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120話

 我らが輝く作戦会議も終了したところで、今後の方針がまとまった。

 まず、私たちがやりたいことは主に2つ。

 1つは、この国を取り返そうとしている前国王の関係を潰して、この国を安定させる事。

 2つ目は、私達と同じ、異世界人を回収する事。

 そして、その為に、まず、何にも気づいていないふりをして、前国王側の計画を進めさせる。

 そうしたら最終的には、女王である糸魚川先輩を倒す、という話になるはずだ。

 その時、状況から見て、異国人……生徒たちが相手の戦力にされることが推測される。だから、そこでうまいこと回収。

 ……っていうことになるんだけど……相手が、相手なんだよね。

 つまり、異国人、異世界人、生徒……そういう言い方になる。

 そこら辺の対策として、元凶を浮かべておけばいい、という話になってくる。そうすれば敵の無力化が望めるからね。


 そして、その為に私達側は全員元凶に慣れておく必要があり……現在、全員、元凶2つ浮かべた部屋に居る。

 ……そして、なんかこう、暑苦しい事に……筋トレしてる。狭い空間で効率よく体に負荷かけようと思ったらまあ、こうなるのは仕方ないか。

 時々換気と『お掃除』してるけど、それでもなんというか……うん。まあ、しょうがないね。何も言うまい。

 そしてその間、私は何やってるかっていうと、ひたすら編み物やってる。

 そう。元凶に引き続き、今回の2つ目の鍵となるのが、グライダの糸だ。

 ほら、グライダと戦った時、私、糸で絡められたじゃない。で、その時、『転移』が発動しなかったじゃない。そして福山君は『転移』かそれに準ずるものを使ってる訳じゃない。

 という事は、グライダに『転移』封じの糸を出してもらって、それで網かなんか編んでおくなりすれば、逃げられずに捕獲できる、という訳なんですよ。

 性能実験もしてみないとここら辺は何とも言えないけれど、何なら部屋中に張り巡らせておいて『知らなかったのか?女王様からは逃げられない』をやってもいいし。

 ……私が魔王、いや、大魔王状態でやりたかったなあ……折角ならさあ……。


 そして目下、一番の問題は、この世界の現地住民の兵士の無力化、なんだけれども。

 ……元凶を使えば、異世界人の無力化にはなると思う。

 しかし、それで現地住民の無力化まで、できるのか?

 ……答えは、できない。

 気になった皆さん、実験してみたらしいんだ。

 この王城の廊下に、元凶を浮かべておいたけれども、特に誰も何か変化があるようなそぶりも見せずに普通に通り過ぎて行ったらしい。メイドさんも兵士も関係なく。

 ……となれば、異世界人だけに効く、って考えた方が妥当ではあるよね。

 そして、その場合、私達側の戦力を下げて相手の異世界人を無力化したのに相手の現地住民はぴんぴんしてる、ってなると、やばい。

 ここら辺の無力化は今の所、社長の催涙剤の類と、私の『子守唄』位かな。

 社長の方は汎用性があるけど、私の方は私が発動させるものだし、あんまり使い勝手はよくないね。

 けども、寝ちゃえば完全に無力化するから、使い分けだろうなあ、ここのところは。


 それから、トラップ。

 バトルフィールドがこの城になる、つまり、こっちの本拠地になるってんだから、それを生かす他ないよ。

 そして、そこら辺は設計こそ社長や加鳥がやってるけど、主に作るのは糸魚川先輩だ。

 ……ほら、先輩、自分の城ならいくらでも改造できるというスキルもってるからさ……。

 先輩には貴族関係の根回しとかもしてもらわないといけないし、そっちでも忙しそうだけれど、何やら今回の作戦に当たって燃えていらっしゃるらしいので、任せることになった。効率もいいし。




 という事で、ぐったりしながらもそこそこちゃんと筋トレしている皆さんを眺めつつ、私はグライダにもらった糸を編み続けている。

 この糸は服とか作る時に出してもらった糸とは別物だ。服に使った糸はシルクみたいな質感で、細さもシルク程度。それが数十本まとめて出てくるんだよね。

 しかし、こちらの『転移』封じ用の糸は……太さが毛糸ぐらいで、なんか、こう……もっとしっとり質感だね、なんか。粘つく、っていうほどじゃないんだけど……地震対策にさ、家電とかの下に敷いておくジェル状のシート、あんな感じに近いものがある。

 ……まあ、その質感のおかげで編みにくいこと編みにくいこと!ぐわーっ!


 訳分からん糸を編み続けて、網をかなりの量作ることに成功した。

 途中までは鈎針でちまちま編んでたけども、もう途中から諦めて指でざっくざっく編んだ。とりあえず人が引っかかって身動きとりにくくなったらそれでいいんだし。

 できるならこの糸でバトルフィールドに敷いておく敷物も作っておいたら便利な気がしたんだけど、これで織物できる気がしないので保留……。




 ひたすら編んだら、晩御飯の支度である。

 先輩のスキルは見事なもので、現代のキッチンが見事に再現されていた。お陰様で凄く捗る。やばい、なにこれ素敵。

 キッチンを借りる手前、というか、食材は昨日まで体育館組が居た空間に展開させてもらった講義室から持ってくるか、この国の市場に買いに行くかするよ。このお城の食材貰うのもなんか悪いし。

 ……ということで、ローズマリーさんになって市場へ買い物に行ったりしつつ、晩御飯をつくるよ。

 まずは、プリンだ。

 先輩が食べたがってるみたいだから、これは絶対に作らねばならぬ。というか、私も食べたい。

 次に、鳥のささみでチキンカツである。

 これも食べたかった……というか、市場で卵と牛乳買ってたら、なんと、この国特産らしい、ソースに似た調味料があるのを見つけてしまって……ソース使いたいんで、揚げ物にしてしまった。反省はしていない。

 それからお野菜たっぷりのミネストローネ。ミネストローネには小さい角切りにしたベーコンが入っておりましてな、これが良い香りと味だすんですよ、ええ、全く。

 それから私用にレバーペースト作った。香味野菜たっぷりめに入れて。ほら、鉄分がさ、足りないからさ……。




 メイドさん人形の中で『プチアクア』とか『プチアイス』が使える子を動員して蒸しあがったプリンを冷やしてもらっていたら、先輩が帰ってきた。本日のご公務は終了したらしい。

「舞戸っ!」

 そして私を見つけるなり、駆け寄ってきて抱きつ……こうとしてやめてくれた。うん。有難いです。はい。

「舞戸、大丈夫なの」

「先輩でそれを言われるのも何度目だろうというかんじですが大丈夫です。多少貧血気味なだけです」

 言うと、先輩はほっとしたような顔になって、そのまま目がウルウルしてきたなあと思ったら、ぐすぐす始まった。

 ……しょうがないんで、先輩の背中をぽんぽん叩きつつ先輩が落ち着くのを待つ。このエプロンはびしょびしょになる運命にあるらしいね。

「……ねえ、舞戸」

 暫くして落ち着いたらしい先輩はまだ赤い目で私の目を見据えて、力強く言葉を続けた。

「私、やるわよ。本気で、舞戸をこんな目に合わせた奴を伸すわよ。この国をぶんどろうとしてる奴らもまとめて、無血開城ならぬ無血防衛してみせるわ。私、女王だから。だから、舞戸、協力して頂戴。あ、答えはいいわ。分かってるから。ただ、あなたにはまだ言ってなかったから、言っておきたかっただけ」

 うむ、先輩も復活である。この糸魚川ニズムが無いとなんか不安になるからね。うん。

「そうと決まれば、早速行ってくるわ」

「どちらへ?」

「貴族の所よ。しっかり根回ししてくるわ!」

 う、うわあ。公務にそれは含まれてなかったのか!大変だな、女王様!

「だから舞戸!」

 先輩はびしり、と私に指を突きつけ、ぎらぎらと輝く瞳で宣言した。

「そこのプリンをしっかり冷やして待ってて頂戴!じゃあ行ってくる!フクヤマ許すまじ!」

 ……こうして、まるで台風の様に先輩は去っていってしまった。

 うん、まあ、元気になって下さったんだから、いいんだけども……最後の、なんだったのさ。




 それからエプロンと、ぐったり組を『お掃除』して綺麗にしたところで、晩御飯です。

 ……ぐったり組もとい皆さんが延々と篭ってた部屋の様子を見るに……男子校は臭い、というのは、都市伝説じゃないと思う。はい。『お掃除』したともさ。

 さて、そして食卓の上には元凶が2つ浮いているけれど、そろそろぐったり組も慣れてきたのか、普通には動けるようになってきたらしいね。

 ご飯も凄い速さで食べてくれるんでこっちも作り甲斐があるってものです。揚げた端から消えていく。

「ところで、君ら、先輩になんか言った?」

 そういや、さっき先輩がなんか言ってたのでチキンカツ揚げながら聞いてみた。

「なんか、って何。作戦についてと貴族への根回し関連と、あとお前の怪我の原因は報告したけど?」

「……フクヤマ許すまじ、って」

「あー、うん、ケトラミのあたりから全部話したんだよね、そしたら先輩ああなっちゃってさあ、あはははは」

 ……それ、もう殆ど先輩に関係ない部分じゃないのか。

「人間、分かりやすい目標があると頑張れるでしょう。それです」

 ……うん。まあ、いいや。

「舞戸、お前はケトラミの時の事はプラマイプラスぐらいに」

「ああああああ!加鳥!それ俺の!」

 なんか羽ヶ崎君が言いかけたけど、針生の悲痛な叫びに掻き消された。

「え、ごめん」

 言いながらも加鳥は食べるのを止めない。

「考えてるんだろうし、今回の事も自己責任ぐらいに考えてるんだろうけど」

「というかさっきからお前食いすぎだよ!いくつ食ったんだよ!」

「えーと、9かなあ」

「僕らはそうは思ってな……ちょっと、さっきから五月蠅い!」

「俺まだ3本!3本しか食べてないのに!この人でなし!胃袋ブラックホール!」

「え、俺まだ2……」

「俺5」

「俺は次で6ですね」

「五月蠅いっつってんだろ!黙れよお前ら!あと加鳥はもう食べるな!」

 ……本日用意したささみは50本である。私は一人平均4本を想定して揚げていました。余るであろう分はとっておいてお弁当に詰める分にしたり卵でとじてかつ丼にしたりしようと思ってたんですよ。

 ……この様子じゃ、余らないよなあ。

「ごめん、羽ヶ崎君、何て言った?」

 全く聞き取れなかったので聞いてみた所、嫌そうな顔でそっぽ向かれた。ごめん。

「僕らは福山嫌いだっていう話」

 大分簡略化されたみたいな気がするけど。

「お前が嫌いな以上に嫌いだ、って、それだけ。早く次の揚げて」

 お皿突き出されたので、揚がって油切った奴を1つ羽ヶ崎君のお皿に乗せることで返事にした。


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