140話
でかい鳥はそれぞれ、黄褐色と、黒と、青緑。カラフルだね!
そんなカラフルさなので、良く目立つ。
鳥が3羽、上空にちらりと見えた時にはもう、皆さんが部屋の中から武装して出てきて臨戦態勢を取り始めた。カラフルでよかった。
「とりあえずこの人たち避難させてくる!」
「今回はお前も仕事あるからね!さっさと帰ってこい!」
お、なんだか嬉しいような怖いようなお言葉を頂きつつ、とりあえずは緊急避難って事で、体育館組の居住区に7人の女子を連れて『転移』。
「は!?こ、ここどこ!?なんでいきなり景色が」
「はいはいはい、じゃあそこら辺に居る人に話聞いといてね!必要そうなものは後で持ってくるからね!じゃあね!」
「え?ちょ、ちょっと!」
困惑している女子7人はほっといて、私は元の場所まで戻る。
「お帰り!お前、そこら辺に居るこの町の人、『転移』で避難させろ!」
そうね。こういう風に他人がいっぱいいる場所がバトルフィールドになるのは初めてだ。
人を庇いながらうまく戦えるわけも無いので、さっさと町の人達は避難させてしまうに限る。
……そもそも、この世界の人を庇わなくてもいいんじゃないか、とかは、今更もう考えないよ。
出来るなら、やる。
それに尽きるね。
『転移』の効果範囲を、自分に可能な限り広げる。
そして、その範囲の中から、この町の住人の方々だけを選んで、一緒に『転移』。
安全地帯……ってことで、とりあえず神殿の中庭に避難させた。
今の神殿なら、いきなり現れた人達に対しても酷いことしたりしないよね、っていう判断である。
そうして、私のMPを大量に消費して往復しまくった結果、なんとかバトルフィールドになっちゃいそうなエリアからは人を避難させられた……と思う。
……しかし、だな。
案の定というか、いきなり中庭に人が大量に現れて、神殿の人達はおろおろするばかりなのである。
そして、事情も分からず避難させられた人たちもおろおろ……というか、パニックになるばかり。
「伝説の怪鳥が現れたと思ったら、俺達、ここに来てて……」
「誰かが封印を解いたんだわ!」
「旧都アウブルの呪いだ!助けてくれ!」
……神官さん達が話を聞こうにも、ククルツの人たちはこんなかんじなので埒が明かない。
しょうがないから、私が神殿に簡単な事情説明をしてきた。
まあ、つまり、「いきなり巨大な鳥3羽が飛んできたと思ったら、自分達はここに来ていた」というような、他人事なかんじの説明である。
モンスターにやられたならしょうがないよね、っていうことで、神官さん達も納得して下さい。
……さて、ここで私は皆さんの所に帰ってもいいんだけれど、さっきちょっと耳に挟んだ……『旧都アウブルの呪い』とか、『誰かが封印を解いた』とか、そういうのが気になる。
どうせ私が行っても戦力にはならないのだ。ちょっとここで話を聞いていってもいいだろう。
「あの、すみません。ちょっとお伺いしたいんですけれど、さっきのあの鳥について何かご存知なんですか?」
そこら辺に居た、ちょっと研究者っぽい人に聞いてみると、怪訝そうな顔をされた。
「……ああ、他所から来てた人かい?」
「はい。観光に来ていたのですが、巻き込まれてしまって……」
咄嗟にそんなかんじの嘘を吐きつつ、困った顔をしてみればあっさり納得してくれたらしい。
いい人だなあ。
「じゃあ、知らなくても当然か。……アンタ、アーギスは知ってるかい?」
「隣町ですよね?王都の」
穂村君達が向かった町のはずだね。
「そうだ。……元々はアーギスは王都じゃなかったんだよ。アーギスが王都になる前は、アウブル、っつう町があってな、そこに王城があったのさ」
ほー。遷都した結果、アーギスが王都になった、って事ね。
「どうしてですか?疫病が流行ったとか……?」
しかし、遷都するにはそれなりの理由があるはずである。
……いや、なんとなく、察しはつくけどさ。
「それが、さっきの鳥よ。あれが15年前に現れてアウブルを壊滅させたのさ」
あ、やっぱり?
「あの怪鳥はここらに昔っから現れるらしい。封印しても封印しても、どこかで封印が解けて、その度に大災害になるのさ」
そ、そりゃ……難儀な土地柄だね。
「アウブル壊滅当時も大変だったらしいぜ?なにせ、あんなモンスターだからな。その時は勇者も居なかったし、とてもじゃねえが、太刀打ちできなかったらしい。だから、昔っからククルツで採れる『深淵の石』に怪鳥の魂を封印するのも一苦労だったんだとさ」
「そして、今回はまた封印が解けて、あの3羽の鳥が?」
「多分な。……怪鳥の魂を封印した『深淵の石』はな、5年位前までは鉱山の祠にあったんだが……落盤事故でな、埋まっちまったらしい。それで行方が分からなくなってたんだが」
ちゃんと保管しといてくれよ、と思わんでもないけども、それについてああだこうだ言ってもしょうがないもんね。
「その鳥は倒せないのですか?」
「古の勇者達にも倒せなかったって伝説がある。何でも、3羽は驚異的な体力、驚異的な回復力、驚異的な防御力を持ってるらしい。だから、傷がつかねえし、傷がついてもすぐ回復されちまうし、回復を上回る傷をつけたとしても死なねえ、ってんで、勝てねえんだそうだ」
ふむ、それで封印に乗り切った、って事か。
「『深淵の石』とはどんなものなんでしょうか?」
「ま、よく鉱山で見るよな。ガラスより透明な石だよ。何かを封印すると灰色っぽくなる。割と脆いが、強い衝撃を加えたらすぐ発動して周りのものを封印しちまうからな。厄介なんだ」
……ほう。
やたら透明な石、とな。
それで、何か封印すると灰色っぽくなる、と。
……で、それ、砕くと、封印が解けるんだね。
……。
成程。犯人は……私達だっ!ごめんなさいっ!
多分、家庭科部の人達の感情とかが封じられた石を探す過程で、『なんか入ってる』石は全部割ってたはずだから、その中にあのでっかい鳥の魂が封印されてる奴があった、って事なんだろう。
仕方なかったとはいえ、とんでもないことをしてしまったもんである。
とりあえず、勝てないなら封印するしかないわけで、そうなったら皆さんにこれを伝えなければなるまい。
慌てて戦場になっているククルツに戻ると、皆さんが戦ってらっしゃった……んだけどさ。
「あ、お帰り」
「これ、どういう状況?」
「埒が明かないのでとりあえず捕縛している所です」
でっかい鳥3羽が……土と岩で半分埋められてたり、氷漬けにされてたりしながらじたばたじたばたしていた。
なんか、シュール。
「あれは、物理的な防御力と回復力と体力は凄まじいですが、魔法への耐性はそんなに無いみたいですね」
……そうは言っても、破壊され続ける岩や氷を絶えず修復するのは大変だろう。
羽ヶ崎君も社長も、疲れ気味だ。そう長くは持たないだろう。
「あ、それなんだけどね。ククルツの人に聞いたらさ、この鳥って、家庭科部の人達が感情とか意思とか封印されてた石、あるじゃない。あれで魂を封印してたらしいよ」
それだけ言ったら、社長はすぐにピンときたらしい。
「つまり封印を解いてしまったのは俺達ですか」
「多分ね」
……いや、そもそも鉱山の中の祠なんかに鳥の魂封印した『深淵の石』を保管してなければこんな事にはならなかっただろうし、家庭科部の人達が『鉱山によくある』『厄介な』石にわざわざ強い衝撃与える、なんて馬鹿な事しなければこんな事にはならなかっただろうし。
私達の非、と言うのも微妙な所ではあるけれどね。
「それはまずいですね。……責任を持って、倒しましょう」
……だから、社長は別に変に責任を感じなくていいと思うし、普通に封印し直せばいいと思うんだけどね。
「ケトラミーっ!」
とりあえず埒が明かないんで、まずはケトラミさん、呼んだ。
『なんだよ』
ケトラミさん、呼べばすぐに来てくれるあたりがもうかっこよすぎます。
「あのでかい鳥、知り合い?」
『さあな』
「倒しちゃっても問題ない?この町とか魔王とかにも差し障り無い?」
『別に倒しちまってもいいんじゃねえの?』
第一関門、クリア。
ケトラミさんがまずい、って言うようなら倒しちゃまずいけど、心底どうでも良さそうだから、どうでもいいんだろう。多分。
「あれ、倒し方知らない?」
『俺が知るかよ』
そういえばケトラミさん、2F出身だもんね。1Fのユニーク……これ、ユニークモンスターだよね、サイズ的に……うん、この鳥と面識が無くても当然か。
『言っとくが、俺はああいう手合いと揉めんのは御免だからな』
「あ、それは分かってる。ごめんね、呼び出して。ユニークだったら倒していいのか分からなくてさ」
ケトラミさん、ユニークモンスター同士ではやっぱり争いたくないんだよね。ごめん。
『……ま、あれだ。火力が高い訳でもねえユニーク1つに苦労するんじゃ、お前のご主人様共もまだまだ雑魚ってこったな』
そう……悪態に見せかけたヒントを言い残して、ケトラミさんは、飯食ってくる、との事で、またどこかへ行ってしまった。
「け、ケトラミー!ありがとーう!」
お礼は、届いたかなぁ。……うん、きっと聞こえてるよね。
……さて。
『ユニーク3体』ではなく、『ユニーク1体』でもなく、『ユニーク1つ』。
これ、絶対、あのツンデレ狼のくれたヒントだとしか、思えない。
「……そうですか。『ユニーク1つ』」
早速、皆さんにケトラミヒントを伝えると、岩と氷で捕縛された鳥たちがじったんばったんキエーキエーやってる中で会議になった。
超シュール。
「え、じゃあ、この中でユニークなのは1体だけってこと?」
「だったら『ユニーク1体』と言うでしょうから……恐らく、あの鳥は3羽まとめて1つのユニークモンスターなんですよ」
な、なんだってーっ!?
「3羽まとめて1つのユニーク、という事は……それらしい能力がある、って事だろうな」
まあ、多分そうだろうなぁ。
少なくとも、3羽まとめて1つのユニークモンスターだとしたら、その能力が『凄い防御・体力・回復力』ってのは……ちょっと、しっくりこないぞ。
「んー、じゃ、とりあえず3羽まとめて一斉に殴る、とかしてみる?」
……ということで、鳥海の提案の元、鈴本と角三君と鳥海が、それぞれ鳥を一斉に攻撃する事になったんだけど。
「いっせーのー、せっ」
なんというか、大して変わりも無く、3人の攻撃力をもってしても、あまり大きな傷にはならず、すぐに治ってしまう。
「……ん?俺、分かっちゃったかも。ほら、こういうの、ゲームの謎解きによくあるパターンじゃん?」
鳥海が何か思いついたらしく、3人に何かごにょごにょ言うと、何やらもう一度になった模様。
「じゃ、もう一回。いっせーのー、せっ!」
そして、今度は3人が3羽の、それぞれ同じ位置……右の羽の付け根を、一斉に攻撃した。
「このごまだれ感」
「……すっきり」
「成程な。3羽の同じ位置を同時に攻撃するのが正解か」
成程、ゲームの謎解き感覚だ、こりゃ。
「じゃ、さくっと倒しちゃおっか」
皆ですっきりしている間に、鳥の傷はゆっくりと元に戻りつつある。
つまり、さくさくと3人でやっちゃわないとやれない、って事だね。
……うん。
ちょっとさ、こういう事考えるのって、良くない気もするんだけどさ。
……いいよね。
「ね、社長と羽ヶ崎君はあとどのぐらい持ちそう?」
「あと5分」
「俺は……そうですね、10分はいけそうです」
「訂正。僕も10分持たせる。……で、何?」
ふむ。羽ヶ崎君にあまり無理はさせたくないし、5分、か。
ま、十分かな。
「ちょっと皆さん、羽毛布団の為にこの鳥の胸毛を毛刈りしてください」
3体同時に毛刈りしないように気を付けながら、皆さんご協力の元、鳥の胸の羽毛……つまり、ダウンをたっぷりと収穫することができました。
いやー、流石のユニークモンスター。
ふっかふかである。ふっかふか。
綿のお布団もいいけどさ、やっぱ、羽毛布団だよね。
「じゃ、そろそろいっか」
ダウンはたっぷり採ったので、鳥3羽はさっくりと始末させてもらう。
クエー、とかなんとか、何とも気の抜けるかんじの断末魔と共に、3体の鳥は倒されたのだった。
鳥は死体になると、色が変わった。
黄褐色の鳥は金色に。黒の鳥は銀色に。そして、青緑の鳥は銅色に!
見たら、回収した羽毛も色が変わっていた。うーん、謎仕様。
……さて。この鳥の死体も解体するとして……あれっ。
「……死体が」
「え、どうなってんのこれ」
鳥の死体は次第にきらきらしながら消えていき……でっかい金塊と銀塊と銅塊……そして、よくわからん金属の塊が、残されるばかりとなってしまったのだった。
慌てて羽毛を見たら……こっちはセーフ!ちゃんと羽毛だ!繰り返す!ちゃんと羽毛だっ!
「よく分かんないけど、とりあえず俺達の布団は守られた?」
「守られた!」
この世界の謎生物の謎仕様にも負けず、私達は羽毛布団を勝ち取ったのだっ!いえーい!




