26話
少々痛い描写があります。ご注意下さい。
装備が変わったのにメイドはメイド。メイド服着てたらメイドです。こんにちは。
何故メイド服じゃない装備に着替えないのかというと、メイド服着てないと、なんだか落ち着かないからです。
あと、意外とメイド服の防具的性能が高かったから。
実はこれ、『鑑定』してみて分かったんだけども、なんと!鈴本の着流しよりも、社長の白衣もどきよりも!高い守備力を誇るんですよ!
つまりつまり!そのメイド服と守備力の大層高いインナーを着ている私は!
鎧着てる鳥海、角三君、針生、刈谷に次ぎ、私と加鳥で同列5位の守備力を誇るのですよ!
……あれ、なんかあんまりすごくない気がしてきた。
しかもこういう言い方すると、私のメイド服の性能の良さよりも鈴本の着流しとか社長の白衣もどきの性能の悪さが際立つという不思議。
何故だ。
という事で、本日は南下開始の日です。
という訳で、朝食の他に昼食の仕込みもしておきますよっと。
朝食はパン食で行きましょうね。毎日ご飯だと朝パン派から不興を買うからね。
パンとジャムと野菜スープでいいかな。いつも通りだけどまあ、あんまり朝っぱらから凝る必要もないだろうし。
お昼はさっさと済ませたいのでおにぎりと味噌汁かなあ。具に魚焼いたのとか肉煮つけたのとか入れていく。見事にタンパク質。
味噌汁に野菜をたっぷり入れてバランスとれば大丈夫でしょう、多分。
と、まあ、そんな感じで支度してたら、いつもより早く皆さんが起きてきた。
下手するといつもは八時過ぎるんだけども、今日は全員七時に揃った。
という事で朝ごはんを食べたら出発ですよ。
「いいか、舞戸」
「攻撃には参加しない、疲れたら言う、何かあったら逃げる!」
散々耳にタコができる位聞いてるからな、もう言えるぞ。
「ケトラミ、お前も頼むぞ」
「がう」『はいはい』
(ケトラミの声が副音声で聞こえるのは私だけである。)
と、そんな感じに出発。
外に出て移動するのは二回目なのでまあ、新鮮味もあんまりないかな、とか思ったのですが、南下して二時間ぐらいで景色ががらりと変わりまして、新鮮でした。嫌な意味で。
「ここら辺は砂漠地帯みたいですね」
「だな。あちい」
何故か知らんが、大した距離でもないのにこんなに風土が違っていいのか。
日差しは真夏のコンクリートジャングルを超える強さ。
いやー、メイド服って長袖なので辛いです。
汗をかくとかそういうレベルの話じゃない。
干からびる。干からびるよこれ。
「鈴本とかまだいいじゃん?全身鎧の俺が通りますよっと」
「俺は……鳥海よりはマシかな……でも辛い」
鎧組はもっとしんどそうでした。重いし暑いし熱い。尚、角三君の『炎耐性』では、残念ながら暑さに抵抗できない模様。
「つか、地面が熱い……」
地面が熱い、とのことでケトラミさんに大丈夫?と聞いてみた所、『この位ドラゴンのブレスに比べりゃ涼しいってもんよ』との事でした。
あんたはドラゴンのブレスとやらを浴びたことがあるのか?益々ケトラミさんの実態が分からなくなってくるなあ。
「これ、ちょっと進軍は無理があるんじゃないの?」
『温冷耐性』がある羽ヶ崎君だけ、一人涼しい顔である。チクショー。
それでも砂に足を取られて歩きづらそうではあるけども。
「でもコレ進んでたら多分全員『暑さ耐性』とか付くんじゃない?」
「あー……どうする?」
「とりあえず限界まで進んでみましょう。耐えきれなくなってきたら部屋出して引きこもる事も視野に入れて」
「そうだなー……あーくそ、あちい」
「水ならいくらでも出るから言ってね。脱水症状は怖いから」
ただし水はジョウロから出る。
「……あ……光った」
光った、というのはドッグタグが、だと思う。
「あ、あーあーあー、付いたぜ『暑さ耐性』!ヒャッホオオオオウ!」
鳥海が一番乗りでした。当然である。
「うひゃー、いきなり快適……あ、舞戸さん、水と『お掃除』お願いしまーっす」
「よしきた」
ケトラミさんの上から雨のようにジョウロで水を降らせて水シャワー。そして、巨大ハタキで『お掃除』。ハタキでぽふぽふやって余分な水分も無くなる、っていうのは……どういう仕組みなのかとか、考え始めたらキリがないので止めよう。
「……あ、俺も付いた。俺も水とハタキ」
「ほいきた」
角三君も『暑さ耐性』が付いたらしい。
やっぱり鎧組は大変だって事ですなあ。
「……あーくそ、やっと付いたか。俺がラスト?」
「ラスト。まさか私より遅いとはね」
そうして砂漠を行進すること3時間で鈴本にも『暑さ耐性』が付き、これで全員に『暑さ耐性』が付きました。
……あ、羽ヶ崎君は元々『温冷耐性』が付いてたので変化なし。
「とりあえずご飯にしたいなあ……」
「そうだね、休憩にしない?」
何とか全員耐性も付いたところで、部屋を展開してご飯と休憩です。
エアコンなんていう便利なものはありませんが、羽ヶ崎君が氷魔法と風魔法で涼しくしてくれました。あー、快適ー。
『暑さ耐性』というのは、ある一定以上に暑さを感じないようになる、って感じのスキルのようで、一応暑い事は暑いんです。
只、それにサウナか五月の日溜りか、みたいな差があるわけだけどさ。
休憩もしたのでまた砂漠を行進。
道中モンスターも出ますがまあ、なんか、そんなに強くない模様。
小型犬サイズのムカデとか、買い物籠サイズの蠍とか、歩くサボテンとか、そういうのが出てくるけど、大抵前衛の一刀で切り捨てられて終わりである。
むしろ、ムカデの一部が金属でできていたため鳥海に回収されたり、蠍の毒は社長に採集されたり、サボテンの棘が意外と丈夫だったため針生に投擲武器がてら使われたり、と、補給物資扱いされていた。
可哀相。
まあ、この暑さでモンスター強かったら手に負えないわな。
夜です。
夜なんですが……晩御飯食べてから、また歩いてます。
夜の砂漠は寒い。
なので、『寒さ耐性』もつけようという……いやー、なんつーか、うん、凄いね。
寒いよー、寒いよー、眠いよー。
歩き始めて三時間程度で全員の『寒さ耐性』が(羽ヶ崎君除く)付いて、そのおかげで全員の『暑さ耐性』が『温冷耐性』にランクアップしました。
因みに羽ヶ崎君はなんで『温冷耐性』を持ってたかっていうと、火炎放射してくる小さい象みたいな奴に火吹かれて、対抗するためにゼロ距離で氷魔法をぶっぱなしたことがあったらしく……。
それを治した加鳥曰く、「うん、舞戸さんは見ない方がいいな、って感じだったよ」との事。
凍傷と火傷じゃあ、えらいことになるよな、そりゃ。
まあ焼け死ななかっただけマシなんだろうけども。
「じゃあそろそろ寝るか」
「少し高い所に部屋を出しましょう。あそこら辺でどうでしょう」
「んー、いいんじゃない?ざっと『感知』したかんじ、敵も居なさげ」
何故高い所に部屋を出すかっていうと、砂漠の死因ナンバーワンが理由です。
つまり、溺死です。
砂漠の砂って、乾きすぎてて水を弾くのですな。
そしてそんな砂の上にスコールが降ると、水は染み込まずに流れる。
流れる先は、もちろん砂丘と砂丘の間、谷になっている場所。
こういう場所が一番歩きやすいから、こういう所に人は居るわけだけども、そこには鉄砲水の如く雨水がこんにちはして、溺れ死ぬわけです。
なので、寝てる間に雨が降らんとも限らんので、高い所に部屋を出した、という訳であります。
今日は流石にケトラミさんで寝るのもアレなので、室内で寝る。
久しぶりの布団は、まあ、これはこれでいいんじゃないでしょうか。ケトラミさんには劣るけども、やっぱり布団もいいよね。暇があったらお日様に当ててるので、ふっかふかである。
よし、おやすみなさーい。
おやすみなさいしてからなんと一時間位で起こされました。
ケトラミさんの遠吠えです。
また何かあったのかなあ、と寝間着代わりのワンピースのまま外に出てみたら、既に皆さん武装して集合してました。やっべ、私武装のぶの字も無いわ。
しかし着替えてる暇も無さそうである。
眼前には、でっかい蛇。
でっかい蛇ですよ、奥さん。長すぎて電車見てる気分になるね。
……あれかね、ケトラミさんと同類の方ですかね、所謂『ユニークモンスター』。
ヘビは犬じゃないので『番犬の躾』は効かないだろうなあ。
しょうがない、これは皆さんに任せる所だな。
とりあえず『祈りの歌』と『願いの歌』を発動させて能力の底上げ。
後は皆さんに任せて私は逃げよう、と思っていたところ。
ヘビが私を見た。超見てる。
……や、やばい。蛇に睨まれた蛙ならぬメイド。
そして次の瞬間、思いっきり前衛の皆さんを無視して、後の方にいた私めがけて一瞬で加速して突っ込んできよった。
……ひええええええええ!?ナンデ!?
慌てて横に逃げようとするも、時すでに遅し。
ぱっくん。
……丸呑みされました。
とりあえず気絶しなかったのは、どっちかっていうと不幸だった気がする。
最初に、口腔内でさっさと毒にやられました。
体が動かん。つか、痛い。あいたたたたたたたたた、溶けてる溶けてる!溶けてるよ私!
あれだ、消化酵素だ、きっと。
やばいやばいやばい、冷静に考えてる場合じゃない。なんとか自力で脱出……できないよ体動かないもの!
せめてもの抵抗で『火魔法』を使ってみるけど、精々コンロの強火レベルだから、たかが知れてる。
しかもまずい事に、これがヘビを刺激してしまったらしく、一気に胃の方に持ってかれた。
胃である。
繰り返す。胃である。
既に毒と消化酵素で溶けかけてるんですが、これ以上溶けるわけです。
……これ、気絶してた方が、楽に死ねたんじゃないかなあ……。
しかし不幸にも私の意識ははっきりしちゃってるのだ。
最期の悪足掻きという事で、スキルを使いまくってみる。
寝間着代わりに来てたワンピースとか、とっくに溶けてるのでMPのブーストが効かないけど、まあやれるだけやってみましょう。
楽に死ねるといいなあ、という期待は大外れ、胃らしき場所に到達した瞬間、もうなんか色々吹っ飛んだ。
生きたまま溶かされてる訳です。
体も動かないから、『火魔法』とか『繊維錬金』とか『発酵』とか、もうありとあらゆる悪足掻きを繰り返すけれど、その間にもどんどん溶けていく。腹が溶ければ内臓が出てそれも溶ける。血がどんどん流れ出て頭は回らなくなっていく。足の感覚無いからもう足無いな、コレ。あ、手も溶けてるわ、これ。
悲鳴上げようにもその喉もやられてるかんじでね。ははは。やってらんないね、これね。うん。
もうどうしようもないから、胃壁に額を付けて最後に『共有』することにした。
こんにちは膨大な情報。そしてさようなら意識。
既に色々限界だった私の意識はそれで吹っ飛んだ。
……最初からこうしてればもうちょい楽に死ねたよなあ。あー、馬鹿した。




