122話
現在、ケトラミさん達はどこに居るかっていうと、2F南、つまり体育館組のお引越し先に居る。
ケトラミさんが居れば他のモンスターはあんまり寄ってこないみたいだから、戦闘経験の無い体育館の人たちも安心っていう訳である。……でっかいガラス蜘蛛とでかい狼が居るのはそれはそれで安心でき無さそうな気もするけども。
「ケトラミー」
『転移』してケトラミを呼ぶと、のしのしやってきてくれた。
『どうした』
「いや、ちょっと聞きたいことがあってさ。あのさ、『共有』って、ケトラミさんがくれたじゃない」
『はあ?』
……早速話が噛み合わない。
さて。少し思い出そう。
私が『共有』を手に入れたのは峯原さんが色々やらかしてくれた時だ。
戦闘能力が無い以上、正攻法じゃあ勝てないと踏んで、とりあえず情報収集したい、と思った。そして、ケトラミさんの聴覚なら間違いなく色々聞こえてるんだろうなあ、とか思って、それを何とか傍受できないもんか、とか思ったのである。
そしてそして、ケトラミさんがおでここつんから、膨大な情報を流入をやってくれまして、そしたら私の持つ謎スキル『共有』が習得できてた、と。
ここから考えるに、ケトラミさんがなんかやってくれた可能性が非常に高い、と、思ったんだよ。
思ったんだけど……ケトラミさんは知らん、との事。
『いいか?お前は俺と契約内容決める前にぶっ倒れやがった。これはいいな?』
「はい、すみません」
『んで、俺が偶々気が向いたからお前と契約してやった。だから、あの時点でパスは俺からお前への一方通行だった。これも分かるな?』
「分かりますすみません」
『パスが通ってれば相手の感覚やらなんやら分かるっつーのも、知ってるよな?だから俺は一方通行だったパスをお前の方から通させて俺の感覚を貸してやろうとしただけだ。あのままじゃあ何にせよ契約になってなかったしな!』
……成程。私の不手際が無ければ本来あそこで『共有』とかやらなくて済んだんだな!?
「その、一方通行を両方通行にする手段ってのは……」
『ああ?んなもん、とりあえず一気にいろんなモンぶち込めば通るだろ』
ケトラミさんは割と大ざっぱなお方であるなあ。よくぞ回線よ持ちこたえた。詰まった血管の様に破裂していてもおかしくなかったんじゃないだろうか。……いや、おかしくなってないとは言い切れないんだけれども。
『で、多分その時にお前はその『共有』とやらを覚えたんじゃねえのか?』
「じゃあ、『共有』がどういうスキルなのかはご存じない、と」
『俺がそんなもん知る訳ねえだろ』
ケトラミさんは物知りだと聞いていたんだけれど、まあ、知らない物はしょうがないか。
……じゃあ、この『共有』っていうのは、『一方通行のパスから情報一気に流し込まれたら覚えた』って事になるんだけれども……今の使い方と、多分本来の使い方であろう『メイドさん人形達とスムーズな連携をとる』っていう使い方と、両方からかけ離れてないか?
……うん、これは……女神本案件かもしれないね……。
あ、女神本で思い出した。そういや、元凶を抑える術、なるものを頂いているんでした。
……ただ、それも……確か……元凶と『共有』せよ、だったよなあ……。
……やっぱり、『共有』って、おかしいと思うんだ。なんか色々これ1つで済まされ過ぎな気がするんだ。
なんなんだ、これは一体。今まで気にせず使ってたけども、そろそろ考えないといかんね。
さて、現在元凶は食卓の上で浮いてるので、また戻らねば。
あ、じゃあその前に折角だからグライダから糸貰っていこう。明日はまた網を編むぞー。
いっぱい糸貰って帰ってきました。これでいっぱい編めるね!
さて。帰ってみたら、霊薬製造班がああでもないこうでもないやってて、周りで他の人たちは先輩と相談してるみたいだった。
「こっちは何やってるの」
先輩と話してる方の様子を見てみたら、なんか設計図みたいなのを大量に書いていた。
「……トラップ?考えてる」
角三君は首をかしげつつ設計図を見ている。
「やっぱり天井から網出すんだったら落とし穴にして網置いておいた方が汎用性高いと思うんだわ。どうせ出落ちの一発ネタになるんだろうけど」
「動きが制限されるっていうメリットだけでも色々違うしな。……舞戸、例の網、いくつできてる?」
「12」
「もうちょっと作れるか?」
「え、うん」
……ええと、幾つぐらい?
「なんなら、床全部一気に外しちゃってもいいかもよ?」
「いや、だったらつり天井方式も合わせて……」
……設計図は、玉座の間の図面で、そこにどう何を仕掛けておくかを話していたらしい。
何やら胸が熱くなるね!
余談だけど、私はこういうのが大好きである。
こう、タライ落としてさ……怒ってこっち来る時に上手く誘導して硫酸の海に入れてさ……うふふふふふ。
「あ、だったら、壁をピストンみたいに押し出して穴に落とす仕組みも入れましょうか。そうしたら回避しにくいわよ?」
「いや、ある程度の身体能力があったら壁蹴って回避するぐらいしちゃうんで」
「……つくづくあんた達って、人間離れしてるわよねえ……」
そう。ネックになるのは私達異世界人の身体能力の異常さ。
私や先輩みたいに異常じゃない人もいるんだけどさ、けど、さ……大体の人たちは人間離れしてるんだよ、ね。だから、あんまりトラップしかけても、手の内がばれちゃったら二度目は引っかかってくれないだろうな、っていうのは想像がつく。
……なので、トラップも、一発勝負である。
勝負を仕掛けるのは、敵が全員この一部屋に収まった時。
その時、私の秘儀・元凶外しを行えば、一気に相手の戦力を下げることができる。その隙に全員を上手い事『転移』封じの網および糸で絡めて捕獲したい、という。
今の所、床を一気に割って、『転移』封じの網に落とす、っていう案と、天井から網を落として捕まえる、っていうのがメインのようである。
「やっぱり元から敷いてあった方が効率はいいと思うけれど……」
……そうなのよね。罠には掛かったと気づかれずに掛かっていてもらいたいものである。
だから、網という、いかにも罠、っていうかんじの物よりは、タペストリーとか、絨毯とか、そういうものに加工した『転移』封じの糸を使いたい、んだけど……。
「……善処します」
あの耐震ジェルを、織る、のかあ……できるだろうか?
さて。耐震ジェルを織るという苦行は明日に回すとして……。
元凶だよ。元凶。
勿論、皆さんには話してあるよ。皆さんの負荷になるものが1つ減っちゃうんでちょっとトレーニング的にはよろしくないんだけど勘弁してもらおう。
ということで、この光りながら浮いてるこいつと『共有』する。そして私はこいつを抑える手段を得るのだ。
というわけで、この手のひらサイズの球に頭突き。そして『共有』。
……何も、起きず。
……あれ?確かにやったよな?私、『共有』したよな?
その後数度頭突きしてみるけど、やっぱり何も起きない。あの『共有』でお馴染みの謎空間にも行かない。
なんだこれは!確かに女神本は『元凶と『共有』したら抑える方法手に入るよ』みたいなことを言ったはずだ!
……と、1人慌てていた所。
「なあ、舞戸、お前、元凶に何かしたか?」
鈴本が反応した。
「……何も起きてないと思うけど、起きたの?」
「多分。力の抜け具合が減った」
ほー?
確かに、よーく、よーく、観察してみたら……元々元凶ってよく分からない色してたからよく分からないけれど……色、褪せた?
「ちょっとごめん、これ、色変わってる?」
設計図を眺めながら首をかしげてた角三君に聞いてみると、じー、っと元凶を見て、
「ああ、うん。なんか……白っぽくなった」
うん、だよ、ねえ……。
これで、いいんだろうか?
「ちなみに角三君、元凶のかんじは変わったかい?」
「いや……特には」
……と、いう事は。
「羽ヶ崎君」
「変わった」
「社長は」
「いや、特に何か変わったようには思いませんが」
……。
うん。まあ……原因は、分かるよ。そして、多分、私にとっても、負担は減ってるんだろう、なあ。多分。
「さて。男子諸君はあっちに一部屋作ったからそこで寝なさいね」
先輩の指さす方向を見ると、なんかドアが1つ増えてた。いつの間に。
「ちなみに舞戸は私の部屋で一緒に寝ます。羨ましいでしょう!羨ましがりなさい!……ということで、舞戸、お肌の為にもそろそろ寝ない?」
ただいまの時刻、夜10時。メイド的にはまだ早いんだな、これが。
「私、今日はもう一仕事ありまして。ちょっと行ってきますので、先に寝ててください」
はい。本来なら昨日の夜あたりにもうやっておくべきだった仕事である。
……神殿への根回しです。
今回の、この国転覆作戦がどのぐらいの規模なのかは、流石に私でも想像がつく。
この規模の話ならば、神殿……もとい、勇者が関わらないとも限らない。
そして、今回、勇者まで回収できちゃえば、すごーく話は簡単になるので……今の所、一番回収の目処が立ってないのが勇者諸君なので……是非、神殿には今回の海中都市転覆の為に勇者を全放出していただきたいんだな、これが。
それから、そういうのほっといても、神殿とアリアーヌさんがどう動いてるのか、そろそろ様子を見に行った方がいいだろう、っていうのもある。
ということで、新しいメイド服の上に例の鎧を着たりして、魔王装備に着替えた。
「ということで、鈴本」
「……いや、悪い。俺はパスで。俺が行かなくても問題は無いだろう?」
……ということで、ええと、何故か、鈴本は留守番です。
なんだろ。……湯冷めするからかな?
まあ、神殿ならそこまで危険なことも無さそうだし、湯冷めを気にしないらしい針生が私の陰の中に居てくれているから大丈夫でしょう。
よし。では行ってきますよ。




