133話
おはようございます。
朝なのに全然朝な気がしない奈落クオリティ。
だって24時間ずっとこの薄明るさというか、薄暗さというかなんだもん。ここにずっといたら体内時計狂いそうだね。
人間は朝日浴びて体内時計リセットしてるとかいう説がございます。朝日だけ拝みに一回地上に『転移』してもいいかもしれないね。
朝ご飯の支度をしていた所、窓からテラさんが覗いた。
「あ、テラさん、おはよ」
「きゅー」
テラさんはきゅーきゅー鳴く。かわいい。
角三君にはちゃんと言語として聞こえるみたいだけど、私とテラさんの間にはパスが無いので全く何言ってるのか分かりません。
「あとで角三君経由してテラさんのご飯も考えるからね」
「きゅー」
うん、何言ってんのかホントにさっぱり分からん。
まあいいや。多分本当にいざとなったらケトラミさんが何とかしてくれる。
……そういや、なんでケトラミさんはグライダとパスが繋がってたんだろ。
ユニークモンスターにはユニークモンスター連絡網みたいなものがあるんだろうか。あってもおかしくない気がする。
皆さん起きてきたので朝ごはんです。
テラさんは、角三君に許可を貰ったらご飯を自力で食べに行きました。
ケトラミさんはとっくにいない。許可とか取られたことないわ。うん、私、そういう君が好きよ。
「じゃあ、今日も角三君とテラには悪いが頑張ってくれ」
「ん」
今日も今日とて角三君が飛んで奈落探索、他の人はその間暇、という。
「今日は何する?」
「ウノ?」
遊ぶ気なんだな、いや、別にいいけど。
「折角だから装備で足りないものがあったら今日作るよ。神殿から出てきた布とかもあるし」
グライダの糸が優秀すぎて霞むけど、一応神殿の中におさめられていた布とか服とかもあったんだよね。
「装備、ですか」
「んー、もし闇耐性ある装備が作れるならそういうの欲しいっすわ」
ここは奈落である。
モンスターも、それ相応のモンスターが出てくるらしい。
つまり、闇系の攻撃をしてくるんだそうで。それが魔法なら『魔法無効』だからいいんだけど、特に魔法でも無くやられると非常に厄介なんだそうだ。
……闇系の攻撃って、どういう状況になるんだろう。火とか水なら分かるけど、闇とかマジで分からん。
まあ、そういう事なので、本日は装備作成・補修をしつつ、角三君の成果を待つ、っていう事になるね。うん。
……確か、神殿から出てきた布とかの中にそういうのがあった気がするなあ。
白くて不思議な光沢がある布には『闇耐性』と『光の揺籃』がついてた。『光の揺籃』の方はどうせ刈谷以外関係ないけど、『闇耐性』の方は結構役に立ちそうだし、使って行きたいと思うよ。
それから、服。白い布に文様が織り込まれてるやつで、フードのついたマントっていうかケープっていうか、そういうものが1つ。これは『闇耐性』と『神聖加護』っていうのがついてる。
他に同じ効果のコートみたいな奴。
そして、『叡智』の飾り帯が2つ。
……ふむ。では、早速やっていこうと思います。
奈落では火が無いんだそうだ。火があると思ったら、大体それは闇関連の何かだそうで。
だから、『熱無効』とかの効果は要らない訳よ。
『熱無効』の装備は基本的に『闇耐性』に切り替えていく。つまり、角三君と鳥海のマント。
他の『熱無効』部分は大体裏地にしてしまったので、それは取り換えるのがちょっと難しい。
なので、そこら辺は一切合財作り直します。……手間だけど、しょうがないね!
けども、ケープみたいなのとコートみたいなのがあるので、それをそれぞれ刈谷と羽ヶ崎君に分配すれば、この2人の分は作らなくて済むね。……あ、いや、待て、そうすると『魔法無効』成分が……。
……『魔法無効』のインナー作るか!よし!
ああ忙しい!楽しい!死にそう!
そうして、お昼時に角三君が一旦帰ってきたのでお昼ご飯を食べ、また角三君が出て行く時に、慌ててできた装備の裾上げとかやって仕上げて、装備させてから送り出しました。
……全体的に白くなったもんだから、この奈落でも目立っていいね!
そして他の人たちもまた色々作ったりなんだり始めたらしい。
鎧とかも最強装備が魔王軍装備のままだったものね。うん。この機会だし、一式作り直してもいいかもしれんね。
しかし……うん。装備作るの、速いね。自分でもそう思う。前だったら、これ作るのに一日掛かってただろうなあ。
なんというか、大分お裁縫関係のスピード上がったよなあ……。縫うだけじゃなくて、裁つとか測るとかも速くなった気がする。
碌に見もしないで待ち針打ってもぴったりだったりするから、時々自分でも二度見してしまうよ。我ながら惚れ惚れするね!
それから、人の体型を見るだけでサイズ分かるようになった。
歌川さんのドレス作る時にはこれが役に立ったんだな。
……うん、ちょっとだけ、プライバシーの侵害かなあとか、思わんでもないけど。うん。
あと、元々割とこれは得意だったけど、平面を頭の中で立体に組み立てていくっていうのがもっと上手くなったかもしれない。パターニングとかも楽になったからね。
……そう思うと、割と『メイド長』の効果は出てるんだなあ、と改めて思う。
という事で、全員分装備もできた。……けど、これ以上奈落探索って、するの?
「地下がどうなっていたか分かりませんが、地下に教室とカウントされる設備が無かったとも限りません。今後も一通り探索を続けてみましょう。あるか分からないものを探すわけですから、悪魔の証明みたいなものですが」
……ね。
確かに、そうだ。
教室としてカウントされるものがこの奈落にあったなら、それは持っていかないといけない。
それがあるかは分からないけど、無いと言い切れない以上、探すしかない。
うーん、悪魔の証明じみてるなあ。
「ですから、暫くは奈落探索でしょうねえ」
……私は、一日一回、地上に戻ってお天道様を拝むという事を提案するぞ?
『なんか見つけたからちょっと来て』
そんなこんなでひたすらミシンになっていたら、角三君から連絡が入ったので全員でそこに向かう。
「……おー」
「すげー、これ、どうなってんの?」
……そこにあったのは、本来この、天井を岩石に覆われた奈落にあるはずの無い、青い空。
「……あ、空じゃないのか。びっくりした。この花が出してる光が天井に反射して空に見えてるんだ」
よく見てみれば、それは空ではなくて、単に青い花が出す光が、低くなっている天井に反射しているだけだった。
多分、急にここに『転移』してきたから一瞬空に見えただけで、ちゃんとこの一角の天井が低くなっているのを確認しながらここに来たならば、錯覚しなかったと思う。
けど、それだけ強い光源は、この奈落に来て初めて見た訳で、正に空と見まごうほどの迫力はあった。
凄く綺麗だ。
ぼんやりと青く光る光景は、それだけで奈落に来た甲斐があったんじゃないかと思わされるほどに綺麗だった。
普段から風情というものが微妙に欠けている皆さんもこれには見惚れるしかないようで、暫く青い花と偽物の空を眺めていた。
……そして、それ以上に。
「見つけました」
社長が指さす方を見ると、色々な色が混じりあって白く見える光が差す一角があって。
……そこには、よく分からない色の光を纏う粉末が、ほんの少しずつ、降り注いでいるのだった。
「『奈落の灰』です」
社長が『奈落の灰』を、懐から取り出した試験管の中に収めていく。
「これで霊薬が作れますね」
……遂に、か。
長かったなあ、結構。でも、これで合唱部の人も、もしかしたら。
……いや、まだ課題は山積みなんだけど、さ。
とりあえず、第一関門はこれで突破できた、と、思う。
「……それにしても、これ、どこから降ってくるんだろ」
『奈落の灰』は、いきなり虚空から零れ落ちてくるように見える。
その元の部分を触ってみても、空を切るばかりで何もない。一体どうなってるんだか。
「それより気になるのは、この花です。この花は恐らく、『碧空の種』から生える花です」
……あの、一瞬で枯れた?
よく観察してみるけど、あの一瞬で枯れた花を覚えてる訳も無いので、よく分からん。
けど、とりあえずこの花は青くて、透き通って、なんか綺麗である。うん。正に『碧空』の名にふさわしいような気がする。
「折角ですから植えてみましょうか。何事も実験です」
社長はそう言って、『碧空の種』を取り出して土に埋めた。
……。
「生えませんねえ」
「ね」
しかし、花、咲かず!それどころか、芽すら出ない!
「何か条件があるのかもしれませんね」
「ね」
……まあ、今は花より、霊薬だ。
霊薬ができたら、もっとめんどくさい……命(物理)について、に、なるね。
……しかし、ここら辺はもう考えるだけ無駄な気もするんだよなあ……。
霊薬製造班が霊薬を作り始めた。
こういう時に、化学実験室は素晴らしい施設である。
……はい。霊薬はビーカーとかフラスコとかで作られております!
「……なあ、霊薬を作るのにそれでいいのか」
「何言ってるんですか。最高の設備じゃないですか!」
「はい、じゃあ竜の血5ml」
「ホールピペットどこでしたっけ?」
……ああ、異世界チックな雰囲気0。霊薬の『霊』の字が薄くなって見える。
こんなんで果たして、人は生き返るんだろうか?
……まずは、実験、だよ、なあ……。
……うん。




