153話
メイド服で泳げってか!この重い服でか!沈むわ!
……ということで、一旦戻って、濡れてもそこまで重くならない服に着替えて、もう一度戻ってきましたよっと。
そして再び着水!
……いやだなー、これ、海中からクラゲとか出てこないよなー、もう嫌だぞ、ユニークモンスター祭りは……。
「……じゃあ行ってくる。溺れたらよろしく」
「ああ、頼んだ」
「行ってらっしゃーい」
行く、っつっても、精々100mかそこらの距離だけど、泳ぐのが苦手な人間にとっては辛いもんである。
しかも、ここ、海だし!波があるし!
「……大丈夫ー?」
「……遅くないか、あいつ」
うるせえ!大きなお世話だこの野郎!
現在平泳ぎでちまちま進んでおります。
私の平泳ぎは50mプールを泳ぎ切るまでに5分弱かかるぞ。
「……なんか意外だなー、舞戸さん陸では割と速いのになー」
「あいつにも苦手な事はあるんだ。察してやれ」
うるせえよ!このオーディエンス共が!
頑張って平泳ぎする事数分、なんとかやっと、元凶に辿り着きました。
はー、これで帰れる。
そう思ったら、それは甘かったらしい。
「舞戸!避け……られないか、お前だと」
「はいい?」
鈴本の諦めたような声が聞こえたなあ、と思ったら、こう、水がだな。膨れた。
そして膨れて押し上げられて持ち上がって、足元に見えたのは……でっかい、でっかい、クラゲである。
クラゲの脚の一本にこう、下からアッパー食らいまして、吹っ飛ばされました。
「セーフ」
そして、落ちる、かと、思ったら、ぎりぎりの所で鈴本に拾ってもらえた。
「よっし、舞戸さん、元凶持ってる?」
針生がクラゲの頭にキックかますと、クラゲは海に再び沈んでいった。
「持ってるよ」
「なら、とりあえずグライダまで引き返すか。アレは放置でいいだろう」
鈴本が空気を蹴って引き返すと、後ろからにゅっ、と、クラゲの脚が伸びてきた。
「針生!パス!」
「うえええええええ!?」
そして、捕まる、という所で鈴本は私をほっぽり投げて、針生がキャッチ。
鈴本はすぐに抜刀して、クラゲ脚を切り捨てた。
「……舞戸さん、大丈夫?」
……いや、心臓が……心臓が……。
それにしても、なんなんだ、この、本日のユニークモンスター出現率は!まるで元凶がある所全てにユニークモンスターがいるみたいだよなあ……。
……あ、いや、そうなのかな?
そう、だとしたら……魔王は、何してくれてるんだ、っていう事になるね。
……或いは、もう魔王にもどうしようもないのかな?
うん、だとしたら、あの時の「頼んだ」にも納得がいくけど。
「舞戸!『転移』できるか?」
鈴本が戻ってきたけども、それを執拗にクラゲは追いかけてくる。
「うん。『転移』」
……。
「舞戸。お前、今元凶幾つ装備してる?」
「5つ!」
「それが原因だ!」
成程!名推理だ!
「じゃあちゃちゃっと『共有』して負担減らすから」
「いや、状態が変わったら『奈落の灰』にならなくなるかもしれない。……しょうがない、ちょっと待ってろ、片づけてくる」
鈴本は空気を蹴ってまた引き返していき、クラゲに向かっていく。
「グライダ、舞戸さんよろしくねー」
『はあい、了解』
そして私は海に着水ぎりぎりまで高度を下げた針生によって海に投げ込まれた。
グライダまでは……うん、まあ、50mは無いかな……。
グライダに登った頃には体力が底を尽きかけてた。水泳って意外と体力使うよね、うん……。
2人は海という地の利の悪さにも関わらず、結構強かった。
特に、針生なんて、最大の武器である影が不安定な海でよく戦えてるよなあ、と思わされる。
クラゲはそんなに苦労する敵じゃあないんだろう。
多分、海という地の利の悪さで本来戦いづらいんだろうけど、空中戦ができる二人には関係ない話なのであった。
クラゲは固くも無く、そしてそこまで攻撃力も高くないようだったけども、唯一にして最大の脅威は電撃。
このクラゲ、電気クラゲの模様。うーん、これを生け捕りにしたら加鳥が発電所として使うかもしれない……いや、だったら羽ヶ崎君を『ライトニング』発電所にした方がいいか……。
しかし、まあ、あれだ。防御面は回避に特化したような2人のことなので、それもそこまで苦労するものでも無かったらしく……割と、あっさり片付いてしまった。
ただし、針生が最後に一発、見事に電撃を食らってしまって、現在も麻痺中ではあるけども。
と、いうことで、現在グライダの上です。
針生はメイドさん人形達がこぞってもふもふすりすり『ヒール』している。
なのでダメージはそろそろ回復しそうなんだけど、麻痺は特殊な状態異常扱いなのか、なんかまだ麻痺ってる模様。
本人は動けないから寝てるんだけど、動けないなりに枕になるものを所望してきたんで、とりあえず私の膝を枕として貸してる。お腹が一番いいんだろうけど、まあ、許せ。
「それにしても、いきなりだったな」
鈴本と針生はクラゲが本日初の推定ユニークモンスターだったんだろうけどさ?
「さっきから私はこれで推定ユニークモンスターに遭遇するのは3回目だよ……」
さっきから、私は何やら不思議な位、とばっちり食ってるぞ。
ナマコに襲われるわ、溶岩削りは……そうでもないか。けど氷の竜はとばっちりだったし、その後の羽ヶ崎君の体温ドレイン攻撃も完全なとばっちりだったな!
そして体がさっきの雪国エリアで冷えた状態で更に泳いだもんだから、なんというか、消耗が……。
「それにしても、寒い」
「濡れてるからだろ。早く乾かせ」
そういや、濡れっぱなしだった。いかんいかん。濡れた衣服は気化熱で体温を奪っていくからなあ。
濡れた枕じゃ針生も寝心地が悪かろう。早く乾かそ。
……あらっ?ハタキでぽふぽふやってるのに乾きが悪いな?
……ん?
「……おい、舞戸、お前今、いくつ元凶持ってるんだ」
えーと、デフォルトの2つに、加鳥で1つ、角三君で1つ、羽ヶ崎君と刈谷ので1つ……。
「今ので6つかな」
「外せ」
「うい」
手に持っていたやつを離したら、大分寒さが和らいだ。あー、ぬくい。
『ちょっとお!なによ!力抜けるじゃないのよ!』
グライダが文句言ってるけど、とりあえず服乾かすまで待ってくれー。
「……舞戸、お前、この元凶持ってたら『転移』できないんじゃないか?」
そうね。
「そろそろお昼ご飯だし、君達も戻るでしょ?だから鈴本が持っててくれれば問題ないさ」
「……しょうがないな」
一瞬だから!ホント一瞬だから!ね!ね!
ということで、とりあえず2F北東に帰還。
針生は鈴本に預けた。膝に乗られっぱなしだとご飯作れないからね。
さて、お昼ご飯は……あ、お留守番だったメイドさん人形達がご飯を炊いておいてくれたらしい。えらい!
じゃあ丼物にするかなあ。
……うん、謎肉で牛(?)丼にしよう。
補足すると、謎肉、っていうのは名義上そう言ってるけど、一応、キメラ肉の牛部分である。
よって、多分、牛肉である。多分。
牛肉を炒め煮にしておいて、その間に全員『転移』で回収してくる。
そして、その工程で、社長と鳥海が2F東の砂漠地帯で元凶を見つけていたんで、それを回収。
……モンスターはいませんでした。よかった!
あ、それから、そこら辺の都合で、鈴本にはその間、元凶を2つ預かってもらっていた。
鈴本は一応元凶トレーニングをしていたにもかかわらず……元凶2つを装備したら、立てなくなった。
「6つ装備して動けてたって、お前、どうなってるんだ……」とは、鈴本談である。
はっはっは、微妙に優越感。
……いや、補正が無い結果がコレな訳だけどさ……。
ということで、お昼ご飯と同時に報告タイムである。
「ええと、元凶1つを見つけて、ユニークモンスター一体を倒してきたよ。もう1つ見つけたから、ご飯終ったらまた舞戸さんには来てもらわなきゃかな」
加鳥は見つけるの早いなあ。……まあ、流石のガ○ダムってことなんだろうか。
「元凶1つ見つけた。けど、ユニーク?は、いなかった。……次のはまだ見つかってない」
角三君の時はユニークモンスターに出くわさなかったんだよなあ。うーん、どうなってんだろ。
「元凶1つ見つけました。それから羽ヶ崎君が」
「氷の竜一体倒してきた」
「竜っ!?」
あ、角三君が反応した。
「氷漬けになってるけど、気になるなら見てきたら?」
「……舞戸」
角三君が目で切々と、その竜見に行きたい、ついでに、できるなら使役したい、と訴えかけてきたので、午後一番は加鳥の元凶じゃなくて、角三君の竜だね。うん。
「俺達は海でクラゲと交戦。元凶も1つ入手してきた。それで針生が麻痺したが、今は治ったみたいだな」
「残念ですねえ、どうせなら俺の薬を試して欲しかったんですが」
鈴本が報告したら社長が本気で残念そうな顔をした。
……状態異常回復薬の検証をしたかったらしいね。
「俺と鳥海は砂漠で元凶を発見しました。ユニークモンスターには遭遇していません」
社長と鳥海はケトラミさんに二人乗りで砂漠をうろうろしていたらしく、会って一番最初の反応が、「『お掃除』して!」でした。『温冷耐性』があっても限度があるし、汗と砂でえらい事になってた。
「なので、俺達と角三君はナカーマです。報告終わりっ!」
そうね。鳥海と社長ペア、それから角三君はユニークモンスターに遭遇してないもんね。
……ね。
「あのさ、もしかしてさ、全ての元凶の近くにはユニークモンスターがいて、で……ユニークモンスターに出会わない、っていうのは、さあ……単に、もう、そのエリアのユニークモンスターを倒してるから、っていう風には、考えられない?」
そうなると、納得がいくんだよ。
角三君の探索した溶岩地帯では、既にあの滅茶苦茶強かった火竜を倒してるし、砂漠地帯ではハントルのお母さん倒してるし。
……あとユニークモンスター倒してるっぽいのは、あれか。2F南と、課外学習棟……。
あ、いや、待て!
課外学習棟はグライダの居た所なわけだけど、グライダ曰く「我は所詮兄弟の中でも最弱!」だから、グライダより強くて厄介な玻璃蜘蛛がまだうじゃうじゃと……。
いる、んだろうなあ……。
「ということで、班の再編成を要求します!」
針生が元気よく言い出し、それは満場一致で可決した。
……今の所、割と、そんなに強くないモンスターに恵まれてるっぽいんだ。
つまり、クラゲは割とあっさりしてたし、ナマコもある意味一撃だったし、氷の竜は……うん、まあ、羽ヶ崎君で何とかなったし。
ただ、これからあの火竜みたいな強さの奴が出てきたら、どうだろう。
皆さん強くなってはいるけど、それでも、これからユニークモンスターとの連戦が予想されるんだから、戦力は固めていった方がいいだろう。
……いや、普通にさ、元凶みつけて、ユニークモンスターは総スルーで進んでもいいと思うんだ。
タイムアタックでは、スルーできる敵は総スルー、ってのは鉄則だし。
……ただ、まあ、キャリッサちゃんも準備にそこそこ時間はかかりそうだし、何より、既に元凶、手元に6つあるのだ。加鳥が新たに見つけたの含むと7つ。
だから、まあ、とりあえず、今手元にあるのだけで命の製造と霊薬製造をやっちゃって、他の元凶探しは後で、ってのでも、良いと思うんだ。
……そして、何より、皆さん、妙にこう……闘争心に火が付いてるらしい。
つまり、「倒しやすいユニーク見つけたら一人で屠ってみたい!」みたいな。
……。
加鳥が、ひいては、人型光学兵器が悪い!




