甲冑だから、顔が見えない。
そしてその人、刈谷に突っ込んでいき、『箱舟』で防がれると、その障壁を蹴って、羽ヶ崎君に向かって強引に方向転換。うわ、凄い。完全なる力技だ。
羽ヶ崎君は咄嗟に『アイスシールド』で防いで、『アイスビュレット』ですぐに反撃。
氷の盾ごと羽ヶ崎君を叩き切ろうとしていたその戦士さんは盾を壊したことが仇になり、見事『アイスビュレット』が命中。
命中した箇所から鎧をばきばきと凍り付かせていき、戦士さんの動きが止まった所に『レンズ』で集中させた『レーザーショット』が炸裂。
しかしこれを、強引に体を捻じって致命傷を避ける戦士さん。うわ、すげえ。
そこから幾度とない攻防が繰り広げられ、私はひたすらそれを見て研究。
観客もこれには熱狂。うーん、流石にさっきのが呆気なさ過ぎたからなあ。
そして、ついにがっつりと戦士さんの攻撃が羽ヶ崎君に決まり……羽ヶ崎君は弾き飛ばされて場外……の寸前で、自らの足を凍り付かせてステージ端に縫い止めるという所業に出た。ひえええ、あれ絶対冷たい!
しかし羽ヶ崎君はそんな状況で腹筋の力だけで起き上がりつつ、槍の様にした氷を構えて、追い打ちをかけようとした戦士さんの胸を真っ直ぐ狙った。
……戦士さんの鎧が砕け、氷の槍が戦士さんに刺さったその瞬間、戦士さんの剣が羽ヶ崎君の脚を薙いでいった。……あああああああああ。
……ということで、ここでは羽ヶ崎君が第一回戦敗退。
Bブロックは刈谷と戦士さんが勝ちあがることになりました。
うん。本日一番の見どころだったかもしれないね、今の。
そしてCブロック。社長の出番ですが、予想通り、こちらは何とも酷い事になりました。
社長、何を思ったか、いきなり『ポイズンレイン』である。
『ポイズンレイン』とは、その名の通り、毒の雨を降らせる技で……ま、つまり、一瞬で阿鼻叫喚。
咄嗟に何らかの魔法かなんかで防いだっぽい魔法使い風の人1人と、体力を削られながらもぎりぎり立っている双剣士が1人だけ残った。
そして、あっさりと双剣士の方を『ポイズンアロー』で仕留めて終了。
これはひどい。
次はDブロック。鳥海の番だね。
こちらはもう、王道ど真ん中なタンク系の戦い方をしていた。
ひたすら防いで、ひたすら当てる。
そんな感じのタフでな戦い方は、一見単純だけれど、恐ろしく濃やかで難しい。
避けるのか、いなすのか、スキルで防いでしまうのか。
そういう選択肢の選択が凄く上手いのだ、こいつ。
そしてこちらは危なげなく、残った魔法使い風の女性と、盗賊風の男性の内、強そうな盗賊風の男性の方を仕留めてゲームセット。
うーん、わざわざ弱い奴を上に残して後の戦況に有利にするという所まで気遣うあたり、にくいねえ。というか、器用だな、こいつ!
Eは……私たちの誰も出ていないのでアレだけど、まあ、見てればなんとなく分かるね。
異国人の……つまり、私達と同じ学校に居た人が奴隷にされてここに出場させられてる、ってかんじだな、っていうかんじの人が凄く強かった。
でかいハンマー振り回すだけで、相当な脅威になるんだよね。
まあ、その分懐に入られたらどうなるか分からないよね。
というか、見てるとその異国人……私たちと同じ学校に居たその人、は、戦い方が下手だ。
皆さんが上手すぎるのかもしれないけども、やっぱり挙動の一つ一つに無駄が目立つ。
あれなら私でも避けられるかもしれないね。
……いや、避けてもその余波で割れ砕けるステージに翻弄されて負ける気がする。
そしてEブロックはその人と、弱そうな駆け出し剣士っぽいおねーちゃんが第一回戦突破。
Fには角三君が出るはずなんだけど、私自身がその次のGブロックに出るので、見られませんでした。
後で聞いたところによれば、滅茶苦茶角三君、強かったらしい。
そして角三君と、もう一人、こちらは角三君に近寄らなかったために生きのこってしまった弓使いらしき女性が第一回戦突破。
そして、Gブロック。私のターンである。本気出していきましょう!




