表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/180

158話

 という事で、キャリッサちゃんの所に『奈落の灰』を届けに行きますよ。

「お邪魔します」

 いきなり『転移』で室内に入ると、前回みたいにいちゃついてる所に遭遇してしまうかもしれないので、今回は裏口の近くに移動して、そこから入ることにした。

 ちゃんと足音もさせてるし、ドアは逐一ノックして入るよ!

「ああ、マイトか」

「いらっしゃーい!」

 その甲斐あってか、特にいちゃついてる真っただ中でも無い、錦野君と、キャリッサちゃんと、シュレイラさんが出迎えてくれた。

 ……別に、錦野君の着衣に乱れがあるとか、キャリッサちゃんの顔が紅潮してるとか、シュレイラさんがつやつやしてるとか、そういうのは無いよ。うん、無い。私は見てない。


「えぇーっ!もお見つかったの!?はっやーい!」

 キャリッサちゃんが驚きつつ、社長から『奈落の灰』を受け取って眺めている。

「それで大丈夫かな?」

「うん!これで大丈夫!早速作り始めるから!」

 キャリッサちゃんは嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねるように部屋を出て行った。

 ……実験室は既に完成してるらしいね。後で見せてもらおうかな。

「さて。じゃあ、私はその間にユートを独り占めさせてもらうか」

 そして、横ではシュレイラさんがとんでもない事を言い出し、錦野君が慌てていた。

「ちょ、ちょっと、シュレイラ!」

「何、良いじゃないか、ユート。どうせキャリッサが待ち時間になるまでだ。キャリッサが戻ってきたら私も作業に入る。それまで位、いいだろう?」

「え、あ、ちょ、待っ……」

 ……あ、うん、おけい、おけい。

「シュレイラさんは『深淵の石』の加工お願いします!明日また来ますんで!それでは私達はお暇します!」

 私たちは何も見てない。見てないのでどうぞごゆっくり!




「じゃあ、これで俺達の仕事ってさ、あと教室を回収した人たちと合流する事と、生徒が残ってないか確認する事位だよね?」

 逃げるように帰って来て、晩御飯を食べながら、針生が感慨深げに言った。

 あ、尚、本日の晩御飯はチキン?グリルと、白菜っぽい奴とベーコンのミルクスープです。後ご飯とサラダ。

「そだね。合唱部の人達が生き返ったら、情報室・新聞部と、穂村君達と、演劇部と合流すれば教室が全部集まるはずだし、生徒はそれぞれが見つけてるだろうし」

「そしたら俺達帰れるのかー、うわー、なんか感慨深い」

 ……ね。よく考えたらそうだね。

 そっかあ、帰れるのかあ……。

「全然実感わかないです……」

「分かるよー。僕も実感わかないなあ」

 刈谷がぼやくと、加鳥も賛同する。

 うん、まあ、そうね。なんかいきなりだもんね。

「ま、何にせよ、合唱部の人達が生き返るの待ちだな」

 つまりは、キャリッサちゃんとシュレイラさんの作業待ちである。

 ……ああ、はるしおん・でいず。


「少し平和な日が続きますなー。しかし、いざ帰る、ってなったら、心残りが結構あるんじゃないの?」

「……俺、奈落以外も飛んでみたい」

「……俺もドラゴン一匹欲しいんだが」

「あー!俺も俺も!」

「シューラは僕のだから」

 ……大体皆さん、希望がドラゴンに集約してるのね?

「僕は4号機作ろうかなあ」

 加鳥はぶれない。

「俺は毒薬をもう少し作っておきたいですね。持って帰ってコレクションに加えます」

 ……ああ、うん、社長もぶれない。

「あっ!そっか!持って帰れるかもしれないのか!」

「どうしようかなあ、小型機なら持って帰れるかなあ」

 ……ええと、女神本に前聞いたとき、『帰っても記憶は残るが体は戻る』みたいなこと言ってた気がするけど……持って帰れるのか?

 まあ、いいか。うん。この世界を去る最後のその瞬間までロマンを追い求めたっていいよね。うん。




 なんやかや、楽しく色々と話して、晩御飯も終わり、そして、就寝。

 私はケトラミ布団様で寝るよ。当然のように!

「……あ」

『おう、どうした』

 そして、ケトラミさんに埋もれてぬくぬくしたところで、ふと、思ったのである。

「私が元の世界に帰る時、君達、どうしよう」

『私はついていきます!』

『一生ついていきます!』

『どこへでもついていきます!』

 マルベロはそう言ってくれるけど……日本で飼える最大サイズのペットはキリンだそうだから、ケトラミさんもマルベロもOKかもしれない。ハントルは言わずもがな、大丈夫だ。……今は。

 けど、グライダはそういう訳にもいかないんだよなあ……だって、下手な建物よりはでかいんだもん。

 ……それに、うん、無理だ。餌代が無理だ。

 現代日本では生きていけないだろうなあ、こいつら。


 ……というような事を、説明した。

『へええ、アンタの住んでた世界って、変わった所ねえ』

 ら、こういう感想を頂いてしまった。

「そんなに?」

『変だよ!そんなに人ばっかりで息苦しくならないの?僕は嫌なの!』

 どうも、人がいっぱい、の所が不思議らしい。

『俺も御免だな。なんだってお前らはそんなとこに住んでんだ?』

「生まれちゃったからじゃないかな」

 残念ながら、生まれてくる親も国も世界も、決められないのです。

 そう言うと、マルベロがキリッ!としてなんか言い始めた。

『住めば都という奴ですね!どんなに不思議な世界でも住んでみればきっと住み心地がいいのですよね!』

『郷に入っては郷に従えという奴ですね!その世界に生まれてしまったからにはその世界に従うものですよね!』

『井の中の蛙大海を知らずという奴ですね!他の世界を知らなかったらそりゃ、変に思いませんよね!』

 ……うん。

「最後の奴、ちょっとこっちに来なさい。一発殴らせろ、なんとなく!」

『はい!是非殴って』

 あっ、私は馬鹿だったね!ごめんね!

「やっぱり殴るの、無しで」

『ああ、酷い!』


 ……ああ、うん、まあ、で、話を戻そう。

「だからさ、君達の希望があれば、私が帰る時に、好きなエリアに連れて行くけれど」

『俺は元居た所でいい。あそこが俺の縄張りだからな』

『僕は砂漠がいいのー!』

 お、このケトラミとハントルは元居た場所をご所望か。

『アタシはどこでもいいんだけどお……んー、そおねえ、じゃ、ケトラミとハントルの間らへんにでも住もうかしらね?』

 グライダは特に住む場所のこだわりは無い模様。

『ああ?俺の近くに住むってのか?』

『なによお、悪い?いーじゃないのよう、そんな怖い顔しないの』

 ……ケトラミさんにはちょっとストレスなのかもしれないけども。

『私は、舞戸様がお帰りになられた後、新たなご主人様を探す旅に出ようと思います!』

『そして新たなご主人様の番犬になるのです!』

『厳しくて美人のご主人様がいいです!』

 マルベロはマルベロで、やっぱりぶれないね。うん。いいよ、君の好きにおし。


「ん。分かった。でも、もし変えたくなったらいつでも言ってね。まだ帰るまでにもう少しあるから」

『……おう』

 ぽふん、と、ケトラミさんの尻尾が私に乗っかって、ふこふこ、と体を撫でていく。くすぐったい。

『そっかあ、舞戸、帰っちゃうんだね。寂しいの』

 ハントルが私の首元まで這ってきて、すり寄る。すべすべする。くすぐったい。

『あ、帰る時には魔力固定化してって頂戴ね』

 グライダはドライである。うん。それは忘れずにおくけど、忘れてたら言ってね?

『短い間でしたが、お世話になった事は我々、忘れません!』

 マルベロがそう言ってもっふもっふ掛布団になってきた。暑い。

 ……なんというか、私は、この世界に来て、結構、いや、凄く、恵まれてたなあ、と思うのだ。

 元々の仲間にも恵まれたし、新しくできた仲間にも恵まれたし。

 ……うん、メイドでも、何とかなるもんだね。完璧に仲間に依存したけど……。




 気づいたら朝でした。おはようございます暑い!

 やっぱりマルベロが掛布団になってた!もう!いいかげんに!してくれ!暑い!


 暑くて目が覚めてしまったため、滅茶苦茶早起きしてしまった。

 朝ごはんは中華風のお粥と豆腐脳である。中華風朝ごはん也。

 ……なんとなく、豆腐食べたくなったんだよ、豆腐。

 ふるふるに固めてさ、そこに醤油ベースのあっさり味の餡をかけて、っていうのがさ……。

 ……食べたくなっちゃったのはしょうがないよね。




 朝ごはんも終わった所で、本日の予定を話し合う。

「とりあえずは、情報室・新聞部組と、穂村君達、あと、演劇部と体育館組……それから、糸魚川先輩にも連絡を取らないとな」

 演劇部はつい一昨日会ったばっかりだし、別に良い気もするけど、情報室・新聞部組は長らく連絡とってないし、先輩の方も心配だ。体育館組は割とちょくちょく見てる気もするし、彼らは教室集めてる訳でも無いから良い気もするけど。


 ……まあ、連絡とるだけなら簡単なもんです。『交信』の腕輪があるからね。

 とりあえず、情報室・新聞部組は月森さん宛で『交信』だ。

 ……あれ、出ないな。

 ……あれ。あれっ……。

「出ない」

「寝てるんじゃないか?月森さんだろ?」

 うん、まあ、その可能性は割とある。

 じゃあ、しょうがない、先に穂村君いこう。

 腕輪を起動すると、こっちは案外さっさと繋がった。

「あ、もしもし、穂村君?」

『おー、舞戸ちゃん、どしたの?』

「うん。そろそろ帰る目処が付いてきたんだけど、そっちの教室回収率はどんなもんですか、っていう」

 聞いてる途中で、後ろの方でガッシャンガッシャンと……なんつーか、物騒な音がした。

「……もしや、交戦中だった?」

『うん。秋庭とタマキちゃんがさー』

 ……誰だ、それ。

『あ、タマキちゃんって、玉城さんな』

 ……あーあーあーあー、思い出した。うん。あれだ。自習室で『眠り繭』になってた女子2人のうちの1人だ。秋庭君っていうのは、『眠り繭』の術者だね。うん。思い出した思い出した。

『付き合うの付き合わないので揉めてて』

 ……平和!


「うん、それはいいんだけども、教室の回収具合はどう?」

『1F北は全部とれたんじゃね?美術部の子たちが確認してくれたから多分あってんじゃねーかなー』

 あ、そうか。自習室からまっすぐ東に向かうと美術室とかにもエンカウントするのか。

「そっか。今どこにいる?」

『ん?ククルツ』

 じゃあ移動してないんだな?

「分かった。そっちに行ったらまた連絡します」

『了解ーっす!んじゃーね!』


 ということで、『交信』終了。

「穂村君達は1F北の教室全部回収して、ククルツに居るってさ」

「そうか。今糸魚川先輩に聞いてきたが、あっちももうケリがつくらしい」

 ほーほー。じゃあ万事順調ですな。……情報室・新聞部組が心配だけども。

「月森さんには後でまた掛けなおすとして、とりあえずジョージさんとこ行って来ようか」

 あ、そうだね。

 あっちも新しく教室……はもう無いと思うけど、生徒が見つかってるかもしれないし。

 ……結局、ジョージさんはどうすることにしたんだろう。

 この世界に残るんだろうか。それとも……帰るのか。

 それも聞かなきゃなあ。


「やっほい」

「あら、舞戸さん達。久しぶりね」

 相変わらず歌川さんは美人さんである。このスレンダーボディをどうやって維持しているのか教えて欲しい。

「とりあえず経過報告、というか、そろそろ帰れるよ、っていう報告に来ました」

 歌川さん他、ジョージさんとこにお世話になってる人たちとジョージさんを集めてもらって、今までのあらすじというものをざっと話す。いや、私じゃなく、鈴本が。

「……という事で、あと、情報室・新聞部組と連絡が取れれば、ほぼ完全に帰る準備が整う訳だ」

 鈴本が一通り説明し終えると、ジョージさんがやおら挙手した。

「前に聞かれてたことだが、結論が出たぜ。俺も連れてってくれ。俺も帰ることにする」

「分かりました。じゃあ、帰る時は一緒に」

 聞けば、ジョージさんはお店を畳む準備をしているらしい。

 まあ、これこのまま残していったら色々と問題があるだろうしなあ……。

「それから、まあ、見れば分かると思うが、こっちもこっちで奴隷になってた生徒数名が増えた」

 相良君が言わなくても、見れば数人、見覚えの無い顔が混じってる。

 歌川さんが社交しまくった成果なんだろう。お疲れ様です!


 それからお互い、報告と雑談を兼ねて少し話したりした。

 ダメ元で元凶についても聞いてみたけど、まあ、案の定分かる人は居なかった。当然だね!

「本当に帰る、っていう時にまた来るから、準備はしておいてね」

 とりあえず、お昼時だし、今日の所はこれで終了だ。

 準備しておくようにだけ伝えて、私たちはまた2F東に戻……らない。

「舞戸さん、今日のご飯、外食にしない?ここの町の屋台のご飯、碌に食べてないからさ」

 ……うん。そうね。そういや、私はこの町、碌に観光もしてないな。

 帰る前には色々見てから帰りたいもんである。

「よーし、じゃあ今日のお昼ご飯は屋台食べ歩きで!いっぱい食べよう!」

「わーい、いっぱい食べよう!」

 折角の異世界なんだから、食べ歩き位、してから帰っても罰は当たらないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ