18話
私だけ職業変わってなくて落ち込んだりもしたけれどまあ元気です。元気にします。元気出していきましょう。
とりあえず今日もお布団争奪戦になるのが目に見えていたので、しょうがない、寝る前ぎりぎりですがお布団を超スピードで作ります。
布は作り置きでいいから楽だね。でっかい袋を4つ縫って、それぞれに繊維をもっふもっふと詰め込んでいくとお布団の出来上がりです。
「さあ鳥海君、刈谷君、これを使いたまえ」
お布団を進呈すると、すごく有難がられた。
こっちと合流するまでは物理実験室のカーテンにくるまって寝ていたらしい。
ああ、そういうのあったね。私たちも段ボールと新聞紙と梱包材でできたお布団とか使わずにカーテン使えばよかったね。
でも今やお布団があるわけですから!お布団ですよ?お布団。
多分同じくして飛ばされた人たちの中でも最高水準の寝具を持っているんじゃなかろうか、私達。
……あ、よく考えたら、私みたいな変なスキルもってる変な人が居ない限り、お布団って夢の存在なんだよね。
そう考えるとメイドっていう職業はそんなに悪くない気がする。
だってお布団ですよ?
今日は私の分のお布団(結局なんとなく嫌で使われなかったらしい)が返ってきたのでケトラミで寝る必要は無い。
……無いんだけども。
寝る前に一応挨拶しとくか、と外に出たら、『お前また俺を布団にして寝たいんだろ?』みたいな顔して、ケトラミさん、既にスタンバっておられました。
お、おう、そう言うんならお邪魔しようかな。
またハタキでぽふぽふやって綺麗にした後、ケトラミのお腹に引っ付いて寝る。
おやすみなさーい!……ええと、さっきの言葉、撤回します。
最高水準の寝具を持っているのは私達、ではない。私、だ。
最高の寝具はお布団ではない。……ケトラミだ。
そして朝が来ました。
「ケトラミ、おはよ。今日もいい天気ですなあ」
『いいからはよ退け』みたいな顔をされたので退く。全く、ケトラミはツンデレさんだなあ。
さて、朝ごはんを作りましょう。
朝ごはんはパンにしてみました。パンと果物のジャムと、薄く切って焼いた燻製肉と、野菜スープ。
おお、こうして見るとホントに食卓レベル上がったよなあ。
感慨にふけっていると、刈谷が起きてきた。
「おお、早いね」
「おはようございます。そうですかねぇ?いつも俺はこんな感じなんですけど」
とりあえずハタキでぽふぽふやる。
「このハタキってホントに便利ですよねぇ」
「ハタキってよりかはスキルが、じゃないかな」
「あ、だったら別のハタキでも発動するんですかね?」
「……さあ?」
「巨大ハタキだったら、一度にたくさん『お掃除』できるんですかね?」
「……さあ?」
うーん、まあ気になったから実験だ。
簡単に木の枝と裂いた布でハタキを作る。サイズはちょっと大きめだ。
そしてそこに丁度よく鳥海も起きてきたので、実験台になってもらう。
「おはよーぽふぽふ」
「はよー。これは何の実験?」
「ハタキの性能実験」
ぽふぽふやってたら謎発光があったため、スキルが発動していることが分かる。
ふむ、別にハタキの種類は問わないのか。
……よし。
まだ微妙に全員揃わないので、ハタキづくりを進めるぞ。
『お掃除』で木の長い棒を作る。
……作ったはいいものの、重くて使えそうもないので、軽減の為中空構造にしてみたらうまいこと行ったのでこれで行こう。
そして先端に細長い布をくっつけて、完成。
身の丈程もある巨大ハタキです。
これでお掃除範囲がでかくなったりするだろうか?
という事で、早速実験。
「ケトラミー、お掃除するからちょっと汚れて」
『訳分かんねえ』みたいな顔をしつつもちょっとその場でゴロゴロして土まみれになってくれるケトラミさん。うーん、優しい。
「ありがとねー。では、『お掃除』!」
巨大ハタキを振ると、なんと、謎発光の面積が明らかに広い!
そして、普通のハタキだったら何回もぽふぽふしないといけない所を、なんと2、3回のぽふぽふでお掃除完了!
やっぱり作ってよかった、巨大ハタキ。
これで毎晩のケトラミさんの『お掃除』が楽になるね!
あ、因みに消費MPもちょっと割安になってるみたい。
あれかな、お掃除する面積とハタキを振る回数が消費MPに関与してるとか、そういうことかな。
巨大ハタキになった分、振る回数は少なくて済むからねえ。
さて、ついに全員起きたので朝ごはんですよ。
パン食は半数の人に好評。もう半分は朝はご飯派らしい。
因みに私は正直どっちでもいいのでどっちでもいい。
これからは交互にご飯の日とパンの日にするかな。
「今日は舞戸も外に連れていこうと思う。舞戸はとにかく俺達に付いて来れるか、モンスターとの戦闘になった時に怪我しないか、にだけ気を付けてくれ」
ご飯後、鈴本から嬉しいお言葉。遂に私も探索に連れていってもらえるのである!
「了解でございまーす」
うん。勿論戦力になろうとかいう無茶はしちゃいかん。
只でさえマイナスだったのだ。ゼロになるだけでも大変なことなのだから。
「ところで戸締りってどうするの?」
「……ああ、そうか、入ってきてほしく無い奴、っていう存在が生まれたんだったな」
まあ、無いとは思うけど、万が一にも留守中に福山君あたりが来て、色々盗まれたりすると色々めんどくさい。
「お前が留守番しないなら実験室も持ち歩くか。畑は社長に四方を囲んでもらえばいい」
あー、そっか。いやはや、何とも便利ですなあ。部屋は持ち歩くものなのだ。
「……で、お前はそれを持っていくのか」
「うん」
「普通のハタキじゃだめなのか」
「普通のハタキも持ったけどさ」
巨大ハタキって、ロマンじゃありませんこと?
なんやかんや工夫して、上手い事背中に巨大ハタキを括り付けておくことに成功。必要になったらすぐに引っ張り出せるようにくっつけた。
あれだ。雰囲気的には大剣とか、そういう感じだ。ハタキだけど。
抜くときも抜刀じゃなくて抜ハタキだけど。
「よし、じゃあ行くぞ。舞戸は絶対に無茶しないようにな」
「了解でございまーす」
部屋を仕舞って、畑の四方を岩石の壁で覆ってもらうと、私たちは出発した。
何気に皆さんのきちんとした探索に付いていくのって初めてだなあ。
うん。結構皆さん歩くの早い。
軽く走ってるぐらいの速度だもんね。
とは言っても、ケトラミさんにとっては速足位の速度なのです。
上に乗ってる私も快適な速度です。うーん、私だけこんなに快適でいいんだろうか。
「右前方500m!多分鹿か猪!数は3!」
突如、鳥海が叫んだかと思ったら、すぐに鈴本と角三君と針生が飛び出していった。
……ざ、残像が見えた気がした。何なんだあれは。あいつらホントに人間か?
そして少ししてから合図が聞こえたので全員そちらへ向かうと、既に猪2体が仕留められていた。
「一体逃がした」
「うん、まあ上々じゃないの?」
こんな会話をしながら、物理実験室を取り出して、そこに猪を放り込んでまた仕舞う。
うーん、ゲームで言うアイテム・インベントリみたいな扱いされてるぞ、物理実験室。
そんなこんなで、他にも数度、モンスターと戦闘があったが、皆さん難なくこなす。
うん。私が出る幕は始めから無かったけど、ホントに無かった。
「もうすぐ山岳地帯に入るけど、大丈夫なの?その狼」
羽ヶ崎君に言われて、以前社長から教えてもらった地図を思い出す。
うん、確かに森を抜けたら凸凹になる、って言ってたな。
あー、そっか。つまり地面の凹凸が大きくなってくるから、ケトラミさんが辛いかもしれんなあ。
「ケトラミ、地面の凹凸が大きくなるみたいだけど、大丈夫?」
『俺を誰だと思ってるんだ』みたいな、ちょっと自慢気な顔したので、大丈夫なんだろう。多分。
そして実際、ケトラミはまるで平地を歩いているかのように、岩と岩の上を優雅に闊歩していったのである。
うーん、すごい。
単純にスピードだけで考えれば、皆さんに圧勝である。
ケトラミさん、まだ本気出してないみたいだし。ケトラミさんの本気に私が対応できるようになれば、ホントに他の追随を許さぬスピードになるだろう。
勿論、戦闘力だけで行けば皆無なので、そこんとこはボロ負けである。
あれだ、やっぱりこれ、私がお荷物と化しているんだよね。
何故かっていうと、ケトラミさん、私を背中に乗せてるからこんな移動しかできない訳だけど、私が乗ってなかったならば、誰よりも早く獲物に飛びかかって噛みついて、ぶちコロコロできちゃうのである。
現在の索敵は鳥海の『感知』で行ってるけど、ケトラミさんが本気出したらもっと広い範囲を高い精度で索敵できちゃいそうだし。
なので、ケトラミを私とセットにしなければ、大幅な戦力アップが見込めたのである。
……す、救いようがねえ!
ま、一応、私がプラスになる部分も、あったのだ。一応。
「そろそろ昼飯にするか」
との事だったので、実験室をその場に展開。
全員武装を解いて寛ぎモードに入るので、私もさっさかご飯の支度をすることにする。
ケトラミにはご飯に行ってくるように指示を出す。ただし、早めに帰っておいでね、とも言っておく。いや、多分、呼べば来てくれるんだろうけどさ。
そしてご飯の支度をぱぱっとして、簡単なもの(朝大目に焼いておいたパンに焼いた肉と野菜とトマトソース挟んだだけのサンドイッチと野菜スープ)を作って出した。
ま、大したものでもないのでその間15分。
……これが、早かったらしいんだ。何やら。
皆さんで遠征していたころは、ご飯作るのに二時間半とか掛かってたらしい。
毎回が調理実習レベル。
芋の皮を剥くのに三十分、肉の解体に二時間(このせいで肉の解体は最初の一回っきりで後は燻製肉食べてたらしい)、みたいな有様だったらしく、そのせいで探索時間がごりごり削れてたんだそうな。
そりゃ、いきなりご飯ができるまでの時間が八分の一になったら、早いわな。
「しかも美味い。なんだこれは」
「うーん、僕達の苦労ってなんだったんだろうなぁ」
「本当に君らは一体何を作って食べてたんだ」
……ということで、生活面におけるサポートにおいて、私は割とプラス方向に働くことになったのです。
ケトラミさんを参戦させることによる効率アップと、どっちが優れてるかとかは考えたら負けな気がするので考えないよ。
そうして休憩は一時間程度で済み、また出発と相成った。
あ、因みに向かってるのは遺跡でっす。
鳥海の『感知』と社長の『マッピング』を照らし合わせたら、まだ探索しきれてない個所がありそうだぞ、っていう事が分かったらしいんだけど、私が待ってるという都合上、諦めて帰ってきたんだそうな。
出発して一時間しない内に、遺跡にたどり着いた。
いかにも学校の廊下です!っていうかんじの素材でできたその巨大な建物は、うん。成程。中に階段の役割を果たす何かがあってもおかしくない。
うん。社長の地図を見せてもらったけど、確かに、ここに階段があるべきなんだよね。
化学実験室は、階段のすぐ隣にあった教室なんだから。
……なんか、教室っていうか、施設っていうか、設備っていうかのバラけ方の差が大きいなあ。化学実験室と科学研究室はかなり近い方だったし、トイレもそこそこの近所らしいし。
うーん、なんなんだろうねえ。
ということで、遺跡の中に入……れません!何故でしょう!
そんなの決まってらあ、建物の中にケトラミが入れないからだよう。チクショー。




